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休眠機関
1674番が目覚めた。
そんな知らせを受け取ったのは、朝の定例会が終わった直後だった。
私も含めてその場にいた者は皆、驚きを隠せなかった。
どうしてそんなことになっている、ちゃんとモニターで波長を監視してなかったのか、そもそも本当に目覚めたのか等々言葉の嵐が巻き起こる。
静かに、まずは状況を確認しましょう
私はそう言い放ち、1674番の部屋へと向かった。
向かう途中で階級の低い監視員が状況を報告してくる。
目覚める波長は一切なく、突然眠りから目覚めた。
目を覚ましたが体は制御下にあるので指ひとつ、瞼ひとつ動かすことは出来ない。
ただ、意識は覚醒している。
そんな当たり前の眠たい報告だった。
部屋に入る前に1674番のデータを軽く確認すると、この者が目覚めるのは3兆と74億、8400時間後となっている。
目覚めるにしてもあまりにも早すぎる時間だった。
部屋に入り1674番を確認する。
モニターの睡眠波長はフラットで、覚醒後の意識の動きを読む青白い波長がせわしなく波打っていた。
紛れもなく覚醒、目覚めている証拠だった。
モニター横にある機械をいじり、目覚める寸前までどんな夢を見ていたのか調べる。
10分前くらいからでいいだろうと、夢を別モニターで再生。
男性が二人、映し出される。
その映像が不鮮明すぎることに違和感を覚えつつも、そのまま見続けることにした。
何かを言い争っている様子だったが、地面が揺れて二人とも崩れ落ちていく。
不意に遠くに視点が移ると、そこにはものすごい数の人々がいた。
しかしその人々も地面に崩れ落ち、誰ひとりとして立っている者はいなくなる。
それから、眩い閃光。
画面は暗くなり、それでお終い。
なるほど、1674番は世界の終わる夢を見たらしい。
普通なら世界の終わりを見ても新しい世界が始まるのだが、どうもその移行が上手くいかなかったようだ。
だからこんな目覚め方をした。
しかし、世界の終わりを夢見るものは他にも大勢いる。
何故この者だけ目覚めてしまったのか。
それが問題だ。
だがその問題は、ひとまず置いておこう。
まずは1674番をもう一度眠らせなくてはいけない。
私はそっと声をかける。
君はまだ目覚める時間じゃない、わかるね?
もう一度眠るんだ
大丈夫、世界は終わってなんかいないさ
青白い波長は少しも緩くはならない。
次はきっといい夢だ
世界は終わったりなんかしない、争いだってない
君は戦う必要のない夢を見るんだ
争い、という言葉に反応して波長がひどく乱れる。
そうか、わかった……君は目覚めたい
だけどそれには早すぎるんだ
今目覚めたら君は死んでしまう
だからまだ眠らないといけない
死ぬのが嫌なら眠るんだ
一瞬ではあるが波長が緩くなったのを私は見逃さなかった。
いい子だ、そのままお眠り
まだ君は起きる時間じゃない
眠っていていいんだよ
……おやすみ、いい夢を
青白い波長は消え、緑の波長がゆっくりと動き出す。
それは、1674番が再び眠りについたことを示していた。
私は安堵のため息をひとつついた。
そしてこの者の見始めた夢をモニターで確認する。
今度は鮮明に夢の内容が映し出されていた。
この様子だとしばらくは目覚めないだろう。
その間に何故移行が上手くいかなかったのか、原因を探らねばならない。
今日から数日はこの対応に追われることになるだろうと予測しながら、私は機械部の責任者に連絡を入れる。
チラリとモニターを確認する。
1674番は、夢の中で空に何かのカードをかざしていた。