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いらないプライド
四歳の妹は最近いつもぐずっている。
落ち込んでいる。
俺には理由がわかるけれど、母親にはわからないらしい。
今日も妹は朝からぐずっていた。
俺が小学校から帰ってきても妹はぐずっているようだった。
母親はリビングで何かをしている。
また妹を放っていることに少し苛立ちを覚えつつ、リビングを通り過ぎて子供部屋に向かう。
中に入ると妹はそこで積み木遊びをしていた。
ランドセルを置いてから妹の隣に座る。
妹は積み木を重ねて高くするわけでもなく、ただずっとそれを触るだけで満足しているようだった。
ただ声はぐずっているままで、しゃっくりも続けて聞こえてきている。
……今日は二段ベッド、どっちで寝たい?
うえがいい
妹は小さな声で答えた。
上かぁと俺は間延びした声で言う。
俺はどっちでもいいけど母親は嫌がるだろうな、と考えた。
寝るとき母さんに言ってみるよ、上でもいいよねって
うん
妹は頷くと触っていた積み木を箱に戻し始めた。
カタカタと木の触れ合う音が聞こえる。
妹は一分もかからないでその全てを綺麗に箱の中に収めた。
夜。
就寝前。
俺は二段ベッドの上にいた。
天井を見つめながら下にいる妹に声を潜めて話しかける。
明日は上で寝れるといいな
うん……
その声は少し震えていた。
母親のせいだ、と心の中で舌打ちをする。
妹におむつをはかせれば何の問題なんてないのに、それをさせないのは母親の妙なプライドが原因なことくらい俺は知っている。
四歳にもなっておむつをはかせているのは、成長が遅れているということだと思い込んでいておむつをはかせない。
そして翌日、おねしょのあとを見つけて勝手怒り狂うのだ。
また布団を洗わないといけないとか、干さないといけなくなったとか、どうしてくれるのとか、なんでいつもおねしょするのとか他にもいっぱい妹に怒りをぶつける。
俺から言わせれば、それはおむつをはかせれば解決する問題なのだ。
布団が汚されたり、洗ったり、干したりすることより、おむつをはかせて寝させることの方が嫌だなんて僕には意味が分からない。
母親の変なプライドが妹を苦しめている。
それに妹のおねしょは、あれが原因としか思えない。
あまりおねしょをしなかったのに、ここ数カ月で格段に回数が増えた。
下から妹の声が聞こえる。
おにいちゃん……ぱぱいつかえってくるの?
……母さんしだいだよ
そう言ったきり妹も俺も何も言わなくなった。
妹はきっとすぐ眠るだろう。
右に寝返りをして、考える。
母親のせいで父親が出て行った。
それなのにそれを認めようとしないし、謝ったりもしない。
母親が認めて謝ればすぐにでも父親は帰って来るはずなのに。
そしたら妹のおねしょだって減るはずだ。
反対側に寝返りをして目をきつく閉じる。
父親が帰って来て、妹のおねしょが減ることを思い描きながら眠った。