緑の星
私たちの星には、私たちしかいなかった。
何千年以上もそれは変わらなかった。
でもある日、私たちの星に変な物が落ちてきた。
私たちの間でそれがどういうものなのかという情報が巡る。
私たちは、星に発生してからずっと同じ場所から動くことが出来ない。
だからその変な物の近くにいたもの、いるものから伝言ゲームのように情報を星中にいきわたらせるしかないのだ。
私が聞いた変な物の情報は、灰色の塊の中から動くものが出てきたこと。
動くものはたくさんいて、落ちた場所からそれぞれ別の方向へ消えていったこと。
最近の情報だと長老の近くに動くものが全員集合しているようだ。
長老のいる場所は、私のいる場所からはとても遠い。
でも長老はとても背が高いから、私のいる場所からもいつも見えている。
あの場所に動くものがいるということは、私の場所まではきっと来ることがないだろうな等と思っていた。
動くものが落ちてきて、結構な時が流れた。
最近は情報が全く入って来ないので、動くものや他の私たちがどう過ごしているのかがわからない。
そもそも私たちの声が少なくなっており、随分と静かになっている。
前はなんてことない話をいつも囁いていたというのに、そんな話すら流れて来ない。
私はちょっとだけ不安な気持ちになって、長老のいる方向を眺める。
なんだか長老の周りがスッキリしているように見えた。
雲のようなものが長老の下の方から上がってきているのも見える。
いったいあちら側では何が起こっているのだろう。
動くものが落ちてきて、もっとたくさんの時が流れた。
私はまだ動くものを見ていない。
でも近くまで来ているようで、私はやっと何が起きていたのかを知る。
私の近くから悲鳴があがった。
あれはきっと東の私たちだ。
この星。
私たちの間で悲鳴を聞くことは、普通ではまず有り得ない。
悲鳴は私たちが死んでしまう時にしか聞くことはないからだ。
しかもそれは、燃えて死んでしまう時だけだった。
寿命で死んでしまう時に悲鳴はなく、ただ静かになるだけだ。
それでも燃えて死ぬなんてことは、そんなにあることではない。
暗い空から光が落ちて、私たちは燃える。
でも今、空は明るいし光だって落ちていない。
それなのに悲鳴があがっている。
瞬間。
ざわざわと情報が流れてきた。
動くものが私たちを切断している。
妙なものを持っていてそれを私たちに打ち付けている。
助けて。
助けて。
痛い。
痛い。
その情報は長いこと私に流れてきて、その後不意に静かになった。
囁き声も聞こえない。
私の周りから、私たちが消えてしまったようだ。
私は入り組んだ地形の場所にいて、動くものは中々やって来ない。
長老の下では今日も雲があがっている。
あれからもっと時間が過ぎたけれど、私の側には動くものはまだ現れていない。
そして私たちの声も、もう随分と聞いていない。