
見つけてはいけない物
彼女は眠っていた。
彼女は眠りながら、探し物の場所を特定する。
眠っている間だけ使える千里眼のようなものだ。
それを彼女の周りにいる者達は知っている。
探し物がどこにあるのか、彼女から聞き出すことが使命だからだ。
彼女の眠りを見守る者達は、互いに自分の腕時計を確認している。
長針と短針、秒針。
全てが重なり合った時、その者達はアイコンタクトをして彼女を眠りから目覚めさせた。
無理矢理に目覚めさせられた彼女は、まだ焦点の定まらない目で天井を、そして自身を覗き込む者達を認識する。
彼女はかすれた声で、その者達に告げた。
もうやめて
何を見たのか教えろ
彼女の言葉には耳を傾けることもなく、一人がそう言い放つ。
もう何人かは彼女の言葉を聞き逃さないように紙とペンを、レコーダーを、PCを緊張した面持ちで構えていた。
もう一度訊くが、何を見たのか教えろ
……わからないわ、なにも、わたしはなにもみていないわ
嘘を吐くな
千里眼の家系の君が何も見ていないわけがないだろう
さっさと教えるんだ
わたしにはそんな力はな
いい加減にしろ、君は既に何度も場所を言い当てている
今更そんな戯言が通ると思うな
彼女はきつく目を閉じて、その言葉を聞いていた。
そして自分が何を見たのかを思い出そうとする。
それでも霧がかかったように上手く思い出すことが出来ない。
そんな彼女の様子にしびれを切らした一人が、彼女の胸倉をつかんでもう一度強く早く教えろと言い放つ。
……水色の灯台、白い街
そこから少し離れた海底の……沈没船
赤い箱、その中になにか
ぽつぽつと話すものの、彼女の頭が痛みだしその先は語られない。
というよりも、彼女はそれ以外見てはいなかったから語れるはずはない。
彼女の様子からこれ以上は聞き出せないと判断し、一人がドクターを呼びつける。
ものの数分でやって来たドクターは、彼女の細い腕に慣れた手つきで注射をする。
彼女は一度だけ眉を歪ませると、そのまままた眠りについた。
今ので一つの目的地は判明しましたが、まだあと三つの場所が不明のままです
わかっている
まだ時間はある、三ヵ月もあれば全て聞き出せるだろう
それでも、もし間に合わなかったら……
間に合わせる、絶対に
これ以上余計なことを言うなら処罰の対象にすると続けて言い放ち、一人が部屋から出て行った。
残った者達も互いに顔を見合わせて、部屋から出て行った。
次に彼女が目覚めるのは、今から八回目に長針と短針、秒針が重なり合う時だ。
それまでは誰も彼女に近づくことはない。
彼女は眠っている。
眠りにつかされている。
探し物を見つけ出すまで、彼女はずっと眠りにつかされる。