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透明になりたい
透明になりたいと思ったことがある。
映画の透明人間とか、ドラマで不思議な力を持った人間が繰り広げるような内容のものではなく、本当に単純に人から認識されないだけの透明人間になりたかった。
映画やドラマだと透明人間になって悪いことをしたり、何かの陰謀に巻き込まれたりとかするのだろうし、やっぱり透明人間になったら良くないことをしてやろうとか思う人が多いのだろう。
でもあたしは、そうじゃない。
誰にも認識されない、誰にも邪魔されないし邪魔もしない。
良くないことをするつもりもない。
誰にも干渉しないし干渉されない、透明人間になりたかった。
とはいえ、あたしは、人と関わるのが苦手なわけではなく、人並みに協調性もある本当に普通の人間だ。
グループの中にいても問題を起こすタイプではなく、むしろ問題が起きたら何とかして解決しないといけないと思い動くタイプだ。
そして、そつなく何でもこなしてしまうタイプの人間だった。
平均的でかつ、なんでも一人でそれなりに出来てしまう。
つまらないタイプ、ともいえるだろう。
あたし自身、あたしみたいのが友人やグループの中にいてもそういう感想しか抱かないと思う。
人畜無害。
毒にも薬にもならない。
そこにいるだけの人間。
だからある時、あたしは思ったのだ。
いつものグループでおしゃべりをしている時に。
皆が喋っているのを適当に相槌を打ちながら聞いていて、自分が意図的に相槌を止めても会話が続いていくのを聞いて。
別にあたしは、ここに居なくてもいいのではないか、と。
あたしがグループから抜けたところで、皆は変わらずに日々を過ごしていくのだろう。
そう思うと今まで自分が歩んできた日々は、なんて退屈でつまらないものだったのだろうかとため息が出そうになった。
話を聞いているだけで特に楽しくもないのに、この場に居続ける理由ってなんなのだろうか、と。
透明になって消えてしまいたいと、そう思った。
そして透明になれたのなら、このまま世界から、社会からも消えてしまえる。
全てをそれなりにそつなくこなせるだけで、面白みも何もない日々が続くだけだ。
人と関わるのだって、面倒だ。
人との間に薄い膜が一枚あるのを感じる。
それならば自分が透明になって、その薄い膜さえも消して人との関りも断ってしまいたいとそう思ったのだ。
思っているだけで、実際に透明になどなれはしないのだけど。
社会から消えることを目的とするのならば、別に透明にならなくてもいいじゃないかと誰かは言うだろう。
でもあたしは、社会から消えるだけではなく人と関わりたくないのだ。
それを悲しいとか寂しいとか、あたしは思わない。
これからさき、誰ともかかわることができないよと言われてもあたしは……。
それでも透明人間になりたいと、そう思った。
もちろん、透明人間になるなんて不可能だけれど。