セルフィーユ
珍しくあの子が私を呼んだかと思えば、間引きをしてほしいという呆れた理由だった。
確かに私の家は裏庭があって、その一部分は畑になっている。
おばあちゃんやお母さん、弟たちも小さいときは一緒に土いじりをしたものだ。
季節の野菜や、お母さんが急にやる気を出したハーブ等いろいろと蒔いて、育てた。
そして目が出て葉が少し成長した頃には、それらが成長しやすいように間引く。
野菜の間引きは結構簡単だったように思うのは、母さんが購入して考えなしにパラパラと蒔いたハーブのせいだろう。
母さん曰く、大丈夫、発芽率低いやつだから沢山蒔いてもオッケーよとケタケタ笑いながら言っていた。
数日後にあり得ないくらいの発芽率の良さを見せたハーブをさっさと間引いたことは苦い思い出だ。
正直、もうあんな間引きはしたくないと心の底から思ったし、それは弟たちだって同じだっただろう。
そう思いたいし、そう思っている。
話を戻すが、あの子が私を呼んだのは先月室内で育て始めたハーブの間引きをしたいからだそうだ。
あの子は急に思い立って縦十五センチ、横二十五センチ、高さ十三センチの小さなプランターを購入しハーブを種から育て始めたそうだ。
そしてそのハーブが思いのほか育ってきてしまって困っていると相談されたので、間引きをしたらと言ったら間引きってなぁにと返されてしまった始末である。
それから色々と説明をしたもののイマイチ理解が追い付かないようで、私はあの子の家に出向くことになってしまった。
あの子の家につき、例のプランターを見たところで私は絶句した。
……なにこれ
ん?
今日、あなたに間引いてもらうハーブだよ
いや、そうじゃなくてね……
プランターに、もさもさと生い茂っているこの小さな緑の大群には見覚えがある。
少し顔が引きつる。
なんかさー、買った時に入ってた種をね
多いかなーって思ったんだけど、ぜーんぶ蒔いたらそうなっちゃった
ははっと悪気もなく笑う。
あのね、まず第一にこのプランターのサイズで種を全部使うとかありえないから
それからこのサイズになるまで間引かなかったのもありえない、と心の中で付け加えておく。
はぁ、とわざと大きくため息を吐いてみせる。
そしてチラリとあの子を一瞥して、間引き料とるからねと告げると心外だという声をあげる。
嫌だったらこれからは軽い気持ちで植物を育てないことね
うう~……そんなぁ
ほら、間引きかた教えてあげるから
これから先、また同じようなことになる前に自分で間引けるようになっておきなよ
でも土……触りたくないしさぁ
なら植物を金輪際買うなし
ピシャリと言い付け、プランターのハーブにそっと触れる。
育ちすぎだし、窮屈そうだななんて思いながら、さっさと間引こうと心に決めて作業に取り掛かる準備をする。
後ろからはまだあの子のぶつぶつ言う声が聞こえるけれど、そんなことはお構いなしに続ける。
プランターのハーブをもう一度確認する。
間違いなく、お母さんが大雑把に蒔いて大変なことになったあのハーブだった。
あの子の思考回路が若干お母さんに似ていることに呆れつつ、私はガーデニング用の手袋を装着する。
苦い思い出と共に、あの頃のなつかしさがよみがえってきて自然と笑みがこぼれた。