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瓶詰の魂
深く眠っていると、時々自分の体ごとどこかへ連れ去られている感覚に襲われる。
眠っているのにどうしてそんな感覚があるのか、私にはわからなかった。
そもそも眠っている時、夢を見ていても感覚まで入って来ることはないではないか。
ぼんやりと場面場面を歩き回って意味のない場所で終わる。
何か話をしている時もあれば、何も話さないでその場にいるだけの時もある。
誰かと一緒にいる時、いない時、色が塗られている時、色のない時。
私に限らず人の見る夢はそんなものだろうと、大して興味もなかった。
夢はあくまでも夢であり、眠っている時に脳が記憶を整理しているから現れるものだ。
私はそう認識している。
だが、それでもあの奇妙な連れ去られる感覚が夢の中で起きるのだ。
そんなことはあり得ない事なのに、忘れた頃にその感覚がやってくる。
思えば、昨日もそうだった。
夢の内容は覚えていなくとも、その感覚だけは起きた後もずっと残り続けている。
同僚や友人に話してみると一様に病院で検査したほうがいいのではないかと言われるのだが、私は毎年の健康診断で引っかかる項目などはない。
それでも心配になった私は、仕事を休み脳のCTを撮りに行ったこともある。
もちろん、異常はなしである。
脳に問題がないのならと、私はその感覚を放っておくことにした。
思えば、それが間違いだったわけなのだが。
今となっては手遅れだ。
言うだけ、思うだけ、無駄である。
結論から言うと、あの感覚は『魂』というものが体の外に抜け出す感覚だった。
正直、魂など信じていなかったので、抜け出してしまった時は驚きを隠せなかった。
そしてもうひとつ、私を驚かせたことがある。
私の魂は自ら抜け出したのではなく、ある人物によって抜き取られたということだ。
会社で出世争いをしていた人物のひとりである。
しかもこともあろうにその人物は、私の魂を抜き取ったあと瓶の中に閉じ込めた。
しかもよく見るとジャムに使われている小さい瓶で、私の魂のサイズと一致している。
私はおかげで動くことが出来ないし、体に戻ることも出来ない。
魂を抜き取られた体は植物状態になっているようで、発見された後からずっと病院のベッドの上で静かに横たわっている。
私がなぜそれを知っているのかというと、私を閉じ込めた人物が、瓶詰の私を持って
ちょくちょく見舞いに行くからである。
白々しい挨拶をして部屋に横たわる私とその人物だけになった時、鞄の中から私を取り出すのだ。
最初の頃こそ私は何とか瓶から抜け出して体に戻ろうと努力をしたが、それが何回も何年も続くと虚しくなり戻ることを諦めた。
それからも時は流れ続け、あの人物はやがて年老いて死んだ。
あの人物の家族は大いに悲しんでいた。
外面だけは良かったので、周りからは信頼も厚く『いいひと』認定されていたのだから、当然と言えば当然である。
しかしあの人物は他人の体から魂を抜き取って出世した、とんでもない人物である。
私はというと、あの人物が私の見舞いに行かなくなってから天井裏に移動させられてしまった。
そこには私以外の瓶に詰められた魂がいくつもあった。
まるで魂のコレクション部屋のようだった。
私とその部屋の魂たちは、あの人物が亡くなってからも屋根裏に置かれたままになっている。
あれから何十年も経ったが、私はまだ屋根裏で瓶の中にいる。