
ヴューポイント
僕は全くうまく動いていない頭で、ウラン235の連鎖反応について考えていた。
中性子を飲み込んだ原子核がちぎれて分裂し、そして新たに中性子を吐き出す。
これを急速に繰り返すことで核爆弾になるらしいが、僕が考えているのはそんなことではなくて何故中性子を吐き出すのかということだった。
僕の良くない頭で考えると、その行為は核の中に居場所がなくなってしまった中性子が原子核によって外に追い出されている様子で再生される。
僕にとってウランの連鎖反応は居場所を奪われる中性子と居場所を奪う原子核という構図であった。
はあー、君はさ、本当にそういうなんというか暗い考え方するの好きだよね
いや、暗い考えって程じゃないと思うんだけど……
いや、十分暗いよってか暗くないと思ってるのがすごいよ
ウランの連鎖反応なんて、ただの現象なんだからさ
そこまで考えなくてよくない?
喫茶店で彼女にその話をしたら、彼女も同僚と同じようにははぁーと似たような反応を見せる。
あなたって本当にちょっと複雑な考え方するのね
そう言って先程注文した二杯目のカプチーノを一口。
ね、その中性子はさ、追い出されたんじゃなくて
自ら出てきたんじゃないかな?
原子核によって居場所がなくなったんじゃなくて
きっと新しい場所に行きたいって思ったから出てきたんだよ
ふふっと彼女は軽く笑って見せる。
僕はずっと中性子は追い出されたのだと想像していたが、彼女の考えは全く違っていた。
追い出されたのではなく、自ら出てきたのだと。
それは、ちょっとの違いに見えるし、少し考え方を変えれば出てくるはずのものだった。
でも僕にはそれは見えなかったが、彼女には見えた。
僕がコインを裏側から見ていたのに対して、彼女は表側から見ていたのだ。
その違いは大きい。
それでいてその彼女の言葉で、僕はなぜだかとても救われた気持ちになった。
ところで……
あなたってホットで頼んだコーヒーを冷ましてから飲むタイプなの?
え?
彼女は視線を僕の目の前にあるコーヒーカップに一度移し、また僕に戻す。
それでやっと僕は自分がまだコーヒーを一口も飲んでいないことに気がついた。
……
一口飲んだけれど、温い。
冷め切る前の微妙な温度になってしまっている。
ふふっ……なにその顔
冷めてて酸味でも出ちゃってた?
彼女がクスクスと笑う。
僕は少し恥ずかしさを感じたけれど、嫌な感じはしなかった。