チュロス
クラスメイト達がお昼休みにチョコレートのついた細長いプレッツェルをシェアしながら食べている。
俺はご飯を食べた後でお菓子を食べるという思考回路がよくわからないので、そんなことはしないが頬杖をつきながらその様子を眺めていた。
窓際の席で心地よい日差しが降りそそいでいる。
自分の体が、内側と外側からぽかぽかと暖かくなっていくのを感じていた。
あっれぇー、あんたなんでそっちの方持ってきたの?
やっぱ定番はチョコレートのやつっしょ!
いやあ、チョコレートのだけだと飽きちゃうかなーって思ってさ
そう言ってまだ開封されていない箱をグループの面々に振ってみせる。
振りながらチョコレートっていうより甘いやつだけだとさぁ、と聞こえてきたが手に持っているやつはチョコレートこそついていないが甘いやつだった。
サラダ味ではなくバターローストを選ぶあたり、女子ってかんじだよなあと思う。
今では女子とか男子とか性別によってそれを選びがちだとか、そういう傾向があると言うと炎上するので絶対に口には出さない。
とりあえずあのクラスメイトには、バターロースト味は甘いに入らないということが分かった。
分かったところで、という話しではあるが。
俺は、目を細めておそってきた欠伸をそのまま表に出す。
でもさー、あれだよね
なんで今日ってこの日なんだろうね?
え、どゆこと?
だからさー、別に細くて長ければこれじゃなくてもよくない?
ほら、競合他社の内側にチョコたっぷり入ってるやつの日でもいいわけじゃん?
言われてみれば確かに!
ほんとだ!
ワイワイと盛り上がりながらシェアしているそれをグループの面々に杖のように向けて話す。
それをグループの全員が同じようにしているのだから、俺は合わせ鏡かよと心の中で呟いた。
合わせ鏡グループの一人が言う。
それならさー、あたしはチュロスの日がいいな~
あ、いいね
私もチュロスの日が良いー、シナモンたっぶりのやーつ!
そうかあ、それなら私はチョコ味で砂糖たっぷりのチュロスがいいな
ふふ……二人とも甘いわね!
あたしはダブルで!
両方のチュロスをいただくわ!
何キャラ?
てかダブルってずるくない?
ずるくないよ!
だって両方食べたいじゃん!
キャイキャイとその声が教室に反響している。
俺はチュロスがどうこの辺りから机に突っ伏して窓の方に顔を向けていた。
クラスメイト達、主にお菓子を食べてくだらない話をしているグループの声を聞きながら目を閉じる。
こと学校に関しては、雑音があった方が眠りやすい。
声が遠ざかっていくのを感じながら、俺は眠りに落ちた。
午後一番の授業。
数学先生がやって来た時に俺は目を覚ました。
ぼんやりとした頭で頭を持ち上げて、腕を机の下におろす。
……?
なぜだか机の上には細長いお菓子たちが、封を開けているものも開けていないものも合わせて五個くらい置かれている。
食べた覚えがなさ過ぎてぼけっとしていると、先生から授業を始めるから机の上にはお菓子は置かないようにとクラス全員に注意がはいる。
なんとなく周りを見渡してみる。
机の上にお菓子が置かれているのは俺だけだった。
ただ、ある女子生徒たちの机には、コンビニエンスストアでよく見かける何とも言えない楕円形のチュロスが置かれていた。