スピーク レディリー

今日の晩御飯が食卓に並べられた時、妹が激怒した。

なに、この草食動物みたいな食卓は？

あたし絶賛成長期の中学生なんですけど？

いいのよ、成長期でもちゃんと量を食べていれば問題ないわ

それに文句を言っているのはあなただけよ

さ、ちゃんと座って食べなさい

俺はまあ、なんとなく文句を言うのも今更馬鹿らしいと思ったので口にはしていないだけで、妹と同じようにこの晩御飯に文句はある。

父親は出張で居ないから母親と妹と三人で食卓を囲んでいるわけだが、父親がここに居てもやはり口をつぐむのだろう。

作ってもらえてるだけマシ、そういうことだ。

しかしまあ、妹も草食動物のような食卓とはよく言ったものだ。

全くもってその通りなのだから面白い。

母親はどうせあれだ。

テレビで見た菜食主義者のまねごとをしたいのだろう。

肉がひとつもない、葉野菜や根菜等が並んでいる皿に俺はそっと箸を伸ばす。

その間にも母親と妹は言い争いをしていた。

だいたい何で急にこんな食事になるのよ！

ベジタリアンの方が長生きするらしいし

それにお肉って地球の環境に悪いらしいじゃない

だからこれから家ではお肉を買わないし、食卓に出さないことにしたの

はぁ？

あ、でもそうね

大豆で出来たお肉くらいは出すかもしれないわね

妹が先程よりも強い『はぁ？』を出したが、母親は気にせずに続ける。

それにいいじゃない、野菜、健康的で

中学生なら体型も気になるお年頃でしょう？

それ、ぜんっぜん関係ないから！

成長期に必要なエネルギー量が野菜だけで摂れるって思ってるわけ？

そもそも栄養だって

文句ばかり言うんじゃありません！

さっきも言ったけど、家では今後一切お肉は出しません！

文句があるなら自分で稼いで、料理を作ってから言いなさい！

母親の言うことも一理あるけど、中学生に向かってそれはないよなあと思いながら野菜を咀嚼する。

味が薄いしなんだか苦みもあるしで、あまり美味しくない。

これは夜中に腹が減るのを覚悟しなければならない。

ほら、お兄ちゃんは文句ひとつ言わずに食べてるじゃない

あなたもさっさと食べて、お風呂に入って宿題でもしてなさい

お兄ちゃんさぁ……その顔、美味しいと思って食べてないでしょ

だいたいさ、お母さんは何でもかんでも影響を受けすぎなのよ

自分でちゃんと考えてからこの献立にしたわけ？

絶対違うよね

テレビで今流行のビーガンについて～とかそういう特集でも見たんでしょ？

雑誌でも最近多いしさ

でもね、あたしに言わせればそんなの偽善よ！

だってこの葉野菜を育てるためにはどれだけの昆虫が犠牲になってるのか考えたことある？

それにお肉が悪みたいにいってるけどね

もし仮に全人類がお肉を食べなくなったら、食べられるために育てられていた豚や牛、鳥とかはどうなるわけ？

殺処分？

動物愛護とかうたっているわりにその殺処分は良いわけね？

自然界に目を向けてみれば、草食動物しかいなくなった島なんかバランスが崩れてるのわかるじゃない！

草食動物、菜食主義、別に消えてなくなれって言ってるわけじゃないけど

そのポリシーは自分だけで守っていてくださいって言ってるの！

押し付けないで！

肉食べさせろっ！

妹の弾丸トークが終わった時、俺は箸を置いた。

美味しくないものを食べ続けるのは苦痛である。

とりあえず主食である米と味噌汁、小鉢に出されたおひたしだけは完食した。

他はもう食べる気がないので、食器をシンクに持っていく。

一足先にお風呂に入るためにリビングから抜ける時、ぽつりとつぶやいた。

まあ……俺は野菜嫌いってわけじゃないけどさ

菜食主義者にはなれないから、やっぱ肉は食べたいよな

この言葉のせいで妹と母親の言い争いに更なる火がついたことは、言うまでもない。