くうきぼし
この星は植物が育たない。
何百年か前に最後の植物が枯れた。
それ以降ずっと、この星に植物は存在しない。
種や苗を他の星から持ってきたり、もしくは大きな成長しきっている丈夫な木を持ってきて植えたりした。
でもそのどれもが一週間もたたないうちに、茶色く枯れてしまう。
内側から水分が消えていくその様子を僕たちは何度も見てきた。
それなのに懲りずにこの星のお偉いさんたちは、植樹を推奨している。
お偉いさんたちは、自分たちの目で水分が消えて命が尽きていく植物を見たことがないから推奨しているのだと思う。
あの人たちは何もしない。
動くのはそれよりもずっと下の僕たちだ。
この星の土壌は、もう再生不可なことを何度も伝えているというのに、あの人たちは耳を貸さない。
僕たちは新しい植物が送られてくるままに、土に植えるか水耕で栽培する。
もちろんどれもが枯れる。
育ちはしない。
この星は、土も水も、光すら植物に味方しない。
持ち込まれた植物には憐みすら覚える。
枯れるために生まれてきたわけではないだろう、と。
このような考えを持っている者は、僕の職場では少なくない。
だから近頃は、送りつけられてきたら即座にもとの星に送り返している。
もちろん、お偉いさんたちはお怒りになるが知ったことではない。
職を失うことになっても構わないと僕は思っていたし、なんなら星から出ていく準備もしていた。
上から解雇の通達が来るまで僕は植物を返送し続けた。
そして遂に解雇通知が届く。
僕はその日に生まれ育った星から去った。
僕の新しく移住した星は、生まれ育った星とは何もかもが違った。
植物はその辺にこんもりと生い茂っているし、水も土も光も全てが生きている感じがした。
僕はそれを感じ取ることができただけで、星を出てきて良かったと思えた。
数年後、僕の耳にある噂が飛び込んで来た。
僕の育った星が完全に腐敗して生物が死んだ、と。
そして噂を聞いているうちにあの星で植物が育たなくなった原因は、土でも水でも光でもなく全く別のものだったのではないかと。
そしてそれは、噂を流していた者の最後の言葉で確信に変わった。
あの星で植物が育たない、そして生物が死んだ原因。
それは【空気】だった。