詩 一篇

「真夜中の蜜柑」

くたびれた月が中天に来るころ
台所で蜜柑を食べる
あかりは豆電球で薄暗い
床に伸びる影はゆらゆら揺れて
ポツ、と輪から外れた子供のようだ

母の車椅子にすわる
ひと房口にする
匂いが立ち上り
そして
全てのいない存在が さわさわとあつまる
鼻を鳴らして嗅ぎに来る気配がまとわりつく

その気配が嗅ぎにくるのは
柑橘の爽やかな匂いでなく
乾いているのにじっとりしている
私のぽつねんとした、ひとりぼっち、だ
そして母の孤独の匂いだ

今夜も蜜柑を食べる
母の車椅子に座って


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