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中途障害を負うということ〜高山善廣さんの勇姿を見て

Xで高山善廣さんの興行が話題になっていたので、Abemaの無料配信で見た。

9月3日に後楽園ホールで行われた「TAKAYAMANIA  EMPIRE  3」である。

往年の高山善廣さん


高山さんは7年4か月前の試合で頸髄完全損傷になり、首から下が不随になってしまった。公の場に姿を現わすのはそのとき以来らしい。

7年も姿を見せていなかったとは思わなかった。
私は高山さんの闘病姿をテレビで見たような気がしていたのだが、そうしたドキュメンタリーがあったかもしれない。

プロレスを生で見たことがない私も、ある程度有名な選手は知っていて、なぜか獣神サンダー・ライガーが好きだった(キャラがコミカルだったからかも)。

1980年生まれの私は、世代的には橋本真也の世代かもしれない。
古舘伊知郎さんのプロレス実況ネタや、プロレス好きの芸人である神奈月さんやイジリー岡田さんを通して選手にも親しんでいた。

私の中で高山さんは、バラエティー番組にもよく出ていて、無茶振りも嫌がらず対応する気さくな人というイメージだった。
何でもこなすマルチタレントなプロレスラーで、大河ドラマ「功名が辻」で蜂須賀小六を演じたこともある。
もっともこの小六は同じ大河の「秀吉」で大仁田厚が演じた小六に比べるとかなり演技力に難があった。本人もひどい大根役者だと自認したらしい(Wikipediaに書いてあった)。

幅広く活躍していた高山さんのリングでの勇姿は知らずにきたのだが、障害を負ってしまった知らせはショックだった。

私は人生の途中で障害を負うことの意味を考える。

テレビで人気だった料理研究家のケンタロウさんもバイク事故で重い障害を負い、テレビから姿を消してしまった。

障害者には二通りある。

身体障害でも、生まれながらの障害者である乙武洋匡さんと、酔って線路から転落して目が覚めたら四肢切断になっていた男性とはまったく違う。

後者の場合は障害を負う前の人生の記憶があるからどうしても比べてしまうし、障害の受容に時間がかかる。

なんでこんな目に……

中途障害者でそう思わない人はいないだろう。

私の話をすれば、通院を開始したのは19歳だが、初めて精神科に飛び込んだのは高1だったし、精神の症状が出始めたのは中2ごろだった。電車の中で自分の身体が臭って感じられるとか、周りの視線が異常に気になるといった統合失調症的な症状だった。

思春期から病気との付き合いが始まっているので、病気以前の健康だった人生と比べることがほとんどない。

障害は人生を共に歩む相棒と捉え、精神薬もサプリやメガネのような感覚で使っている。

しかし、私のようなある意味能天気な(?)人間とは別に、中途障害ならではの苦しみを味わっていた人も知っている。

精神科病院で出会った中年男性だ。大学卒業して就職し、結婚し子供を育て、働きざかりの年齢。

なのに、生真面目な性格と過酷な労働環境のせいで鬱を発症してしまった。

家族に迷惑をかけてしまって……

と落ち込む彼の姿はよく覚えている。

障害の受容には多大な時間がかかる。よく「障害は個性」などと美化する人がいるが、本人が言うならともかく、部外者が勝手に障害の価値を決めるべきではない。

受容までには誰しも葛藤がある。過去は変えられない、それは不変の真理なのだが、いまの自分でこれからの人生をどう実りあるものにしていくか、そこに目を向けるまでには時間がかかる。

それは長いトンネルを歩くような孤独な作業である。
何かをきっかけに一夜で考えが変わる人もいれば、だんだんと障害のある日常に馴染んでいく人もいるだろう。

障害者になるとできることが限られてくる。そして、「できて当たり前」のハードルが下がる。その結果、日常にこぼれ落ちているたくさんの幸せに気付けることはあると思う。

高山さんのイベントが素晴らしいと思ったのは、そこにいる誰一人高山さんを障害者だとみなしていなかったということ。

鈴木みのるさんも対戦相手として高山さんにリスペクトを尽くしていたし、会場に集まったファンたちにとって高山さんは依然ヒーローであり、スターだった。

障害者と健常者が分け隔てなく存在している空間は私には異様に見えた。

これは褒め言葉である。

障害者は劣った存在、かっこわるい存在として描かれることがむしろ通例だからである。

「24時間テレビ」なんて最たるものだ。最近は見なくなったので昔のイメージで語るのも何だが、「自分とは違う障害者という生きもの」を見て楽しむ番組だと思っている。動物園のパンダと同じ扱いなのである。

テレビドラマには車椅子の人が出てこない。あくまで健常者中心の世界である。
そんな中、朝ドラの「虎に翼」は同性愛者であるとか、マイノリティの人を積極的に登場させている印象がある。

高山善廣さんはいま別のリングで闘っている。応援する人は「強い高山」「闘う高山」「負けない高山」を期待しがちだが、かつてアントニオ猪木さんの晩年のドキュメンタリーを見たら「強い猪木を期待されてつらい」という話をしていた。
過度な応援は時として本人を苦しめる。

「TAKAYAMANIA  EMPIRE  3」は広田さくらさんの「シン・高山善廣」も笑えたし、プロレスって面白いんだなと今さらながら思った。

総合格闘技やボクシングはテレビで見ることがあっても、プロレスは地上波でほとんどやらないので親しむ機会がなかったが、生で見てみたいと思った。

高山善廣さんのご快復を祈ります。

Abemaでは9/10まで無料配信しています。

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