悲劇と喜劇は紙一重 映画「侍タイムスリッパー」
話題沸騰の映画、「侍タイムスリッパー」を見てきました。
キャスト
高坂新左衛門 - 山口馬木也
風見恭一郎 - 冨家ノリマサ
山本優子 - 沙倉ゆうの
殺陣師関本 - 峰蘭太郎
山形彦九郎 - 庄野﨑謙
住職の妻節子 - 紅萬子
西経寺住職 - 福田善晴
撮影所所長井上 - 井上肇
錦京太郎(心配無用ノ介) - 田村ツトム
斬られ役俳優安藤 - 安藤彰則
剣心会メンバー - きらく尚賢、ムラサトシ、神原弘之
村田左之助 - 高寺裕司
テレビ時代劇監督 - 多賀勝一
武者小路監督 - 吹上タツヒロ
照明マン - 泉原豊
スタッフ
監督・脚本・撮影・編集 - 安田淳一
特別協力 - 進藤盛延
殺陣 - 清家一斗(東映剣会)
助監督 - 高垣博也、沙倉ゆうの
照明 - 土居欣也、はのひろし、安田淳一
音声 - 岩瀬航、松野泉、江原三郎
床山 - 川田政史(東和美粧)
時代劇衣装 - 古賀博隆、片山郁江(東映京都撮影所衣装部)
特効 - 前田智広、佃光
整音 - 萩原一輔
音効 - 森下怜二郎
美術協力 - 辻野大、田宮美咲、岡崎真理
制作 - 清水正子
装身具 - 高津商会
面白い映画なんだろうなぁとは思ってましたが、予想の30倍は面白かったです。
131分の映画ですが、一瞬たりとも冗長に感じる場面はなかったです。
役者さんが惚れ込んだ脚本だけありますね。「涙あり笑いあり」ってよく言うけど、両方味わわせるのは至難の業。
チャップリンは稀有な例。上質なコメディには哀愁が欠かせないと思いますが、今作はまさにそうでした。
以下、ネタバレあり。
最初に、少しひっかかった点を挙げてみます。手放しで褒めないのがあたしの悪い癖😅
一箇所、助監督役の沙倉さんのナレーションが入っていました。「こうして高坂さんは斬られ役としてどんどん人気が出たのでした」みたいなナレーションだったと思いますが、あれは必要だったのでしょうか。
最近のドラマはナレーションや心の声が大流行です。助監督のナレーションがあるってことは、助監督の視点で物語られてるってことですよね?
そのわりには助監督が知りえないシーンが山ほどあります。つまり、神の視点です。
あそこでナレーション入れたせいで、「この物語は助監督が観客の皆さんに物語ってる」という変な構造感が出ちゃったと思うのですが、それでよかったんですかね。
朝ドラでよく主人公の祖母がすぐに亡くなってナレーション役になるケースがありますが、あれは天上から見てるので神の視点が成立するわけです。今作はやや違和感がありました。
あと、高坂がお寺でおにぎりをご馳走になるシーンで「磐梯山の雪みたいに美しくて食べるのが惜しい(この記事に書く台詞はすべて文意です。お許しください)」と言ってから食べちゃって、「何や食べるんかいな」って節子さんが言うシーン。
なんかコント風のやりとりだなと思っちゃいました。
私はドラマや映画を見ていてノリツッコミみたいなセリフが出てくると興醒めする方です。
日常会話でコント風味のセリフが目立ってくると、物語というよりコントを見ている感覚になってしまいます。
あえて不満と言えばそれくらいで、それ以外は本当に素晴らしい映画でした。
監督自身の編集がよくて、映画のテンポ感が抜群。カメラアングルも優れていると感じました。
時代劇好きにはたまらない作品でしょう。落日とも言える時代劇文化へのこの上ないオマージュに感じました。
ちょんまげや殺陣、撮影所の人たち、時代劇のすべてが詰まっていると言ってもいいくらいです。
特に殺陣の魅力を堪能しました。最後に真剣で闘うシーンの迫力は尋常ではなかったです。
高坂が殺陣の師匠に稽古をつけてもらうシーンで、何回やっても昔の癖で師匠を斬ってしまうのは笑えましたね。
タイムスリップしたのが実はもう一人いるとわかってから、物語はいっそう深味を増します。
私はタイムトラベル映画の古典「バック・トゥ・ザ・フューチャー(BTTF)3部作」が大好きなのですが(字幕より三ツ矢雄二&穂積隆信吹き替え版の方が好きかも)、BTTFの魅力はタイムトラベルで周りから孤絶されたマーティとドクの固い友情にあると思うのです。
二人は旅をしながらいろんな人と関わるので、我々はうっかり忘れがちですが、その時代から切り離された人たちです。
彼らの抱える孤独は想像を絶します。今作でも、時代から隔絶された高坂と風見のライバル心とも友情とも言えぬ絶妙な関係性が涙を誘いました。
ご都合主義で物語が進まず、高坂や風見の葛藤もきちんと描かれていて、作り込まれた脚本でした。最後の血飛沫のミスリードはおいおいって思いましたが😅
もう一つの感動要素は、いまの環境で精一杯生きる、やりきることの尊さでしょうか。
高坂も風見も、タイムスリップ後に赤子のような斬られ役からリスタートし、大成しました。
よく言われることではありますが、「待遇や境遇に不平不満を並べず、一生懸命に与えられた仕事を愚直にやる」、その意義が説教くさくない形でこの映画の中では描かれていました。
笑って泣ける、上質なコメディです。私は高坂と風見の二人のやりとりで特に泣いてしまいましたね。
あと沙倉さん私より歳上⁉︎ 若すぎ!🤣