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地方創生とメタバース

こんにちわ!普段、clusterやVRChatといったVRSNS(=メタバースともいう)で、ワールドを制作したり、音楽イベントを開催している、こはだと申します。

clusterアドベントカレンダー 2024/12/04への寄稿記事として、clusterに触れつつ、VRSNS全体を見渡して思ったことを書かせていただきます。


ここからは「メタバース」と表現しますが、一時は話題となり、いまはその熱狂と期待感が落ち着きつつある、この言葉が広く知られるようになったのは、2021年にフェイスブック社が「Meta Platform」に社名変更し、Horizonというメタバースプラットフォームで本格的に参入するのを表明したときだったかとおもいます。

参考:ハイプ・サイクル2022年でメタバースは「過度な期待のピーク期」
参考:ハイプ・サイクル2024年でメタバースは「幻滅期」

話題になりはじめたのは2020年あたりからで、そのころはビットコインに代表されるような暗号通貨やNFTとか、デジタル資産のことが注目されてました。ブロックチェーンという技術を使って、ゲームやメタバースの中でのアイテムや土地も唯一のものとして取引がなされるようになり、やがては新しい資産になるのでは?いう期待感でにぎわっていたように思います。

実際には、メタバースの内側では「お金儲けしたい!」が目的になっている取り組みは、元々楽しんでいた人には受け入れられず、過去から今に至るまで本当に好きな人が残ってコンテンツを作り続けているように思います。

以下は、その雰囲気の象徴となるような出来事でした。みんながぎらぎらしていた2022年の初頭にVRChatから発出された声明で「公式によるブロックチェーンやNFTの統合を今後も予定していない。またVRChat内でNFTやブロックチェーン技術などのプロモーションや勧誘などを行うことも禁止している」と説明しています。

他方、暗号通貨、NFT、DAOなど、いろんなものが混ざったWeb3ブームの中で「メタバースはこれから”来る”から何かしなきゃ!」といった動きがたくさんあったのだろうと想像されます。そして、そのころ動き出したものが、今ではおおよそ結果が出そろった頃合いではないかと思ってます。

そういった事例を集め、この記事では、地方公共団体の取り組みに絞ってレビューしてみようと思います。

なぜ地方公共団体の取り組みにフォーカスするか

今回この投稿ではB2CではなくG2Cにスポットライトを当てます。

税金を使って、デジタルコンテンツを作るという試みでの成功例は、もしあったら喜ばしいことなのですが、プレスリリース等で見かけることはあっても、持続的にうまく行っているものが思い当たりません

そして、税金が財源だと、進めるのに厳格な手続きや情報開示が必要で、フットワークも重くなり、行政の中にもデジタルコンテンツを作る人は少ないでしょうから、アイディアの面でも、瞬発力の面でも、実装力の面でもいろいろ難しいところがありそうだと感じます。

成功確率がもともと低いということを承知しつつ、なぜうまくいった/いかなかったかをここらあたりのタイミングで振り返って、当事者の方々に偶然でも目に触れることがあって、気づきになったらと願います。

なぜ地方公共団体がメタバースに関わるのか

コロナで人に会うのも困難だった間、メタバースは、そこにいない人との身振り手振りを交えたコミュニケーションができることから、いわゆる地方での「交流人口」を増やすための仕組みとして期待されたようです。

ご存じの通り、日本は少子高齢化の最中で、インフラや経済の整った都市部に人口が集中し、地方はますます過疎化していきます。

2025年の人口ピラミッド(国立社会保障・人口問題研究所)

人口減で地域が過疎化し、産業も衰退し、税収も減って、公共サービスも維持が難しくなります。そうした状況に対し、政府は「地方創生」という政策を掲げています。

まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」「総合戦略」「基本方針」
人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し、政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指します。
人口減少を克服し、将来にわたって成長力を確保し、「活力ある日本社会」を維持するため、
 「稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする」
 「地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる」
 「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」
 「ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる」

という4つの基本目標と
 「多様な人材の活躍を推進する」
 「新しい時代の流れを力にする」

という2つの横断的な目標に向けた政策を進めています。

内閣官房・内閣府「地方創生」サイトより

これは2014年から始まっているようですが、途中から、デジタル技術の活用という言葉が入るようになりました。令和3年には「デジタル田園都市国家構想基本方針(略称:デジ田)」としてリニューアルされています。

中身を見ると、

●まち・ひと・しごと創⽣総合戦略を抜本的に改訂し、2023年度から2027年度までの5か年の新たな総合戦略を策定。デジタル⽥園都市国家構想基本⽅針で定めた取組の ⽅向性に沿って、各府省庁の施策の充実・具体化を図るとともに、KPIとロードマップ(⼯程表)を位置付け。

●地⽅は、地域それぞれが抱える社会課題等を踏まえ、地域の個性や魅⼒を⽣かした地域ビジョンを再構築し、地⽅版総合戦略を改訂。地域ビジョン実現に向け、国は政府⼀丸となって総合的・効果的に⽀援する観点から、必要な施策間の連携をこれまで以上に強化するとともに、同様の社会課題を抱える複数の地⽅公共団体が連携して、 効果的かつ効率的に課題解決に取り組むことができるよう、デジタルの⼒も活⽤した地域間連携の在り⽅や推進策を提⽰。

内閣官房「デジタル田園都市国家構想総合戦略」概要資料より

ということで、2023年度から2027年度の5年間で、各地域の課題を踏まえて、具体的な目標だとかロードマップを立てて、特にデジタル技術を活用して実施していこうというものになっています。

デジ田の主な施策

令和5年度第1次補正予算、令和6年度当初予算(デジ田関連)について

上は令和5年度の補正予算と令和6年度の予算案の合計で、8.5兆円が計上されています。たとえば、人口減少に備えて、デジタル技術を活用した効率化・省人化だったり、リモートワークやオンライン行政サービスを支えるネットワーク、ID、システム、データベースの整備が進められています。

参考)それぞれの施策の内容は、こちらに紹介されています。

特に「分野横断的な施策の推進」として、デジタル田園都市国家構想交付金に1,747億円が計上されています。この交付金制度について解説していきます。

デジ田交付金の制度概要

これは、各地方公共団体が自ら取り組む課題解決を後押しするのを資金面で協力するというもので、以下の4つのタイプがあります。

地方創生「デジタル田園都市国家構想交付金 制度概要」より

これらの交付金の対象者は地方公共団体(都道府県、市町村など)です。各団体は実施計画を立て、内閣官房・内閣府の事務局の審査を経て交付されます。

メタバースに関する施策は上の4つのうちの「デジタル実装タイプ」に分類されます。この分野の交付結果のサマリがこちらです。

事業数として1,686件、交付金額として228億円に上ってます。たくさんの企画申請があったのかと思われます。施策の分野についてはこちらの資料をご覧ください。

分野別の施策を見ていくと、実際に交付決定されたもので、メタバースにかかわるものは、

  • デジタルミュージアム … 芸術作品や歴史資料のデジタルアーカイブ化やメタバース・VRの活用により、文化財にふれあう機会を創出するもの

  • 観光 … 実際にその空間にいるような感覚を得られる技術をもとに、観光客等が求める情報(観光スポット、名産品など)を実体験に近いかたちで提供するもの

  • 社会参加支援 … 不登校、引きこもりの児童に教育・交流機会を作り、メタバース上での体験を、社会参加へのきっかけとするもの

  • 婚活支援 … 少子化対策の一環として、地域や移動の制約を取り除けるメタバースで出会いのきっかけを増やすもの

  • 移住支援 … コロナ禍で地方移住が関心を持たれている中で、地域に興味を持ってもらったり、地域住民との相談の機会を作るもの

の、5つが主なものと認識しました。

各地方公共団体の取り組み紹介

では、ここからは各地方公共団体の取り組みを個別に取り上げてレビューしていきます(すべてがデジ田の交付による事業ではありません)。
フォーマットは、

地方公共団体名:タイトル / 目的・概要、交付額 / 実際のスクリーンショット / 評価(最高:★★★~最低:★)/ 知名度UP / 人の流れ / お金の流れ / 文化的意義 / ここが良い / 改善ポイント

で、書きます。

秋田県:あきた移住・交流メタバース万博

  • 目的・概要、交付額

    • 新規の移住定住登録や移住者の増加につなげるため、移住希望者がオンライン上の仮想空間「メタバース」を通じて遠隔地から秋田を体験できる機会を提供する。

    • 予算:11,782千円

      • システム構築費:7,590千円

      • メタバース維持管理費:1,815千円

      • サーバー利用料:1,430千円

      • 音声チャット利用費:300千円

      • イベント広告費:495千円

  • 評価

    • 知名度UP:★★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • 誰にでもアクセスできるように、Webブラウザで動作するようになってる。

    • 入り口の秋田犬がかわいい。

  • 改善ポイント

    • 営業時間が定められており、入れない時間帯がある。でも常駐のスタッフがいるわけではないですね。なぜー。。。

    • 移住を考えている人に対して、3D空間らしい情報の伝え方があるといいなって思います。実際の空き家物件の内覧ができたりとか。

    • 時間によってはスタッフが入っているならば、実際に住んでみてみて不便なことはないかとか、Webで検索しても出てこない情報を提供すると価値が出せそう。

  • 参考URL

岩手県:メタバースを活用した食の交流会・商談会

  • 目的・概要、交付額

    • 県外飲食店等を対象にメタバースを活用して商談会を行い、農林水産物の販路拡大をする。

    • 予算:51,441千円(R6年度事業費)

  • 評価

    • 知名度UP:★★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★★★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • DiscordやZoomとは違って、メタバースには、ユーザーの立っている場所とか人同士の距離感といった情報も加わることで、展示を見ながら、出展ブースごとに人がたくさん集まってたりそうでなかったりが分かったり、いまこのタイミングだったらこの人に話しかけられそうとかが分かり、1対1の会話が同じ時間で多数に行えるというメリットがあると思います。

  • 改善ポイント

    • 生産者や飲食店の方々が、果たして、このフォーマットで商談しやすかったか?というとそうではないと思います。(スクショだけ見ての想像だけど)テキストメッセージでもボイスチャットでも、本当に商談ができる状況に持っていくには慣れが必要だし、プラットフォームとしての表現の限界や使いにくさはあったのではと想像します。

    • 実際に参加しうるユーザー(生産者と飲食店)がコミュニケーションをとって、商品のプレゼンテーションから商談につなげることをオンラインでやるなら、ライブ動画のワールド内併用も良いと思います。スマホで使うメタバースは不自由だし、一方で自由なメタバースをするには参加者に高いVRゴーグルを買ってもらったり、慣れるまでハードルを課すので、普段からメタバースにいない人には難しい操作を要求しない見せ方が必要かと思います。

  • 参考URL

山形県村山市:メタバース婚活イベント

  • 目的・概要、交付額

    • インターネット上の仮想空間「メタバース」内で、参加者自身が作成したアバター(仮想キャラクター)を通して会話を行う婚活イベント。操作の仕方やアバター作成の支援もあり。婚活のプロがサポートする。

    • 予算:26,100千円(令和6年度)

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • メタバースはゲームと違って、生身の人間がたくさん集まること自体に楽しさと意味があるので、人の出会いを目的としたイベントは向いていると思います。

    • 婚活としてのお見合いって、実際の人に合わないとその先がないですよね。。。メタバースを入り口として、その先は、婚活アドバイザーのサポートは必要だし、それによって安心感も出せますね。

    • 1回で終わりではなく、2回目の開催があったこと。すぐに成果が出なくても、改善しながら続けていくことに可能性を感じます。バレンタインでもマッチングイベントを実施しており、90%のマッチングがあったらしいです。(マッチングの定義は不明…)

  • 改善ポイント

    • 回によって、市内在住の男性、女性に対して、異性を全国から募集する。ただ、募集人数は男女各12人とまだ少数の組み合わせ。まだモデル事業としてやっているので仕方ないのかも?

    • 婚活サポートベンダーがプラットフォームも込みのサービス提供なので、運営段取りの分割が必要になりますが、もともと存在しているメタバースプラットフォーム上でのイベントで告知するのも手では。慣れているユーザーを連れてくることができ、集まった人にも共通する話題がありそう。居住地しばりのイベントは時折開催されているのを見ますし、続けていると話題になるかと!

  • 参考URL

新潟県長岡市:メタバースとNFTを活用した「仮想山古志プロジェクト」

埼玉県:メタバースを活用した町おこしの実証実験

  • 目的・概要、交付額

    • 埼玉県とMRI、JBSおよびPsychic VR Labは、日本マイクロソフトと連携し、リアル環境をメタバース化することで、より効果的な行政サービスを提供する観点で実証を行い、技術的、運用的な導入難易度や効果、課題等を抽出・検証します。本実証は、自治体DX推進に向け、県職員がメタバース技術を体験し、実証参画各社とともにメタバースを活用した行政サービスの展開を検討する契機となります。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★

  • ここが良い

    • リアルな街並をVRの中に再現するというのはそれだけでも興味を惹きますね。試しにやってみよう!と行動を起こすのがすばらしいと思います。2023年2月6日(月)~2023年2月17日(金)で埼玉県職員のみの実証実験なので非公開コンテンツです。

  • 改善ポイント

    • 実際にやってみるというのはいいことだと思いますし、またチャレンジしていただければと思います。街並み再現、ということで、作りこみの凝ったワールドを作ったら、一時的には話題になるのかと思いますし、いっそのこと販売用ワールドアセットとして配布するのもいいのでは。(勝手なことを言ってすみません)

  • 参考URL

埼玉県:LINE、電話及びメタバースによる性の多様性に関する相談事業

  • 目的・概要、交付額

    • 性的マイノリティ当事者は周囲の偏見や差別を恐れてカミングアウトできず、悩みを一人で抱え込みがちな傾向にあることを踏まえ、性的マイノリティ当事者やその家族、関係者が、相談しやすい相談窓口を設置するもの。

    • 予算:13,287千円(委託料の上限)

    • パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社が受託。埼玉県が運営する「バーチャル埼玉」にてメタバースを活用した相談窓口の運営を月1回開始し、アバターを介して、匿名性が高く安心して気軽に相談ができる場として利用することが可能。

    • 相談の受付は年末年始を除く毎週土曜日、18時から21時30分まで行う。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • オフィシャルに相談したいときに、対面でなくてもよいことは大きなメリットだと思いました。埼玉県の調査で、県民から無作為抽出で調査したところ、3.3%の方が性的マイノリティであると回答があったとのことで、潜在的には悩みを抱えている人が想像よりも多いのだろうと思います。

  • 参考URL

千葉県:ちばメタ婚~メタバースで縁結び~

  • 目的・概要、交付額

    • 地域活性化と少子化対策を目的とし、千葉県が婚活事業者と共同で、結婚を希望している方を支援するためのモデル事業として、インターネット上に構築された仮想空間であるメタバースを活用し、若い世代の出会いの場を創出する「ちばメタ婚~メタバースで縁結び~」を開催する。

    • 参加者はアバターを作成し、見た目や年収ではなく、内面からマッチングさせることを試みる。その後についてはプロの仲人がサポートする。

    • このプラットフォームを用いての実施のようです。

  • 評価

    • 知名度UP:★★

    • 人の流れ:★★★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • 山形県村山市と同じく、婚活マッチングについては、場所に関係なく出会いのきっかけが得られるのがわくわくですね。場所の制約がなくなるメリットよりも、むしろ、対面が苦手な人の心理的障壁を下げてあげる効果もあるかと思いました。

    • 婚活専用のメタバースプラットフォームを使い、仲介業者のサポートがあること。人同士のマッチングってトラブルも起きやすいとおもうけど、事前審査やその後の対応のコントロールをしっかりやってるということが参加の安心感につながりそう。

  • 改善ポイント

    • 独自プラットフォームであること、参加者のパソコン環境の問題をふまえて、法人利用コストや、ユーザーに求める環境要件を低くするために、どうしてもメタバースプラットフォームがVRChat、clusterなどに比べてロースペックになってしまいがちなのが残念ですね。。。

    • といいつつも、最終的にリアルでのつながりに発展させていくのだとしたら、なるべくアバターは参加者ご本人の姿に近くしてみるとか、アバターの自由度を広げすぎないのも手かなと思いました。

    • PRは準備されているけど、ユーザー間での認知の広がりを作るために、動画での体験レポートを作ると拡散しやすいかと思いました。

  • 参考URL

富山県南砺市:南砺市VR360度バーチャルツアー

  • 目的・概要、交付額

    • インバウンド誘客を目的として、南砺市の世界遺産 相倉・菅沼両合掌造り集落への旅を疑似体験できる360度動画コンテンツ。

    • 予算:2800千円(令和6年度)

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • プレスリリースがいろんなサイトに載っている。

  • 改善ポイント

    • 見るためにサインインが必要ということ。ユーザー登録もうまく動作しなくてできませんでした。

    • 作っている業者さんのサイトがちょっとあやしい(むしろ受注した会社さんのほうのアピールになっているように見える)。インバウンド誘客の狙いがあるということで、海外企業に発注したのかもしれません。この案件を受注したSeiRogaiという会社か、関係者の方が書いたブログ以外にこの件が紹介されている海外ウェブサイトは見当たらなかった。

    • 話題づくりにはなったかもしれないけど、コンテンツの価値が見出せず、ドローンと360度カメラを使って、編集してYouTubeにアップロードしたりするのは、行政の職員か、地元の有志でやったほうが、高品質で持続的な取り組みができたようにも思えます。予算を使って結果がだせなければ、そこで終わってしまうので、続けられるように内製のスキルを得るのも一案かと思います。

山梨県甲府市:全国初!メタバースを活用したひきこもり相談窓口

  • 目的・概要、交付額

    • 甲府市の令和5年の引きこもり相談件数はのべ1,689件あり、初回相談の8割が当事者ではなく家族や支援者だった。行政から当事者にアプローチすることが難しく、どういう実態かも掴みづらく、それでアバターの姿なら直接コミュニケーションしやすいのではと考え、メタバースでの支援窓口を設置することになった。

  • 評価

    • 知名度UP:★★

    • 人の流れ:★★★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • 引きこもりは2023年のこども家庭庁の調査で、全国に146万人いるそうです。行政の課題と、手段としてのメタバースの組み合わせとして、とても期待が持たれている取り組みです。そもそも家から出たくなくて、人とも会いたくない状況から、相談窓口に向かうのは無理ゲーすぎると思いますので。。。

    • 参考まで、他にも同様の課題に取り組んでいる自治体は以下の通りです。

      • 神奈川県「ひきこもり×メタバース社会参加支援事業」

      • 兵庫県神戸市「ひきこもり当事者会」

      • 大阪府八尾市「メタバースde居場所」

      • 福井県越前市「メタバースこころの保健室」

      • 香川県「ひきこもりの方を対象としたオンラインスペースを開設」

      • 京都府「メタバースを活用したオンライン居場所を開設」

      • 東京都江戸川区「オンラインとリアルを組み合わせた交流会を実施」

  • 改善ポイント

    • 行政の職員さんへのインタビューによると、空間を作ったからといっても人が来るわけではなく、また、予約申し込みがあっても当日に相談者が来なかったということもあったみたいです。運営方法がよくないというか、それだけ難しい課題なのかと思いました。

    • 当事者との言語的なコミュニケーションが取れるに至るまでは超えなくてはいけない壁がたくさんあるとのこと。この試みも本来ユーザーの対象にならない人が押しかけたりしたり、運営ルールに関して否定的な意見が目立ちましたが「会話禁止」としたのも、実際にコミュニケーションが取れるようになるまでの段階をつくることが狙いだったのではないかなって思ったりします。同様の取り組みを実施されている自治体さんも多いので、成功メソッドを共有されたらいいなって思っています。

静岡県:しずおかバーチャルスクール

  • 目的・概要、交付額

    • 静岡県内では、2022年度に約9,400人の公立学校の児童が不登校と判定された。2025年1月6日から3月14日までの間、静岡県内の35自治体約800校を対象に、在籍する小中学校、市町教育支援センターやフリースクール等へ継続的に通っていない静岡県内の児童を対象として、メタバースを活用した学びの場を提供する予定。

    • 参加者は好きなアバターを選んでログインし、スタッフや空間内の仲間とテキストチャットやボイスチャット、モーションでコミュニケーションを行える。

    • 国語、社会、算数・数学、理科、英語に加え、プログラミングなどを自学自習できるオンライン教材のアカウントを配布する。学習計画をスタッフに相談することができ、自分に適したペースで学習を進めることができる。スタッフが常駐しており、分からないことをいつでも質問できます。

    • 社会とのつながりを大切にした多様な体験プログラムをメタバース空間内に準備し、知的好奇心を喚起します。交流を主としたイベントも用意されている。こうして、さまざまなプログラムを体験することで、実社会に学びをつなげるきっかけを作ります。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • 山梨県甲府市の取り組みと同じく、不登校児童、引きこもりの方への社会参加支援はメタバースに期待されている大きな役割のように感じます。プログラムを見ていると、実際に学校に行くのと同じように各教科を学習できる機会を提供していること、交流を目的としたプログラムを用意していること、スタッフも常駐するということで、なみなみならぬ気合と覚悟を感じます

    • 先行事例ではスタッフ常駐、というのはなかなかありませんでしたし、それに対して人件費を惜しまず、かつ人やコミュニティに向き合うという、場合によってさまざまな解決策を考えないといけない難しい課題に向き合うというのは尊敬しますし、うまくいってほしいと思います。

  • 改善ポイント

    • まだ実施前なので評価はできませんが、プラットフォームはXR cloudを使うようです。アバターの操作性や、感情表現についてはVRChat、clusterに比べるとだいぶ見劣りするので、今後良くなっていくといいなって思います。。。

  • 参考URL

静岡県焼津市:バーチャルマーケット上で「マグロの解体ショー」

  • 目的・概要、交付額

    • 国内外、若年層に、焼津市の名産である海産物の認知を普及させ、市の認知度、好感度を高めるとともに、副次的効果としてふるさと納税の寄付増加にも貢献するような、焼津市の海産物を活用した体験型コンテンツや、地場産品をリアルに再現した3Dモデルの展示をする。「焼津市=メタバースを活用している先進的な自治体」というイメージを作る。2024年7月時点で5回連続のVketへの出展とのこと。

  • 評価

    • 知名度UP:★★★

    • 人の流れ:★★★

    • お金の流れ:★★★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • VRChat上で定期的に開催される「Virtural Market」への出展ということで、ゼロに近いところから始めるよりは、既存プラットフォームのユーザーを誘引しやすく、表現力、インタラクティブ性も、もっともメタバースの良さを感じられる形で取り組みになったのではないかと思います。

    • 焼津港は有名なマグロの水揚げ港で、それをテーマにした「マグロ解体ショー」「釣りゲーム」などキャッチーなコンテンツで来訪者を楽しませていたこと、また、ふるさと納税の返礼品の紹介を出展ブース内で行っていたことから、しっかり出口も作っていること。ちなみに、2023年のふるさと納税の寄付額は、焼津市は静岡県内でトップで、100億円を突破した模様。

    • 「焼津 Vket」でX内でキーワード検索をすると、写真付きのユーザーポストが相当数ヒットすることから、拡散にも効いているのかと思います。

  • 改善ポイント

    • 他の自治体の多くは、ユーザーの参加ハードルと、プロジェクト費用を抑えるために、別のプラットフォームを選択しがちですが、それとは真逆でVR文化の真ん中にチャレンジしているところがすごいなって思いました。

    • 一方で、誰もが参加できるプラットフォームではないので、それは制約として、海外ユーザーに興味をもってもらうことや、比較的所得の高い層へのエンゲージメント(=ふるさと納税寄付)を図ることで、その制約を埋められたらいいのではないかと思いました。

  • 参考URL

静岡県藤枝市:メタバース体験商談会

  • 目的・概要、交付額

    • 対面での商談が困難な状況が続く中、話題のメタバース「GAIA TOWN」を使った商談会を実施。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★★

    • 文化的意義:★

  • ここが良い

    • コロナきっかけでリアルな展示会や商談が困難ということではじめたとのこと。遠隔でも参加できるという新しい試みが新しい取引相手をつなげるきっかけになっていたらいいなと思います。

  • 改善ポイント

    • 募集人数は25人ということでまだこれからの実験的な試みかと思います。商品の魅力をメタバースだけで伝えるのは難しいと思われるので、動画や写真なども併用してプレゼンテーションが出来たらいいですね。

  • 参考URL

愛知県豊田市:メタバース将来ビジョン

  • 目的・概要、交付額

    • メタバースの技術を活用してどのような価値が創出できるか、全世界的に試行錯誤がなされている状況の中で、豊田市におけるメタバースとの関わり方や取組方針などを提示するもの。

    • 調査分析と合わせて、関係者への聞き取りやワークショップ、実証実験を行った上で、活用可能性を考える。

    • 価値が発揮できそうな分野から小さく始めてPDCAサイクルを回し、誰もが触れられるように個人差を考慮しながらメタバース活用のハードルを下げ、中長期的な目線で動向を見つつ随時改善していくのがポイント。

    • 実証実験は以下の2つ。

      • 不登校児童生徒の家庭支援、採用支援、ひきこもり対策(「めちゃバース」を使用):対象者がスマートフォンなど手元の媒体から利用することのできる簡易なメタバースを使用する。引きこもりの方のご家族を対象とした相談会、学生を対象とした就職相談会、不登校児童生徒のご家族を対象とした座談会の実施。

      • 不登校児童生徒支援(「VRChat」を使用):対象者に専用機器を使用し没入感の高いメタバースを体験してもらい、PCやスマートフォンで利用した場合との違いを検証する。専用機器を使用する没入度の高いメタバースを 運用する際の利用シーン想定や注意点などを抽出する。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • まだ検証中で、小さなプロジェクトで使い道、お金の使い方、ノウハウなどを貯めていく最中の様子。先行する取り組みが期待値だけが高くて挫折したのをよく見ていて、より意味のある成果を出そうと慎重に進めているところがいいと思います。

  • 改善ポイント

    • 3~5年で基盤の評価をして継続、拡充の可否を判断、とありますが、陳腐化していく技術には投資せず、人やコミュニティに向き合う際の運営のノウハウの知見がたまっていくことを期待しています。資料中で示されている「共通基盤」のコアなものは、利用者1人1人に関するデータベースなのではないかと思ったりします。

  • 参考URL


三重県明和町:メタバースで地域創生を促進

  • 目的・概要、交付額

    • 持続可能なまちづくりを目的として、観光客だけではなく、地域住民にも配慮した取り組みを推進していきます。その手段として、明和町から全国、全世界の人とつながり、明和町の魅力を広く発信していくため「アバター」や「メタバース」などの技術活用を検討していきます。

    • 具体的な取り組みとして、地域の方がアバターやメタバースを体験したり、アバターでの就労のためのトレーニングができる拠点として三重明和インキュベーションセンターを拠点にした「めいわアバターセンター」の設置(2023年2月末を予定)、斎宮や斎王などの歴史を取り入れたアバターなどのオリジナルデジタルアイテムの制作、明和町の特産品をアバターを通じた販売等の取組から、明和町のメタバース開発に繋げていきます。

  • 評価

    • 知名度UP:★★★

    • 人の流れ:★★

    • お金の流れ:★★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • 明和町を擬人化したオリジナルアバターをつくり、それがIPとして、広報活動などにおいて効果的にアイキャッチとして使われているところ。アバターが接客販売するECサイトもあって面白いこころみ。

    • イベントはREALITY上で開催され、集客が相当数あった模様。お客さまを迎え入れるにあたっての特産品やSNSを用いたキャンペーンやインフルエンサーとのコラボ商品など、内容盛りだくさん。

  • 改善ポイント

    • 話題づくりには成功してるように見えますが、ECは食品など、もうちょっと買いやすい商品があってもよかったかも。接客はAIチャットボットでした。アバターの動きがあるのがうりかと思いますが、それ自体に目新しい感じはあまりなくて。。。

  • 参考URL

大阪府泉佐野市:バーチャルマーケットに出展

  • 目的・概要、交付額

    • Vketに出店し、ブース内で交流したユーザーがいつの日か泉佐野に来ていただき、肉やその他の地場産品、観光資源の魅力を体験いただけることを目指す。また、ふるさと納税のPRも実施し、市の公式キャラクター、硬派な「イヌナキン」の分身、「ゆるナキン」が3Dアバターとして「一生犬鳴(いっしょうけんめい)」に来場者をお出迎え。ブース中央にある「肉の泉佐野」を象徴する牛のモニュメントはロデオマシンとなっており、牛に乗り、ロ デオ体験をしていただくことも可能。

  • 評価

    • 知名度UP:★★★

    • 人の流れ:★★★

    • お金の流れ:★★★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • みんなが大好きな「お肉!」というのを全面に打ち出しており、ふるさと納税の寄付にしっかり動線をつないでいる。ふるさと納税自体に賛否はあると思いますが、目的と表現手段がきっちりかみ合っていて、とても楽しみがいがあり、出口のしっかりそなわったコンテンツだと思いました。

  • 改善ポイント

    • 焼津市とは異なり、その後のバーチャルマーケットへの出店がないみたいですね。費用対効果が悪かったのかしら。。。

  • 参考URL

大阪府河内長野市:バーチャルカンパニーツアー制作

  • 目的・概要、交付額

    • デジタル技術を活用したバーチャル工場等見学事業を実施することで、実際に訪問しなくとも、あたかもその場にいるような体験を可能にし、工場・事業所の現場の様子や、従業員の生の声を発信することで、魅力向上を図るとともに、人材確保や販路拡大等に繋げ、市内事業者の競争力強化や市内産業全体の活力向上をめざします。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • みんながすきそうな工場見学をバーチャルで出来るのは、企画だけで勝ってます。それを地元の推したい産業でやるとより対外アピールが効果的になりそうですね。

  • 改善ポイント

    • 厳密にはメタバースではなく、Googleストリートビューのような360度写真です。ですが、高精細で中の様子がよく分かります。コンテンツはとてもいいので、買う、遊びに行く、など、なにかの出口があると、持続的な取り組みになるかと期待しました。

  • 参考URL

大阪府豊中市:文化芸術振興・魅力発信のメタバース拠点の創設

  • 目的・概要、交付額

    • この業務は、2025年に開催される大阪・関西万博を契機に今後さらに加速して進んでいくと考えられるデジタル社会を見据え実施する。メタバースを活用した文化芸術振興・魅力発信の場を創設し、新たな発想や技術なども柔軟に取り入れながら、本市の文化芸術の取組みを創造・進化させ、文化芸術豊かな豊中のまちの魅力を市内外に広く発信していくことを目的とする。

    • メタバース空間「(仮称)Toyonaka Art Connection World」の創設。 ICT 人材育成プログラムにより、子どもたちとともに豊中のメタバース空間を構築。 デジタルアート展覧会やリアル空間と連動したイベントを実施。

    • ①ICT 人材育成プログラム(小中学生対象)アバターやメタバース空間のパーツ制作、ゲーム要素などのプログラミング 、オリジナル作品制作(作品の NFT 化)などの講座の実施 ※いずれも連続ワークショップ形式で実施

    • ②デジタルアート展覧会(ICT 人材育成プログラムと連携)豊中の魅力を題材としたデジタルアート作品を公募、上記のオリジナル作品とともに、メタバース空間とリアル会場で展示、デジタル分野のクリエイター等が仕事の魅力を語る講演会など関連イベントの同時開催

    • ③リアル空間との連動イベント。豊中市キャラクターのマチカネくんを探すゲームや豊中に関する謎解きイベントの実施

    • 予算:6,000千円(委託料の上限額)

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • メタバースに限らず、総合的なイベントになっていますが、子供向けに多数の体験型プログラムを用意しており、子育て、教育の観点でも地域の価値を高める取り組みになっているように見えます。3Dモデルに色を塗る体験教室、というのが現代的でとてもいいですね。

  • 改善ポイント

    • アートの展示は、参加した人、応募した人を「自分ごと」にするのに有効だと思います。自分のつくったものがどう飾られているか、どう人に見られているかは作り手は気になるとおもいますので、そういうところを刺激する作りにするとさらにもりあがるっかなって思いました。

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和歌山県白浜市:バーチャル白浜(メタバース和歌山)

  • 目的・概要、交付額

    • 日本で開催6回目を迎えるストリートアートプロジェクト「POW!WOW!JAPAN」に連動してメタバース企画「バーチャル白浜」をCryptovoxelsにて開催。メタバース上にてPOW!WOW!JAPANのイベントや白浜町の魅力を発信する。nanakusa公認アーティスト AURORA、 ひかげによるコラボレーション作品を仮想空間にて各々インスピレーションを受けた作品を仮想空間上に展示し、nanakusaにて販売する。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • いままで見た地方自治体のメタバースサイトの中で一番スタイリッシュな感じ。メタバースとしてはNFTアートの販売(関連サイトはすでに閉鎖)、FORTNITEでの企画があり、ゲームプレイヤーが好きそうなテイストに仕上げているように見えました。

  • 改善ポイント

    • 見せたいと思っている観光コンテンツと、ゲームプレイヤー向けのスタイリッシュな入り口がどうしても結びつかない感じがして、どういう目的で運営しているのかはちょっと気になりました。FORTNITEのプレイヤーは人口が多いので、アプローチ先といいと思うのですが、観光促進には遠いような気がします。ゲームのお供にラーメンとみかん、みたいに、食につなげるとか、でもよかったのかも(それでも遠いけど…)。

SBINFT×白浜町:メタバース×アートで地方創生へ

奈良県奈良市:メタバース上でなら写真美術館

  • 目的・概要、交付額

    • 日本を代表する写真家のひとりである入江泰吉は、故郷の奈良大和路の風景、仏像、行事など約半世紀にわたって撮影してきた。その全作品約8万点を収蔵しているのが入江泰吉奈良市写真美術館だ。同館はメタバース上のブロックチェーンプロジェクト「@Decentraland(ディセントラランド)」に美術館「MANA Nara City Museum of Photography」を開設し、アーカイヴのなかから厳選した入江の作品20数点を展示する。

    • 同館館長の大西洋はメタバース活用の展望について次のようにコメントしている。「メタバースは黎明期ですが、当館はいち早く取り組むことで美術館として活用していきます。今回の実証実験で、当館の収蔵する入江泰吉の作品を、メタバースNFT美術館という新たな空間で、遠方の方にも楽しんでいただければと思います。また、来年度もメタバースと3Dモデリングのさまざまなワークショップを実施し、未来を担う学生達に美術館ならではの体験をしていただきます」(プレスリリースより)。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • 美術館、写真館、博物館とメタバースはすごく相性がいいと思っています。作品そのものと、作品を取り巻く環境も体験に取り入れることで、またちょっと違った見方ができると思うからです。

    • あとこういう形で後世に残したいものがVRの世界で生き続けるっていいですよね。

  • 改善ポイント

    • NFT販売を出口としたプロジェクトのようなので、いま、期待感が盛り下がっているなか、どのように仕切りなおすかに注目。Decentralandはユーザー数が少なく、2024年10月にバージョンアップされ、Epic Game Storeでも配布されるとのことですが、今後の動向が不明瞭なのが悩みです。

  • 参考URL

奈良県宇陀市:メタバースを用いた移住促進イベント

  • 目的・概要、交付額

    • コロナ禍以降、都市部から地方への流れが浸透し、都市生活者から市役所へ移住の問い合わせが増えている。しかし、人里離れた場所で農業しながら古民家カフェを300万円程度で改修し開業したい、など田舎暮らしやローカルビジネスに対する認識のずれがあった。都会生活を知る「先輩移住者」でもある市内事業者等に直接インタビュー等をできるイベント実施をすることで、そのギャップを埋め、宇陀市での生活に関心を持ってもらい、つながりを持って帰ってもらうようなイベントを企画。

  • 評価

    • 知名度UP:★★★

    • 人の流れ:★★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • 参加者に対して、自己紹介や自由行動の時間を十分に設けて、お互いに対する理解を促進して、その上で、実りのある機会になったのかと想像します。都会に住んでいる人の、理想の田舎暮らしのイメージって、実際に現地に住んでいる人からすると持続不可能なものであることが多いとのことで、そのギャップを早めに収束させようというのはとても意味のある試みだと思いました。

    • 行政が主体となって(運用作業の外部への委託はなし?)、普段の担当業務に加えて新しい試みを実施されたことはすごいと思います。ルーティンワークだけで忙殺されるのが通常なのに、デジタル活用に意欲的な姿勢は応援したいです!

  • 改善ポイント

    • 実施結果が様々なメディアで紹介されたので、それを知って興味をもった人が、参加できるような次回以降の受け皿があるといいなと思います。

  • 参考URL

兵庫県養父市:バーチャルやぶ / バーチャルやぶ in ZEP

  • 目的・概要、交付額

    • 吉本興業株式会社と連携協定に基づき取り組んでいるメタバース事業について、メタバース「バーチャルやぶ」をオープンしました。市の魅力発信や交流拠点として、メタバース上に市内の観光資源等を再現していますので、今後、仮想空間と現実世界を結ぶイベントを実施するなど、つながりの創出を進めていきます。

    • 「バーチャルやぶ in ZEP」は、インターネット環境さえあればスマホやパソコンから簡単にアクセスできる、Web版の2Dプラットフォームです。養父市を代表する観光スポットや市役所などをメタバース上に再現し、その中で市民同士の交流や、会議が行えるスペースを設ける他、養父市のニュースや天気、おススメの地元産品など、市の魅力や情報を発信します。街の真ん中にはイベントスペースがあり、リアルと連動したイベントも可能です。

  • 評価

    • 知名度UP:★★★

    • 人の流れ:★★★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • もともと養父市自体が国家戦略特区に認定されており、街づくりはじめ、これ以外にもいろいろユニークな取り組みをしており、注目しておりました。そんな中、吉本興業というプロのコンテンツメーカーと組んでおり、企画力も広報力も抜群です。

    • VRChat上にワールドを作るのに加えて、あえて2Dのメタバースを追加したのは興味深いです。スマホで十分遊べる形も併用することで、市民を巻き込むことを試みています。

    • ソーシャルを使って、持続的に企画を発信したり、VRChatのインフルエンサーと連携したりして、地域住民向けサービスである一方、地域の人だけでない純粋なエンタメも追求しているところにプロフェッショナリズムを感じます。

  • 改善ポイント

    • たぶんすっごいいろいろお金がかかってそうに見えますが、それでも続けられる理由に興味があります。目標の置き方も気になります。

広島県三原市:「メタカープ」を活用して三原市の魅力を訴求

  • 目的・概要、交付額

    • メタバースアプリ「メタカープ」は広島カープファン倶楽部会員の専用サービスですが、通常はカープファンクラブ会員限定で入場可能な空間「メタカープ」へ、一般のユーザーも入場できる専用のアプリ「メタマツスタ」をビーライズと広島テレビが開発・公開し、会員以外のユーザーもメタバース内のイベントに参加できます。

    • イベント当日の空間の特徴
      三原市用にカスタマイズした以下のコンテンツをユーザーへ展開します。アバターの洋服:一般ユーザー用の「メタマツスタ」から入場したユーザーは、三原市をイメージしたTシャツを着て参加します。/ 中央モニター内での三原市とのコラボ告知:配信している中央モニター周辺に、三原市とのコラボを告知した文言を表示します。/ ブース設置:空間内に屋台ブースを設置し、広島みはらプリンをはじめとする特産品・関連サイトを紹介します。/ 特別バルーン:入場したユーザーができるアクションについて、タコの形の風船を飛ばすことができます。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • 広島カープファン向けのスマホアプリの中での企画なので、市民向けのイベントとして、プラットフォーム選びがぴったりに思えます。アプリ内ではアバターのモーションやチャットで意思疎通をするとのこと。有料配信サービスに加入していなくても公式戦全試合が観られるため、ファンクラブ会員からは重宝されていたということで、メタバースとはちょっと異なるかもしれませんが、同じ趣味同士で集まる楽しさが最初から備わっているように思いました。

    • メタカープは2024年のシーズン限りで終了とのことです。

  • 改善ポイント

  • 参考URL

山口県萩市:ふるさと納税のPRにメタバースを活用

  • 目的・概要、交付額

    • SPECTRUM株式会社が管理するメタバース環境を使って「萩市ふるさと納税の返礼品」を展示いたします。3階建てのPRブースは「Decentraland(ディセントラランド)」という3D仮想世界の一角にあり、萩市の公式キャラクター「萩にゃん。」が来場者の皆さまをお出迎えいたします。
      ブース内では、萩市ふるさと納税の返礼品として人気の高い「萩の地酒(GI萩)」、「萩の焼き抜き蒲鉾」、「萩むつみ豚」のほか、本キャンペーン限定の返礼品もご用意しています。各階の「デジタルポスター」に触れることにより、本ブースから萩市のふるさと納税寄附サイトに直接移動し、その場でご寄附を行っていただけます。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • ふるさと納税の返礼品の展示という目的がはっきりしていて、展示から直接寄付サイトに移動できるという作りになっているところ。

  • 改善ポイント

    • スクリーンショットをみた限り、ですが、ワールド内移動させて、返礼品の展示は静止画像で、これはメタバースである必要はあったのかな。。。って気になりました。開発ベンダーの無償の取り組みということで「まずはやってみよう」ということだったのかもしれませんね。

  • 参考URL

山口県宇部市:自然教育メタバースプラットフォームの実証実験

  • 目的・概要、交付額

    • 『ときわミュージアム 世界を旅する植物館』を題材に、利用者がアバターとして自由に散策できるメタバース空間を構築。 ブラウザーから操作可能で、世界中からいつでも来館可能。 メタバース内のコンテンツについては、植物館コンシェルジュと連携し、デジタル写真館やeラーニングコンテンツなどを随時更新予定。 また、オンラインとオフラインを融合させたハイブリッドイベントも実施予定。

    • 仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステム構築をすることにより、経済発展と社会的課題の解決を目指す。 ・宇部市の観光地としての魅力を力強く発信することができるグローバル人材「宇部おもてなしICT人材」の輩出と育成 ・新しい教育的要素のツーリズムを通して、宇部市全体への来訪者数の増加と情報発信できる「Edu-Eco Tourismのまち UBE」体制の構築

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • サボテン、というテーマを一つ置いて、それにちなんだいろんな見せ方の広がりがあったこと。植物館、学習コンテンツ、LINEスタンプなど。

    • 高齢者向けの出張メタバース体験会、というのはユニークな取り組みだと思いました。

  • 改善ポイント

    • 市民向けのコンテンツか、市外の観光客を呼び込むためのコンテンツか、趣旨が見えにくいところがありました。

    • 高齢者向けのインターネット学習をメインにするなら、スマホの使い方、LINEの使い方、YouTubeの閲覧の仕方とか、実用的なニーズがほかにもありそうですね。

佐賀県嬉野市:メタバース『デジタルモール嬉野』

  • 目的・概要、交付額

    • 観光客の嬉野への来訪意欲を高めるため、嬉野市観光のオンラインプラットフォームとして、仮想の駅前広場である「デジタルモール嬉野」を構築しました。利用者は自身の分身となるアバターで仮想空間内を自由に動き回り、360度カメラ撮影による臨場感あふれる観光の疑似体験が可能になっています。当サービスには嬉野温泉観光協会HP(外部サイト)やLINE公式アカウント「嬉野温泉観光案内所」からアクセス可能です。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • ブラウザベースだけどワールドの作りは比較的よく、操作がしやすいです。

    • 制約の中で、何とかゲーム性を出そうと努力された跡がうかがえます。

  • ここが残念

    • アバターのモーションがちょっとへん。どうしても気になってしまう。気になる方は実物をみてみてください。

    • コインを集めて限定コンテンツをダウンロードと言っても、地元のお店の画像が見られるだけなので、あまりユーザーインセンティブにはなっていないですね。。。

  • 改善ポイント

    • 温泉というキラーコンテンツを兼ね備えているので、VRChat上で温泉にしぼったワールド構築がいいと思います。理由としては、VRのワールドで、温泉旅館宿がとても多いことです。ですが、共通した販売アセットの利用が多くて、ちょっと見慣れてしまっているところがあるので、現地と同じ温泉を再現、ということでしたら、もともと好まれるタイプのワールドの上に、独自性が出せたのではないかと思います。

    • 温泉ワールドが好まれる理由は、浴衣やバスタオル姿をアバターに着せるのがたのしいという人だったり(それで写真を撮ったりとか)、チルでたまり場になれる雰囲気があるからと想像しています。


長崎県佐世保市:重要文化財である「針尾送信所」のデジタルアーカイブ

  • 目的・概要、交付額

    • 長崎県佐世保市にある重要文化財の針尾送信所をデジタルアーカイブした「針尾送信所VR」をメタバースマスターズが制作。「針尾送信所VR」は、「令和3年度文化庁文化財多言語解説整備事業」に採択されたウェブVR作品です。

    • 「針尾送信所VR」には、スクロールで視点を動かす3Dモデルの針尾送信所やVRツアーなどが含まれており、実写とCGのVRコンテンツを楽しめます。日本語・英語・中国語のナレーション解説が含まれており、海外からの認知獲得と観光機会の創出も目指した作品です。

  • 評価

    • 知名度UP:★★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • まず、メタバースではなく、フォトグラメトリによる3Dモデルと、ストリートビューのような360度静止画を解説つきで閲覧するコンテンツです。歴史的な文化財をデジタルで半永久に残す試みは有意義だと思うのと、多言語対応で海外向けの発信を意識しているところが観光誘客としてもいいとおもいます。

  • 改善ポイント

    • 操作方法がめっちゃわかりづらくて、移動ができなかった。

    • あまりビジュアルに変化がなく、ナレーションをずっと聞く感じなので早く飽きてしまいます。。。

長崎県西海市:次世代の雇用創出を試みる「西海メタバースアカデミー」

  • 目的・概要、交付額

    • Web3.0なんて全くわからないという初心者でも楽しく学んでもらえるよう、内容は体験とディスカッションを中心に構成しています。カリキュラムはWeb3.0の概論、メタバース、暗号資産、ウェルビーイングとWeb3.0、NFT、DAOなど、Web3.0を網羅的に扱う予定です。Web3.0がバズワードとなる中で、西海市でも新しい世の中の変化に対応し、地域で活躍する人材を育てることを目的として実施いたします。

    • メタバースアカデミーの参加者には、参加証として特別なNFTを発行し、西海市のweb3.0コミュニティへの参加や提言の機会などを提供していきます。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • 地域で活躍するデジタル人材の育成を地元でやろうという試み。Web3ブームをつかんで何か価値を生もうとするチャレンジであること。DAOは地域コミュニティで有用というお話があったので、活用が進んでいたらいいですね。

  • 改善ポイント

    • すでにサイトがなく、終了しているようですが、Web3絡みでのプロジェクトは一回仕切りなおされたのでしょうか。

長崎県南島原市:メタバースギャラリー開設

  • 目的・概要、交付額

    • 市の芸術文化複合施設「アートビレッジ・シラキノ」をイメージしたギャラリーには、南島原から日本中に広まった銅版画をはじめ、写真展やアニメ「巨神と氷華の城」イラストなど幅広い世代の人がお楽しみいただけるさまざまな作品を展示します。
      南島原市のメタバースは、10月1日(土)から4か月間、期間限定で公開。メタバース上で市の公式SNSや関連ページに遷移することができます。南島原市の魅力をメタバースで是非ご体感ください。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • VR内でアートを鑑賞できるのはうれしいです。

  • 改善ポイント

    • 美術館・博物館は長続きするコンテンツだと思うのですが、開催期間が4か月間に限られており、もう閉鎖されていました。外注先との運用にかかわる契約の問題でしょうか。パートナーあってのプロジェクトだと、こういう形が多くて、残念ですー。

熊本県天草市:天草メタバース計画にて地元メタバース人材育成

  • 目的・概要、交付額

    • 「天草メタバース計画」とは、天草の持つネームバリューと良質なコンテンツである「観光(アナログ)×VR技術(デジタル)」を融合させてハイクオリティな「天草」を、世界へ発信しブランディングアップする計画です。物理的に離れている地域間を「メタバース」で繋ぐことで、新しい観光、新しい物販、新しい仕事を創造します。

    • バーチャルとリアルを融合させた「VR/AR観光体験ツアー」コンテンツの開発

    • メタバース上で接客や案内を「アバターガイド」の指導

    • 高校生から参加可能な「VRエンジニア」の育成

  • 評価

    • 知名度UP:★★

    • 人の流れ:★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • 地元にVRコンテンツを作れる人材を育成する、というのはすっごい良いチャレンジだと思います。外注するよりも、地元にできる人を置いて、主体的にコツコツとすすめていくのは長期的にメリットがあると思います。なぜそう思うかは最後のまとめに書きます!

  • 改善ポイント

鹿児島県日置市:ネオ日置計画

  • 目的・概要、交付額

    • 2022年8月、鹿児島県日置市では、「ひおき」を想うすべての人の拠り所として、メタバース上に「もうひとつの日置」を創造するプロジェクト、「ネオ日置計画」を立ち上げました。
      現実の距離に近いインターネットによる交流と、実在の場所の再現や演出が可能なメタバースに着目。「ネオ日置計画」と題し、メタバース上に日置市外の人々との交流拠点となり得る日置市オリジナルのメタバース空間「ネオ日置」の建設を始めました。

  • 評価

    • 知名度UP:★

    • 人の流れ:★★

    • お金の流れ:★

    • 文化的意義:★★

  • ここが良い

    • 地域の観光名所を凝縮して、ワールドにしていますが、ワールドの中のオブジェクト制作を、一般参加の方のDIYで作っているところです。地元愛のある有志の方が参加されるということで、受発注で契約限りの関係性よりも、濃い取り組みができるのではないかという期待感があります。

  • 改善ポイント

    • どうしてもプラットフォームの制約、表現力に引きずられてしまい、ユーザー体験があまり良くならないのが残念ですね。。。プラットフォーム利用料の問題、利用許可取りの問題はありますが、clusterやVRChatで見てみたかったです。。。

  • 参考URL

沖縄県沖縄市:バーチャルOKINAWA(民間事業)

  • 目的・概要、交付額

    • 注:地方公共団体の事業ではないのですが、すごくお勧めしたいコンテンツなので取り上げさせてください。

    • 2020年、新型コロナウイルスの影響を受け、国内外からの観光客が激減し、危機に瀕した沖縄。観光地として名高い「国際通り商店街」の人通りはまばらになり、シャッターを下ろす店舗も数多く見られました。あしびかんぱにーではこの困難を乗り越えるべく、離れていても沖縄観光や沖縄独自のエンターテインメントに触れられる仮想空間『バーチャル沖縄』の制作に着手。クラウドファンディングを実施し、目標金額5,000,000円​​に対して6,112,887円の122%を達成しました。2021年4月のβ版オープン以降、エイサーなどコロナ禍で中止になってしまった沖縄の伝統行事をメタバース上で開催したり、首里城をメタバース上で復元したりと仮想空間を活かした独自コンテンツを数多く展開。世界中から様々な方が沖縄を体感しに『バーチャル沖縄』を訪れています。

  • 評価

    • 知名度UP:★★★

    • 人の流れ:★★★

    • お金の流れ:★★

    • 文化的意義:★★★

  • ここが良い

    • Vketの目玉コンテンツでした。広大かつ作りこまれたワールドで、バーチャルであっても本当に観光しているような楽しい気分になれます。メタバースで「観光」を疑似体験してもらうコンテンツをつくるなら、このバーチャル沖縄が、ユーザー満足を得られる作りの目安になると捉えるといいと思います。

    • 毎朝8時からラジオ体操、毎週木曜22時に集会と、定期的にイベントを開催しているそうです。今度行ってみたい。

全体的な感想

プラットフォーム選びと人流の関係

いろいろ見てきて最初に気になったのは、プラットフォームの選択が様々であったことで、これはユーザー体験と人流を決定づける大事な要素なのですが、本当に目的に沿ったものを選べてる?って疑問でした。

最初から特定の限られたユーザーを対象にする場合は別として、以下の3点がどのプラットフォームを使うかの選定基準になると思います。

1)法人にかかる利用料や条件など
VRChatでは商業利用は承認と書面契約が必要で(申請した際の用途に限られる)、clusterは法人の利用においては必ず専門の窓口からの相談が必要、とされています。利用料の発生の有無、金額の大小に関しては、明確な定めがありません。
一方でこれまで紹介した事例では「XR cloud」「DOOR」の利用が目立ちました。相対的に利用しやすい見積もりだったのかと想像します。いずれも同時利用人数に応じて、プラットフォーム発生料が発生するので、プラットフォームのポテンシャルと、利用料金を天秤にかけながら判断することになります。
唯一価格表が提示されていた、NTTコノキュー社の「DOOR」の料金プランがありましたので、これをもとにベンチマークとして各社見比べるとよいかと思います。

NTTコノキュー「DOORS」導入料金表

2)ユーザーのアクセス性
メタバースのプラットフォームには、
・スマートフォン利用可 / PCのみ
・Webブラウザで利用可 / 専用アプリが必要
など、アクセスするために必要な環境の違いがあり、多くのユーザーにアプローチしたい、あるいは、ターゲットとなるユーザーがスマホしか持っていない、などの状況を踏まえて、プラットフォームを選択することになります。

人が多いプラットフォームは、cluster、VRChatです(Robloxは特殊なのでいったん省略します)。「もともとプラットフォームに人がいる」ということは、何かを展開するときに、比較的ユーザーの誘導がしやすいものと考えます。

clusterは遊ぶ際の敷居を極力下げることを目指しているため、新規ユーザーやライトなユーザーが多く、潜在的にアプローチできるユーザー層が広いことが期待できます。一方で、VRChatはPCでの利用がメインで、要求される性能が高く、万人がアクセスできるものではありません。ですが、インフルエンサー含む、濃いユーザーがいること、グローバルサービスとして定着していることが特徴です。

3)コンテンツ表現の自由度
ユーザーの端末に求める性能要件と天秤になりますが、アバターの表現力(モデルのメッシュの細かさ、シェーダーの自由度、アニメーションの自然さ、拡張性など)、ワールドに実装できる機能(様々なトリガーやロジックやアクション、使えるオブジェクトやコンポーネントの制約など)の自由度が広がるほど、ユーザーの体験を楽しく、印象深いものにできます。この点ではVRChatが優れているところが多く、clusterはアクセス性と機能のバランスが良い印象です。

これらを踏まえると、一長一短なので、どの場合にもあてはまる絶対的なものはありません。すごい芸術作品を作ってコンテスト受賞を狙ったりしたい、という趣旨なら、VRChatをおすすめできますし、表現力はそこそこでも、誰もが気軽にアクセスできるプラットフォームがよければcluster、みたいに、予算規模のほか、達成したい目的や、狙うユーザーターゲットは誰か? だったり、メタバースの中で実施したい企画に応じて、選択することになるかと思います。

一つ言えるのは、

  • 法人向けに特化したソリューションではなく「一般ユーザーの楽しみのために運営されているプラットフォーム」は、昔から継続的に改良・機能追加がなされており、ユーザー体験が圧倒的に優れている。

  • プラットフォーム自体に人が付いているので、新たに認知獲得、集客をするのが有利。

メタバースを普段から楽しんでいるユーザーの視点ではありますが、これらの利点から、cluster、VRChatが最初に検討したほうがいい選択肢です。それらを検討した結果、費用が合わない、商用の許諾が降りなかった、など、条件が合わなければ、法人向け独立プラットフォームを検討する、という流れをおすすめします。

メタバース、VRだから引き出せる強みにあっているか

3D空間の中で、没入感を味わったり、対面に近いような距離感で人とコミュニケーションを楽しめるのがメタバースの強みですが、ブラウザやスマホでアクセスする、それらの画面で何か観る、というのは体験価値が活かしきれていないことにも考慮する必要があります。

これまでの事例を見てきて、気になったことに「これってメタバースでなくてよいのでは。。。」というのが散見されたことです。
もし、メタバースの利点を活かせない状況や、用途ならば、動画コンテンツ、ライブ配信での代替も考えられます。

先ほどのハイプサイクルにもあるとおり「メタバースであるから」といって注目をあびる状況はすでに終わっており「行政でもこんなことできちゃったよ!」というアピールは、周辺の方々にとって一時的なニュースになるかもしれませんが、作って終わりでメンテナンスの気配が見られないプロジェクトが大半です。

物珍しさでニュースになる段階が終った現在では、ユーザーが拡散したり、定着するには、切り口の面白さや体験価値次第になると考えます。メタバースの上で何か作ることは、逆に目的に対するコスパが悪いし、ユーザーにとってもただUIがめんどくさいだけのサービスになっていないかを振り返る必要があると思います。調達手続きのコンペでも、IT系のバズワードに惑わされず、それらは利用者目線でどう価値を生むのか冷静に見ることも大事です。

メタバースで構築しなくても、人の交流を図るなら、1対Nは、YouTubeライブやTwitchやTikTokがあり、N対NならZoomやDiscordのオンライン会議もあります。空間を感じさせるには360度映像という見せ方もあります。最適な手段を幅広くご検討されることを祈っています。

成功するために必要と思われること

1)自身がメタバースでいろいろ遊んでみる
これが本稿で一番主張したいことですが、clusterもVRChatも、遊ぶのは無料です! なので、調査資料やメディア記事での伝聞はそこそこにして、アカウントを作って、できればいろんなワールドを巡ったり、人と接点を持ち、イベントに参加したり、アバターを着せ替えたり、ワールドを作ったり、いろいろユーザーの視点で遊んでみていただけたらと思います。
その中で、目的と活用法の接点が見えたり、技術的にできること、できないことの境目がわかってきたりするのだと思います。前述のとおり、必ずしもメタバース上でやらなくてもいい取り組みもあると思いますので、その見極めのためにも。

2)予算をとるなら成果指標を定め、何となくやるならローコストでやる
「いわれなくてもわかっとるわい」と言われそうですが、お金を使ったり、人員稼働をもって進めるには、成果指標の設定は欠かせないですね。EBPMの導入が叫ばれているとおり、目的を表す適切な指標で、かつ計測可能なもの、例えば、移住促進なら問い合わせ数、婚活支援ならマッチング数、名産品の流通ならふるさと納税寄付金額など、目的に対して逆算でプランを立てられるような数値目標があるといいと思いますし、いろいろ「できる」ことがある中で、成果指標に意識を向ければ「やらなくていいこと」がはっきりする利点もあります。
ですが、その定義や解釈が難しい場合、いろいろ試しながら使い道を見つけたい場合もあると思いますので、そういうときは極端にローコスト、すなわち、外に仕事を出さず、自前の技術と時間で試行錯誤しながら可能性を見出していくアプローチもありえると思っています。

3)誰を相手にした試みなのかを突き詰める
漠然といろんなユーザーに楽しんでもらうことを期待を持つより、この企画で一番来てほしい人のペルソナを練りこんで、その人たちがどこに生息しているのか、何に関心を持っているのか、リサーチすることが大事だと思います。
技術そのものや開発行為が面白いので、つい、強い情熱と知識を持っている担当の方のプレゼンに押されて、それを承認する管理職の方は中身が良いか悪いかよくわからなくて、とりあえず旬だからやってみなはれ!と、ものづくり先行で動いてしまいがちな性質もあると思いますが、そこはこらえて、最低限、その人に気づいてもらえるような告知をどこにすればいいかとか、その人たちが居そうなプラットフォームはどこか、対象デバイスとコンテンツ負荷の組み合わせはどんなバランスで行くか、全体のあらすじを決めてからでも遅くないと思います。

4)コミュニティを整えるには、外注せずに中の人でじっくり取り組む
メタバースの楽しみは、人の賑わい
です。きれいなワールドや凝ったギミックを一人で楽しむこともできますが、それですと比較対象がPCゲームになってしまうので、やはり人との交流やそこから生まれる可能性に良さがあると思います。
人の賑わいは、イベントという形で、特定の時間帯にわっと集まることもあれば、イベントがなくても、常に人の集まりがそこにある、という場もあります。
イベントに関しては、タイムテーブルがあり、運営や仕切り役がいて、それはリアルのイベントと変わりませんが、常に人が集まっているところには、その存在がプラットフォームの代名詞的な場所になっていて(clusterのロビーや、VRChatのFUJIYAMAやポピー横丁など)、かつ、人が人を呼ぶような状況になっていたり、もしくは、コミュニティリーダーが場を管理しているところもあります。ですが、それを運営するというのは、好きでなければとてもできないような、労働時間の長い、トラブルに向き合うような仕事だと思います。

それを商業的に外注に出すとなると、拘束時間×特殊ノウハウにつき、人件費も相応で、収入のしくみがない以上は持続させるのは極めて難しいと思います。よって、営業時間を区切り、運営は行政の職員が自らノウハウを貯めながらマネージメントするのが現実的な運営像かと思います。

また、一方でユーザーのほうも、常時メタバースに入っているわけではなく、オフライン時はDiscordで連絡しつつ、なにかあればメタバースに集まるのがよくある形です。なので、活気あるコミュニティを目指す場合、クローズドで非同期のコミュニケーションツールと併用するのがよいのではないでしょうか。いまはDiscordを用いることになると思います。(Discordサーバーへのお誘いがある自治体の告知ってあまりみたことない)

5)メタバースに向いたコンテンツ作りをする
もちろん、目的や対象ユーザーが最優先ではありますが、現時点でメタバースに相性のいいと思われるコンテンツは、独断と偏見によりますと、

観光(自然、街並み、史跡、施設) … ワールド巡り遊びの目的地にする
美術館、博物館 … 展示される一つ一つの作品を楽しむ
不動産の内覧 … サイズ感がわかってとても有用
多人数で遊ぶゲーム … コミュニティ活性の着火剤です
音楽ライブイベント … 同じ時間を共有するためのきっかけづくりに
ファンミーティング … 普段会えない人と接点が持てるしあわせ

に関わるものだと思います。

この世界の技術革新は早いですが、しっかりと作られた観光コンテンツ、美術館は、時間が過ぎても参照価値の高いものになりえますし、ルールがシンプルなゲームは長く遊べますし、ライブイベントはメタバースの楽しみである「人の賑わい」を最も体験しやすいコンテンツです。企画の組み立てにあたり、持っているリソース(例えば観光資源、人など)と重ね合わせた時に、成り立つものを選んでみてはいかがでしょうか。

6) 今後もリソースに無理なく運営できる形を定める
さて、これらを企画、制作するにも、Webサイトを作ったり動画を作ったりに比べるとレアなので、ちょっとしたことでもすごい金額の請求書が来るでしょう。長く制作物を使うことを前提に予算を確保するか、それが難しいなら、発注主が自らBlenderとUnityを駆使して、自分で作るという可能性も探っていただくのがいいと思っています。

なぜならば、これまで紹介させていただいた事例で、美術館・博物館系など、息の長くできるコンテンツが立ち上がっても、外注先との契約やメンテナンスコストあっての問題か、期間限定で公開終了しているものもあり、残念な気持ちになりました。

あと、今VRで活躍している人は、必ずしも本職のCGクリエイターではなく、趣味で始めた人が遊びながらいろいろなスキルを身に付けた方も多いです。
それができるのも、

  • 制作に必要なマニュアル、Howto記事や動画などがインターネット上にたくさんあること

  • BlenderやUnityなど制作に必要なアプリは無料だったり、Adobe関連製品などサブスクで済むものがあること

  • 分からないことがあったら人に聞けること。制作者コミュニティで質問できたりする

という環境がありますし、

  • 納品がおわったものを外注に修正してもらうと時間も費用も発生するけど、なにかあれば手元で直してすぐに反映できる

clusterのクリエイターコミュニティ。質問と回答で相互に助け合いがなされています。
clusterには初心者向けの制作ガイドが充実している(UnityやBlenderのノウハウはcluster以外でも通用する)

というメリットもあります。習得するには、強い好奇心とそれを奨励する舞台が必要ですが、持続的な取り組みには欠かせない要件かと思っています。

7)拡がりのビジョンと楽しみを持つ
メタバースは、場所が離れていても人と交流でき、現実では建築できないような構造物も作れたり、思っていることを形にできる夢のような場所です。
そして、一般の人でも手掛けられるくらい敷居が下がって誰もがチャレンジできること、作ったものを回りの住民だけでなく、人とのつながりを通じて、地域のみならず、海外のユーザーにも見てもらえる可能性もある場所です。
私はメタバースを通じて、海外の方々と仲良くなり、日本の観光や食文化に興味を持ってもらい「日本にいつか行きたい」と言ってくださる方がとても多いことに驚きました。実際に、訪日外客統計によると、コロナ明けの円安以降、インバウンドの観光客は史上最大規模で増えており、海外ユーザーとの会話を通じて日本のニッチなローカル旅に対する知識欲が深まっているのを感じます。地方にとっては海外の潜在的なお客さんに地元の良さを知ってもらえるチャンスなのではないでしょうか? 日本酒、お菓子、お茶、伝統工芸品、着物、いろいろフックがあると思います。

将来的に起こりうること

ここにあるのは生涯未婚率のグラフです。

2020年のデータを基にした算定

2025年以降の推計値は2030年以降上昇ぶりが緩やかなものとなり、2040年時点で男性は29.5%、女性は18.7%になると推計されていて「これまでの未婚化、晩婚化の流れが変わらなければ、今後も50歳時の未婚割合の上昇が続くことを予測している」と言及されています。

そのような情勢の中で、人が社会性を得るための環境として、物理的な制約を超えて、対面に似た形で時間を共有できるメタバースには、今以上の需要が出てくると思っています。

朝起きたら「おはよう」と言える相手がいて、最近のニュースの話題や、自分のすきな趣味の話をしたり、心身に不調を来した時にヘルプを出せる人がいるというのは独居老人が増えた高齢化社会に向けて、互助的なセーフティネットとして機能するのではないかと想像しています。

そうして、新しい社会の形の一端として、いまより普及、浸透していくことを見越していきつつ、行政としてそれらをどのような形で活用、サポートしていくかのありかたについては多くの可能性があり、それがこの先、さみしい社会を防ぐための手段になることを期待しながら見守っていきたいと思います。

さて、アドベントカレンダーのバトン先は、hattori∞さんです。お題は「モンスターAIをつくる!」とのことで、内容が気になりますね!

ではでは!


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こはだ
もしサポートをいただけましたら、制作活動を行う際のソフトウェア、アセットの購入資金に充てたいと思います!