猫が隙間につまった
早朝、マコの、いつもとは違う低い鳴き声で目が覚めた。
なにかピンチのようだ。
怪我でもしたのかと、飛び起きてマコを探す。
「マコ!マコ!」
声は聞こえるのに姿が見えない。
確かにキッチンの方から聞こえてくるのに。
天井から床までくまなく探していると、マコは冷蔵庫と洗濯機の13センチほどの隙間に、前を向いて挟まっていた。
子猫の頃は、突然便器に入っていたり、毎日のように色んな事件が起きたものだが、こんなことは久しぶりだ。
おそらく、隙間の向こうに何かを見つけて入り、出ようと回転したところ、つまってしまったらしい。
マコは自分が思うよりもずっと大きくなったのだ。
大好きな本「くまのパディントン」では、パディントンがよく隙間につまるのだが、そのたびにお手伝いさんのバードさんがバターを持ってきて、油分で滑らせて救出する。
幸いマコは、洗濯機を少し動かしただけで自力で出てきた。
バツが悪そうにしていたので、傷つきやすい青年の心情に配慮し、あえて大騒ぎせずに「大丈夫?」と一言だけ声をかけた。
初めは少し足を引きずっていたけれど、すぐに治ったようで、高いところから飛んでいたので大丈夫そうだ。
朝食の間はずっと食卓の上に寝そべって動かず、怖かった気持ちや助けてくれたことへの感謝、恥ずかしさなど色んな気持ちが重なって、そばにいたいようだった。
マコが寝そべると食卓は3/4が占領され、私たちはその隙間で朝食を食べた。
夫が「マコ、気にするな。お父さんも挟まったことあるよ、抽象的な意味では・・」と励ましていたが、一体どういう風に挟まったのだろう。
身動きできないような心情になったことがあるというような意味だろうか。
私も、「マコ、お母さんだって子供の頃は挟まったよ」と励ましつつ、ついかわいくて「はさまり坊や」などと意地悪な声をかけてしまう。
それにしても、留守の時でなくてよかった。
野良猫だったら、助けが来なかったら致命的ではないか。
決して笑いごとなんかじゃない。
マコが来てから、外にいる猫を想うことが多くなった。
寒い日や暑い日はどうしているんだろうとか、お腹が空いていないかとか、マコを生後1か月まで健康に育ててくれたお母さんにも想いを馳せる。
マコと出会ったことでまた一つ、世の中の見えていなかったことが少しずつ、見えていくような気がする。