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津軽平野のランドマーク・岩木山

                     登山者の魂を揺さぶる聖山

                所在地;青森県弘前市西津軽郡鯵ヶ沢町

                 巨石・磐座を訪ねる一人旅・・・東北 

 


津軽の富士

青森地方を旅する時、必ずと言っていいほど登拝する山が岩木山である。標高1,625m、青森県の最高峰で、津軽富士とも呼ばれる。
 
広大な津軽平野にそびえる美しい独立峰で、津軽の人々は農業、漁業を問わず岩木山を守護神として崇めて生活してきた。
その秀麗な山容は、見る地方によって若干異なってくるが、津軽平野のどこからでもその美しい女性的な姿を見ることができ、人々の厚い崇敬の対象となってきた。

 “十二単衣を着たような岩木山”・小舘哀三・著「岩木山の山岳信仰」、
 “透きとおるくらいに嬋娟(せんけん)たる美女”・(太宰治・「津軽」)

などと形容され、その伝説も女性が中心で、
田光沼(たっぴぬま)の童女が大己貴命に光る玉を献じて夫婦となって祀られ、その後安珠姫が祀られ、さらに土地の三女神姉妹の一人が祭神になった、などと伝承されている。
麓の岩木山神社は津軽一の宮であり、多くの人々から寄せられる農の神・漁の神としての信仰の象徴的な存在である。

津軽平野から見た岩木山

ドライブウェイは便利で快適


麓から登山するには相応の装備と登山経験を必要とするが、八合目までスカイラインを利用して車で行き、そこから9合目までリフトで運んでもらえば体力の消耗は少ない。とはいえ、頂上までの真摯な登山の姿勢は、どこから登ろうが変わるものではない。
頂上は岩塊が広範囲に広がっており、下界を見下ろす崖っぷちに、赤い鳥居と小さな社殿が建てられている。岩木山神社奥宮である。植物はほとんどなく、物質的には無機質な空間であるが、最初に頂上に立った時の感動は忘れることができない。
全身に、目に見えない何かが降り注いで来て、心が揺さぶられ、魂が共振する・・・とでも言おうか・・・・・我知らず、感極まってむせび泣いていた。・・・
 我に還って歩き始めると、心と身体が共に洗われたかのようなさわやかな感覚を持ったのだった。
 

岩木山神社奥宮
奥宮


 

その歴史と伝説

「日本の神々・第12巻」によると岩木山神社の祭神は「顕国玉神(うつしくにたまのかみ)・多都比姫(たつひめ)神、大山祇(おおやまつみ)神・坂上刈田麻呂(さかのうえのかりたまろ)命・宇賀能売(うがのめ)神」となっている。
顕国玉神とは日本全土を開拓したと云われる大国主命即ち大己貴命の別名である。この神に関して、次のような津軽の開拓を物語る神話が伝承されている。
・・・津軽において大己貴命が国土経営をされていた折、白く光る玉を持つ童女と夫婦になり共に国土経営に当たった。童女は国安寿姫と呼ばれ国土経営終了後に岩木山上に鎮座された。・・・(「東北の山岳信仰」)
のちに、森鷗外の小説「山椒大夫」で知られる安寿と厨子王の伝説がこの神話に重なってくる。
古代において、岩木山は自然崇拝の対象であったが、仏教が伝来し比叡山の影響を強く受けて一時期は寺院となり、神仏が混淆し修験道と結びつき、その流れの末に岩木山神社が形成された。
もともと古代には、山の頂は神霊が往来する場所であり、山には祖霊が籠ると信じられてきた。津軽の人が亡くなると岩木山の御倉石におさまるという。そして人々は春と秋に祖霊を里に迎え、祭祀行事を行なう。 (「東北霊山と修験道」)
 
今から約1200年前に山頂に社殿が建てられ、後に坂上田村麿によって山麓に岩木山神社が建立され、山頂の社殿は奥宮となった。(岩木山神社ホームページ)
信仰形態の変遷の歴史はやや複雑に見えるが、岩木山信仰の源流は磐座にあるといえる。来歴を単純に考えると、これは、全国に見られる、巨石信仰を源流とする典型的な神社の由来の形態である。


岩木山神社奥宮

 

自分にとっての岩木山


岩木山は大変魅力的な山であるが、自宅からは車で二日かかる遠方にある。初日は7,8時間ほど一人で運転し、途中で一泊し、翌日さらに夕刻まで運転、二日目に盛岡周辺にベースキャンプとして予約したビジネスホテルに泊まる。そして三日目に、あこがれの岩木山に登拝する。帰宅するまでおよそ三泊四日の一人旅となる。
 
巨石磐座を訪ねる自分の旅の視点から見ると、岩木山は特異な存在である。つまり、岩木山自体がご神体即ち巨大な磐座に見えるのだ。たしかに頂上や登山道周辺には先述の御倉石をはじめ多くの巨石が見られ、中でも岩木山の北東方向の大石神社の大石は御神体として信仰されている。そこで、岩木山を代表するあるいは象徴する磐座はどれか、という自問に対しては、それは巨大な岩木山自体である、と自答するほかはない。
 

参考文献


  岩崎敏夫・著「東北の山岳信仰」・岩崎美術社
  谷川健一・編「日本の神々・第12巻 東北・北海道」・白水社
  月光善弘・編「東北霊山と修験道」--山岳宗教史研究叢書7」・名著出版
  小舘哀三・著「岩木山の山岳信仰」
  岩木山神社ホームページ


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