動機付け要因と衛生要因
モチベーションに関する理論として、ハーズバーグの二要因理論がある。
アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグが20世紀に提唱した理論で、仕事に対するモチベーションを上げる(または下げる)要因を「動機付け要因」と「衛生要因」に分類した考え方だ。
動機付け要因とは、仕事の満足に関する要因であり、これが満たされることで仕事の満足度が増す。
動機付け要因の具体的な要因としては、次のようなものがある。
達成感
認知や承認
仕事そのものの充実感
責任感
昇進や成長の機会
一方、衛生要因とは、仕事の不満足に関する要因であり、これが満たされていないと不満足度が増す。ただし、これが満たされていたとしても不満足感がなくなるだけで満足度は上がらない。「不満足要因」とも呼ばれる。
衛生要因の具体的な要因としては、次のようなものがある。
給与
職場環境
上司との関係
会社の方針と管理
仕事の安定性
福利厚生
筆者の体感としては、この理論には確かに一理あると感じる。
自分のいまの職場環境に関して言えば、福利厚生や給与面は恵まれており、働き方に関する制度はかなり整っている。
衛生要因に分類される多くの要因はクリアできていると思う。
一方で、動機付け要因に目を向けると、この部分は不十分なものが多い。
仕事のやりがいが感じられない、達成感を得られる機会が少ない、ことなかれ主義の組織風土、他人に関心がない人の多さ、といった空気感が組織内に充満していて、達成感や充実感は乏しい。
ただ、たとえ動機付け要因が満たされたとしても、それが本当に自分の心の満足につながるのだろうか。
人間は満足した瞬間から、次の不満を探し始める性質を持っているのではないかと感じる部分もある。
また、何らかの制度を導入すればこの部分が改善され、個々人の満足度が上がるかどうかというと、そんな単純な話ではないだろう。メンター制度や360度評価を導入したからといって、満足度が劇的に上がるとは考えにくい。衛生要因は外部からの施策で分かりやすく改善が図れるとしても、動機付け要因は人の心、感じ方に大きく依存しており、みんなが何となく課題に感じていたとしても、その部分を変えていくのは容易ではない。
個人にできることとしては、この概念を理解した上で、いかに日常の仕事の中に楽しい部分を見出すか、あるいは目立たない仕事であってもそれが誰かの役に立っていると信じて、小さな達成感を見出す、といったことが挙げられるだろう。
今の環境がよくならないのは組織のせいだ、組織が変わらないからだ、という思考には陥らない方が良いと思う。組織の事業内容やこれまでの歴史の中で培われた風土、そこにいる人々、すういった複雑な要素の積み重ねで今の環境ができている。それは簡単に変わるものではない。
ある種の諦めの気持ちを持ちつつ、自分の環境と向き合っていくしかないだろう。
ただ、仕事があるということ、衛生要因が整った組織に属していることは、本来極めて恵まれたことであることに疑いの余地はない。
そのことを見失わないように、今日もタスクをこなしていく。