マイペンラーイと日本人

震災を受けた能登一帯が台風崩れの低気圧によって洪水で流されている報道を見ていた私の脳裏に、ふとある光景が浮かんだ。


こうした自然災害で交通機関が麻痺したとき、駅や空港で途方に暮れている人にマスコミがマイクを向ける。「どちらに向かわれるんですか?」


するとその人は、「明日どうしても参加しなければならない会議が福岡であって・・・」と困惑しきった表情で答える。


そういう時私は


「日本人って、分からない」。


と思う。


台風なのだ。大災害なのだ。明日の福岡の会議なんか、あなたがどう出来るというのだろう。


私なら、そしてタイ人なら、こう言うとき一言


「マイペンラーイ」と言って、弱々しく笑う。それだけだ。だってどうしようもないんだから。


先日、規模は小さいが似たようなことがあゆみ野クリニックでも起きた。土曜日外来診察中に停電になった。最初はブレーカーが落ちたのかと思ったが、やがて周囲一帯が停電していることが分かった。そう分かった瞬間、私は「あ、そうなんだ」と思い、待合室に残っていた患者さん達に「すみませんが、この一帯が停電しているようです。今日の外来は出来ません」と告げた。「もう薬がないんですが」と言った患者もいたが、私は黙って肩をすくめた。そして従業員達に「仕方ないよ、帰ろう」と言ったのだが、彼らは何故か躊躇している。どうしたの?と聞いたら「だって明日休日当番ですよね、明日も停電したままだったらどうなるんでしょう?」という。


私は絶句した。明日も停電したままなら休日当番は出来ないに決まっている。だからってその地域一帯の停電の原因が我々に分かるわけもないし、明日復旧するかどうかも分からない。自分に分からないことを何故そんなに心配するのだろう?


日本人って、分からないなあ・・・。


私は両親がともに日本人であるという点では、明らかに日本人だ。日本国籍も持っている。しかし大災害で新幹線も飛行機も止まっているとき翌日の福岡の会議を心配して必死の形相になったり、自分には全く手に負えない停電で翌日の休日当番が出来るかどうかを心配する日本人というのは、私には


「全く理解出来ない」。


だってそれって、マイペンラーイじゃないか。


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