石巻・最低賃金の街

これからいきなり毒を吐きます。これであゆみ野クリニックは何人かの患者さんが離れるかも知れませんが、構いません。

先日蛇田のマックのパートの時給が千円になったと書きました。実はその千円というのは、マクドナルドという世界的超巨大企業のフランチャイズだからこそ出せる時給です。

今日、近所の某コンビニに行ったとき、バイト募集の紙が貼ってありました。日勤時給925円。

これは、最低賃金+2円です。今宮城県の最低賃金が923円なのです。だからそのコンビニは、最低賃金に2円だけ乗せましたって訳です。

2円乗せたって、要するにこれは最低賃金です。つまり。

石巻は最低賃金の町です。

最低賃金というのは、ぎりぎり生きていける最低です。どうにかこうにか、借家の家賃を払い、光熱費を払い、夕方の安売りの惣菜を買ってなんとか生きてだけはいけますというのが「最低賃金」です。かつかつなんです。

しかし、石巻のような地域経済では、「労働者=消費者」です。労働者がカツカツだってことは、消費者がカツカツなんです。経営者の気持ちは分かります。私だって零細クリニックの経営者なんですから。経営は厳しい。融資は受けられない。潰れるかどうかのカツカツだ。だから人件費は抑えるだけ抑える。

それはそうです。しかし石巻のような地方経済では「労働者=消費者」です。企業が最低賃金しか出さなければ、労働者の生活はカツカツになり、生き延びるための最低限しか支出は出来ない。と言うことは、どの企業にとっても、消費者の財布がカツカツなんだから、経営は成り立たないのです。

当院の患者さんで心電図の値段を聞かれた、睡眠時無呼吸と診断したがc papの値段を言ったら「止めます」と言ったという話を書きました。

その人達がケチなのではないです。要するに石巻経済が最低賃金だから、皆さん生きていくのに必要な医療費を支出するのもためらうのです。病気を治すためのお金は大事だけど、しかしその日の食い物を買う金には換えられない、と言うのが今の石巻です。

無論、石巻の地元企業の経営自体がカツカツで、人件費削るだけ削るってのは分かります。だけど、それやってたら石巻経済は自滅します。だって石巻では「労働者=消費者」なんだから。労働者の給料をカツカツに抑えるってことは、消費者の購買力は0になるってことです。生きていくための最低限より他に、購買能力ないって事だからです。

じゃあお前はやってるのかと言われたら、私はやっています。個人の給料の実額を晒すことは出来ませんが、当院の正規職員の給料は他院の平均よりは遙かに高い。一時パートをお願いしましたが、パートの時給も1400円としました。

当院はまったく余裕はありません。私自身、永年愛車だったボルボを手放し、中古のプリウスに乗り換えて燃費を削ってます。でも当院の二人の正職員の給料は、石巻の他のクリニックよりはかなり高くしています。またパートの時給1400円も他と比べたらかなり高い。

会計士に「石巻でそんなに給料高くしなくてもいい」と言われました。でも私はこう答えたのです。

どこもかしこも最低賃金でやっていたら、要するに石巻でクリニックに金出して掛かってくれる人はいなくなるんだ。だってみんな血圧より今日の飯の方が大事だもの。

そうでしょ?

これは、アメリカの自動車会社フォードのやり方に倣ったのです。フォードは大衆車メーカーを志しました。しかし当時、アメリカ人労働者の賃金はともかく低く、労働者が車なんか買えなかった。そこでフォードは、自社の賃金を上げたのです。「労働者=消費者」と見抜いたからです。

いったんフォードが賃金を上げたら,他の自動車メーカーも賃金上げざるを得なくなったのです。それで新参者のフォードは既存の自動車メーカーからかなり嫌がらせをされたんですが、ちゃんとした給料をもらえるようになった労働者は、フォードの車を買うようになったのです。

無論フォードは大衆車です。ドイツのベンツやイギリスのロールスロイスとは、比べものになりません。しかしそのフォードの車も、労働者、つまり消費者が車を買う金が無ければ売れなかった。しかしフォードが最低賃金よりずっと高い賃金を出したことにより、他の自動車メーカーが追随せざるを得ず、そうなれば全ての業界も仕方が無く賃金を上げざるを得なくなり、賃金が上がった労働者が自動車の消費者になったから、アメリカは本格的なモータリゼーション社会になったのです。

開業2年目の貧乏クリニックの当院が、まず口火を切りました。他院で働く看護師さん、当院の給料は今働いているところよりずっと高いです。看護師という専門職に見合う給料を出しています。だから今、自分はせっかく看護師という国家資格があるのに安い給料しかもらえないとお考えの方がいたら、当院に移ったら良いです。そうしたら、他院も職員の給料を上げざるを得なくなります。それが連動して石巻の給料が上がれば、石巻経済は回り出すのです。「ウチの経営は厳しい」と言って地元の事業所が皆人件費を最低賃金に抑えている間は、石巻は要するに「最低賃金の街」であり続けるのです。

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