甲状腺疾患
実は今石巻には甲状腺の病気をちゃんと診る医者がおらず、みんな困っています。
数ヶ月前まで、石塚内科の石塚先生が甲状腺疾患を診ておられました。石塚先生は元々石巻日赤で消化器内科を担当しておられたのですが、石巻には甲状腺の病気を診る医者がいないということを患いてご自分で勉強され、甲状腺疾患を診療されていたそうです。
ところが数ヶ月前石塚先生がまだ60歳の若さで早逝されてしまい、石巻には甲状腺疾患を診る常勤医がいなくなってしまいました。最近市立病院に週に一日専門医が仙台から来て甲状腺外来を始めたそうですので、今後専門医に診せる必要がある人はその外来に紹介することになります。
甲状腺疾患と言っても、実はたくさんあるのです。ホルモンの値が高いか低いかで言えば、甲状腺機能亢進症と低下症に別れますが、しかし甲状腺が腫大していると「甲状腺腫」です。ところが甲状腺が腫大していても甲状腺ホルモンの値は正常だと言うことがあります。これは単に甲状腺が腫大しているだけで、悪さはしていないのです。
ところが、甲状腺には腫瘍が出来ることがあります。これにも「良性腫瘍」と「悪性腫瘍」、つまり甲状腺癌があります。しかも甲状腺癌は大きく4種類あるのですが、ゆっくりゆっくり進行してなかなか症状を現さないものと、急激に大きくなってあっという間に転移するものがあります。しかも、良性腫瘍であっても甲状腺ホルモンを過剰に出すもの、出さないものがあるし、甲状腺癌であっても甲状腺ホルモンを過剰に出すもの、出さないものがあります。さらに加えて、甲状腺の自己免疫性疾患である「橋本病」があります。正常な甲状腺を、免疫系が外敵と間違えて攻撃してしまうのです。この疾患は日本人の橋下博士が発見したので、世界的にも未だにHashimoto diseaseと言う名前がよく知られています。今はなるべく病気の名前を個人名で呼ぶなと言うことになっているので「慢性甲状腺炎」という名前もありますが、未だにHashimoto diseaseの方が国際的に通りがよいのです。因みにバセドウ病というのはバセドウ博士が発見したのですが、今では一般的に甲状腺機能亢進症だが甲状腺癌では無い人をそう呼んでいます。
甲状腺一つでこれだけ病気があるので、甲状腺関係は医師国家試験や内科専門医試験の「山」なのですが、到底全部は覚えきれません。「甲状腺科」という専門科があるのも頷けます。これだけ多種多様な疾患を起こすのであれば、甲状腺だけの専門家というのは成立します。ところが甲状腺の異常は副腎や脳下垂体など様々なホルモン分泌と関連して動きますから、甲状腺の疾患を診るというのはそれに関連した色々なホルモン臓器の疾患を合わせてみる、と言うことなのです。
大変なのです。
だからこそ、なかなか石巻クラスの地方都市では「甲状腺の専門医」はいません。非常に高度な医療になりますから。本当に、困ってしまいます。
あゆみ野クリニックでは、健診で「血圧が高い」と指摘されてきた人や、「年中疲れやすくて怠い」という人は全員甲状腺ホルモンの採血をします。あれも、単に採血すればよいのでは無くて、必ず10分間安静臥床、つまり静からところで横に寝かせてから採血するのです。当院にはそんなに部屋が無いから、10分間一人を安静臥床させるとその間その部屋は他に使えないので、他の患者さんがつかえてしまいます。しかし10分間安静臥床させてから出ないと、こういうホルモンは正確に測れないのです。
私は日本内科学会の認定医ではありますが、専門医ではありません。専門医を取る試験は認定医の試験より難しくて、こうした細かいことを正確に知っていなければ合格出来ないのです。でももしかしたら、開業してものすごく色々な患者さんを診るようになった今なら、専門医の試験にも受かるかも知れません。でも今となっては、別にあんな「専門医」という賞状があるかないかなんかあんまり日常診療にも経営にも関係ないので、私は改めて専門医を取ろうとは思いません。無論、石巻の患者さん達が「是非内科専門医の資格を取ってくれ」というのでしたら頑張りますが、いやだって私も今年の8月で還暦になりましたから、ああ言う「暗記物」は、ねえ。
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