石巻市立病院問題

石巻市立病院のHPを見ました。「標語」を探したのです。

標語って、なんだか取って付けただけで意味はないと思っている人は多いと思います。しかし私が自らあゆみ野クリニックの経営を引き受けたとき、色々な先輩医師から「標語を作りなさい。標語は大事です」と言われました。

標語。英語で言えば「ミッション」です。ミッションというのは、「自分は何をめざすのか、何を担うのか」という事です。「この病院、あるいはクリニックは何をめざし、何を目標とし、何を担うのか」を明確にするのがミッション。だから大事なんです。ミッションが不明瞭では、職員全体が「何を目指したら良いのか」分からなくなるのです。

さて、石巻市立病院のHPに標語、ミッションはあるでしょうか。

ないですね。

しかしHPトップに

「市民に愛される病院。市民に信頼され市民が満足する質の高い医療の提供」と表示されます。これが、おそらく石巻市立病院のミッションなのでしょう。

一方、あゆみ野クリニックのミッションはこうです。

「私の前に訪れる人は、皆患者である」

１． あゆみ野クリニックは、どんな患者も分け隔てしません。

１．あゆみ野クリニックは、常に医療看護の最新の知識の研鑽に努めます。

１．あゆみ野クリニックは、患者もスタッフも健康で文化的な最低限度の生活が送れるよう努力します。

「健康で文化的な最低限度の生活」というのは憲法第二十五条の冒頭です。「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」。

有名な「生存権」です。生存というのは、単に生きていることではない。健康で文化的な最低限度の生活を営むことだ。日本国は憲法でそれを国民に保障するのだ、と言うのが憲法第二十五条です。この文章からは、これを起草し、議論した人々の息吹、熱意が伝わってきます。それが米軍関係者の起草であろうがどうだろうが、この憲法草案は当時の国会で侃々諤々、ものすごく熱心に討議されたのです。これからの日本、全てが焼け跡、灰燼に帰した日本に、我々はどういう国を作るべきか。この一文は、彼らの息吹、熱意を８０年以上経った今もまざまざと伝えています。

あゆみ野クリニックの標語はそこから採っています。しかも「患者もスタッフも」なのです。患者さんは神様です、ではない。患者もスタッフも共に人間なのだから、両方が等しく「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ことが出来るようにすることを目指す。

これがあゆみ野クリニックの標語、ミッションです。

標語、ミッションというのはこう言うものです。ここは何を目指す医療機関なのかを明確にするのがミッション、標語です。

石巻市立病院のHPの謳い文句。

「市民に愛される病院。市民に信頼され市民が満足する質の高い医療の提供」。

いや、まあ、そりゃそうなんでしょう。市立病院なんですから、市民に愛されるべきでしょう。市民に信頼され、市民が満足する質の高い医療の提供」。

これは、誰も反対しません。しかしだからと言って、石巻市立病院の息吹は感じられない。パッション（熱意）が何処にも感じられない。具体的に、石巻市立病院は何を目指すんですか？と言うことは、まったく伝わってきません。

「通り一遍」だ。

実はここが、「石巻市立病院問題」、はっきり「問題」と言いますが、その根っ子なんです。

石巻市立病院って、何を目指すんですか？石巻医療圏において、どういう役割を果たそうとしているのですか？

市民に愛されるとか信頼されるとか、そりゃそうでしょう、市立病院なんだから。でもそれは、当たり前すぎます。市民に憎まれ、信頼されない市立病院なんてものはない。

そうじゃなくて。

石巻市立病院は津波ですっかり流された。場所の選定から０から新しく病院を建てることになった。その時、石巻市民、あるいは少なくともその代表であるはずの石巻市議会がワーキンググループを作り、市民一人一人の声を聞き、「なんの為の市立病院を作るのか、どんな使命を果たすべき病院が今石巻に必要なのか」を議論して議論して、徹夜で議論して結論を出すべきだったのです。

市立病院が流されたから復興予算で病院建てます。

もうそれは「はいそうですか」って訳でジャブジャブ、無制限に金は降ってきた。「金が降ってくる間に病院建てちゃえ。今じゃなきゃ金なんかもらえないんだから」。

ええ、それは事実です。金もらえるウチに建てる。

だけどね。それでご立派な病院を建てた、最新鋭の検査機器を入れた、手術室から何でもかんでも、ともかく金はいくらでももらえたんだから入れた。

仏作って魂入れず、って奴です。

市立病院は何をするんですか、果たす役割はなんですか？

これが全市民レベルで、一回も議論されなかった。要するに何をする病院を作るのかまったく誰も考えず、病院を作った。

石巻市立病院問題の根っ子は、そこです。