医者の顔
晩飯を食いながら、相方事務長がそう言えば昨日、と言いました。
昨日も朝から発熱受診依頼の電話がバンバン掛かってきて、人員が少ない当院はかなりキャパオーバーでした。そんな中、「うちの子がおもちゃの時計の針を飲んじゃったんです」という電話があったそうです。相方事務長は既にバンバン掛かってくる電話対応でテンパっていました。彼は自己判断で「あー、それはうちでは無理です」とだけ言って電話を切ったそうです。
その話を聞いて、私は怒りませんでした。しかし彼に諄々とこう言うことを話しました。
お前、それは救急だよ。だけどお前に「これは救急だと理解しろ」とは言わない。お前は事務なんだからね。だけど判断に困る事例について、事務のお前が判断して答えてはいけない。全て私に聞きなさい。
そう言ったら相方、「だってクリニックだとあんた僕につけつけ言うじゃ無いか」。
そりゃそうだよ。家では相方でも、クリニックでは院長と事務長だ。忙しい診療の合間に、私は断片的な指示を出す。患者さん診療中に持ち込まれた案件にゆっくりのんびりなんか言えない。
それでも相方は不満そうです。そこで私はこう言いました。
当院の看護師さんに日頃私はかなり丁寧にものを言うよね、無論からかうときもあるけど。だけど「急変」となったら私も彼女もガラッとスイッチ変えるのは気がついているだろう?
バイタル!ラインソルデム500!なんて私が言う前に、彼女は既にバイタルとって血圧いくら、体温何度、言ってくるだろ。ラインソルデムでいいですね、と彼女が言うとき、私は私で患者を診察し、意識状態、呼吸状態なんかを覧て、O2 2L! なんて言い捨てるように指示するけど、そういう時彼女は言い方が横柄だなんて不平は言わない。
あゆみ野クリニックはちっぽけな町医者だけど、いろんな顔を持っているんだ。あるときは救急を扱うし、またあるときは心療内科の患者さんの相手をじっくり1時間かけてやったり、認知症の診断をかなり高度なレベルまで検査したり、煎じ薬の漢方診療のために難しい中医弁証をやったり。無論心療内科の患者さんの話を聞いている最中に急患が発生することもある。その時は即座に急患に対応する。心療内科の患者さんには「すみません、ちょっと急変している人がいまして」と言ってそっちは中断する。それはもうお前は見て分かっただろう?
相方、頷く。
医療ってのは、いつも鷹揚に構えていられるわけじゃない。最近は有り難いことに患者さんも増えてきた。そう言う中で私が何か聞かれたら、手短にパッと指示を出す。あるいは聞かれた内容で「やばい!」と思えば診療中の患者に「すみません、ちょっと急変で」と言ってすぐそっちに掛かる。医療ってのははそう言うものなんだ。ちょっと普通の商売と違う。ともかく、事務のお前に判断は求めないと言うより、事務方が医療について判断してはいけない。如何に私の答えがつっけんどんであったにしても、必ず私に聞きなさい。医療のことを判断するのは、医者だけなんだ。
どうやら分かってくれたようです。しばらくコロナでドタバタが続くでしょう。お問い合わせの電話や患者対応で、少々不手際や患者さんからしたら「つっけんどん」と思われる対応もあるかと思います。しかし今週から始まったコロナ大流行はまさに毎日が救急です。見落としてはいけないことは見落としてはいけない。やるべき処置はやらなければならない。しかし普段のような丁寧な口調や態度でのんびり診療出来る状態ではなくなっています。どうかその辺は、しばらくご容赦ください。
https://www.ayumino-clinic.com
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