若き魂に幸あれ

私は両親に全幅の信頼を置いたことは生涯一度もありません。物心ついた頃から私の両親はいつもいがみ合っており、父は家庭に寄りつかず、母は父が如何に悪人であるかということについて私をmind controlすることに余念がありませんでした。しかし私は彼女の企みを見抜いていたので、要するに私にとって父も母も、まったく信用するとか、頼りにする相手ではなく、どの程度妥協して向こうから私に必要なことを引き出せるか、という交渉相手でした。

今私は自分のクリニックで18歳になったばかりの女性を診ています。その人の母親は、彼女が5歳の時に今の夫と再婚しました。それ以来、彼女は血の繋がらない「母の夫」と、その方肩を持ってヒステリーを起こす実母の家庭で育ってきました。彼女が私のクリニックに始めてきたのは去年の夏、17歳中頃でした。

5歳からそれまで彼女はその家庭状況に耐えてきたのですが、たまたまその「母の夫」から「早く家を出ていけ」と言われたのをきっかけに、こころのバリアが破れてしまったのです。

初めて彼女が来院したときのことは、よく覚えています。彼女は自分の主訴、症状、悪化要因などをまるで看護師が患者について医師に報告でもしているかのように淡々と、冷静に語ったのです。その冷静な口調と内容の過酷さのあまりの乖離に、私は言葉を失いました。

彼女の話を一通り聞いた後、私はまず児童相談所に連絡を取りました。そして(途中は省略しますが)、児童相談所と私がその後必ずその人を見守ると約束したのです。

それまで、私も極めて事務的に問題に対処していました。児童相談所と電話で冷静にその人に対する対応を協議したのです。

しかし、その協議を終えた後、本人に向き直って、「いいかい。君はこれまで、一人で頑張ってきた。5歳から17歳まで、頑張ってきた。よく頑張った。本当に、よくぞここまで一人で絶えたね。だけど、今日から君は一人じゃない。私が覧ている。このクリニックの全員が覧ている。児童相談所が覧ている。今からは、みんなが君を見守る。何かあったら、すぐここに来なさい。もしここに連絡が付かなければ児童相談所に電話しなさい。いいかい。これまで君は独りだった。独りっきりで絶えてきた。だけど今日からは、今これからは、そうじゃないよ」と言ったとき、それまでまるで冷静で事務的な口調だった彼女がわっと泣き伏したのです。私もどっと涙が溢れて止まりませんでした。

今、彼女は18歳になり、児童相談所の手は離れました。4月からは介護の仕事に就くそうです。

若き魂に幸あらんことを!

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