高校生

何故かふと思い出した。千葉高三年生の頃、毎日京成電車で乗り合わせる同じ千葉高の生徒がいた。 通勤通学の満員電車って、ある車両のある入り口付近の面子が固定することは多い。毎朝同じような顔ぶれが乗っている。だからその子と毎朝乗り合わせるのは別におかしくもなかったのだが、ある日満員の車内で彼と私はぎゅうっとひっついた。それはそうなんだが、ひっついたらなんだか抱き合ってるような事になってしまった。私好みのぽっちゃりした男の子だったからそのままにしていたらなんとなく向こうも私にひしと抱きついてくるかのようだ。

まさかね、と思ったら翌日もその翌日も同じようになった。その子と抱き合っているか私にその子が後ろ向きにもたれかかってくるか、が毎日続いた。ある日、電車が揺れたときふと彼と私の指が触れた。彼は指を逸らさない。ためしにもう一本の指を触れると、また逸らさない。結局お互い手を握り合いながら抱き合っている。それからは毎朝満員電車の中で彼と抱き合いながら手を握ることになった。

しばらくして、彼は一年下の学年だとわかり、クラスも分かった。あるとき廊下で行き会って、私は「やあ」と声を掛けた。

「君、可愛いね」

彼はもう真っ赤になって、慌てて逃げていった。彼とはその後少し話を交わすことは出来たが、結局二人の関係は「満員電車の中のつかの間の恋」で終わった。

と書いてきたところで、一学年下という事は、今年私が還暦なんだから、彼は生きていれば今59だという現実に気づいてしまい、甘い回想はパチンと弾けた。しかし当時同性愛者なんてものは存在しない建て前だったから、不純異性交遊という言葉はあっても不純同性交遊なんて単語は無かった。もしこの秘密がばれたら、学校とか親はさぞ困り果てただろう。

うーん、後鼻漏が酷くて眠れぬ。

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