ヒルのようなヤツ
「ヒルのようなヤツ」という言葉を投げつければ紛う事なき罵倒語ではあるが、コウガイビルに「ヒルのようなヤツ」、と言ってもそれは、眼鏡でバンダナ姿でデイバックを背負った人物に「オタクのようなヤツ」と言うに等しいだろう。
なぜならコウガイビルは「ヒルのようなヤツ」に必須の、まとわりついて生き血を啜るという外道な食事スタイルをとらないからである。(同様に「眼鏡でバンダナ姿でデイバックを背負った人物」すべてがちっちゃい女の子に「萌え〜」と叫んで相手を恐怖のどん底に陥れるわけではないしそもそも「オタク」だってそんなことはしない。)
ところでそもそもコウガイビルってどんなビル? 耐震構造はちゃんとしてるの? それともめちゃでっかい唇のこと? という方もいるだろうから説明すると、要するにこういうやつだ。
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雨上がりの日、あなたは少しアンニュイな気分で公園を散歩している。呼吸する度に適度な湿気を帯びた空気が疲れはてた胸に染み渡り、「こんな感じなら雨も悪くないなぁ」と思いつつふとアベリアが小さなな花をたたえている植え込みあたりに視線を移してみると目の端になにか紐のようなものが動いて見える。なんだろう?と思って顔を近づけてみると鮮やかにテカる黄色のボディにクッキリとした3本の縞をたたえたなにかが、電磁波攻撃を受けたかのようにくねくね踊り狂っていてその不気味な暗黒舞踏に思わず「ぐへやぁ〜〜〜っっっっ!!」と奇声をあげそうになったら、それは間違いなくコウガイビルである。
コウガイというのは郊外でも口蓋でもなく笄、すなわち女性が髪に挿す髪飾りに似てるのでこの名を冠してるとのこと。扁形動物の身の上でありながら相当な自意識過剰である。
そもそもヒルとはなにか?といえば、守銭奴の借金取りが取りすがりまとわりついて、みるみるうちに相手の生き血をすすりあげるイメージがあるが、コウガイさんについていえば血などという下品なものを口にすることはない。
じゃあ、コウガイさんはなにをして口に糊しているのか、というとミミズさんやナメクジさんである。
コウガイさん普段はT字型のあたまをヘドバンしながら移動しているが、ナメクジさんに出会ったりすると「このナメクジ野郎がっぁぁぁああーー!」と本性剥き出しに怒涛の寝技へともつれ込む。で、おなかにあたりにある口から消化液をしたたらせ相手を溶かしながらのみこんでいくというジョン・カーペンターが裸足で逃げ出す物体Xチックな食べ方をする猛者でもある。
で「ナメクジ」といえば「ナメクジのようなヤツ」と言えばこれまた核心を突いた罵倒語で、罵倒語が罵倒語を捕食する罵倒界の大バトル、南海ならぬ湿地上の大決戦が繰り広げられる。
そのさまは元々ぬめり感満載のところにもってきて、消化液が分泌されることもありさらにぬめぬめぬらぬらぬるぬるどろどろとろとろとなんとも淫靡な様相を呈して、なんだかちょっとエロい。ちなみに「エロいヤツ」というのは罵倒語というよりはちょっと褒めてる感があるので、罵倒×罵倒=ネガティブ×ネガティブがポジティブを生んでいるとも強弁できる(あ、強弁っていっちゃった)。
すなわち、たとえ奇声を発せられる身の上であろうと、ぬめぬめが気持ちわるいといわれようと、決死の気構えで、己の領分のすべてさらけ出し、秘密兵器を惜しまず繰り出して取り組むならば、転じて祝福をもって迎え入れられる存在となりうるという、明日への希望を高らかに歌い上げた生き物なのだ。
3本縞のニクいやつはアディダスの独占ではない。軽やかに境界を跳びこえる勇気をコウガイさんはでっかいT字ヘッドでメッセージを発している。
ちなみに湿気が少なくなるとすぐ死んじゃうので、繊細さは命取りという点も教訓的な生き物ともいえる、のかも。
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