【本】美馬のゆり編著『未来を創る「プロジェクト学習」のデザイン』:プロジェクト学習の理念とノウハウが詰まった本
木曜日はお勧めの本を紹介しています。
今回は、美馬のゆり編著『未来を創る「プロジェクト学習」のデザイン』(公立はこだて未来大学出版会, 2018)を取り上げます。
■要約
プロジェクト学習を実現するためには、カリキュラムにおける位置づけ、教員のチーム化、プロジェクト学習のデザインが必要である。デザインでは、場のデザイン、テーマの設定、予算、評価が重要である。この本ではこれらを美しい写真や図版とともに実践された具体例を示すことで伝えている。この本で紹介されたプロジェクト学習の理念と実践は大学内の若い学生だけではなく、すべての年齢層の生涯学習を意義のあるものにする方法論を具体的な形で提供するだろう。
■ポイント
プロジェクト学習はデザインされた授業の1つであり、そのままのプロジェクトとは違う。プロジェクト学習を実施しようとする教員は、学生にどのような知識をスキルを身につけさせたいのか、最終的な成果物がどのようなものか、またその過程でどのような体験をさせるのかをデザインする必要がある。
空間のデザインの3つのポイントは次のようなものである。
(1) 参加者にとって居心地の良い空間であること
(2) 必要な情報や物が適切なときに手に入ること
(3) 仲間とのコミュニケーションが容易に行えること
特に長期間にわたるプロジェクト学習ではその間の資料を保管できる場所が必要。
テーマの選び方としては次のようなものがよい。
・唯一絶対の正解があるわけではないテーマ
・学生が考えていく余地のあるテーマ
・割り当てられた期間内にある程度の成果が出るようなテーマ
・学生にとって魅力的なテーマ
次のような予算を確保するために申請してもらう。
・外部講師の招聘にかかる費用
・インタビュー調査や実験参加の謝金
・先輩学生がTAとしてはいるときの謝金
・共用の備品
プロジェクト学習での成績評価はどのようになるだろうか。この本では次のような方法を紹介している。最終的には学生一人ひとりが教員と話し合いをして決定する。その際、自己評価、ピア(同じプロジェクトの仲間)からの評価、中間発表会・最終成果発表会におけるアンケート結果の3種類を材料とする。また、学習ポートフォリオとして中間と最終の時期でアンケートを回答してもらっている。
複数の教員でチームを組むためには、お互いに、アイデア、ビジョン、インパクトを交換していく必要がある。学生もまたチームを作っていく。その中で、リーダーシップを身につけていく。リーダーには3つの役割がある。それは、チームを維持し、活性化する役割、コーディネーターとしての役割、デザイナーとしての役割である。
最後の第6章は社会的活動における学習の理論の研究史をコンパクトに伝えている。クルト・レヴィンから始まり、アージリスのダブルループ学習、ショーンの省察的実践家モデル、そしてレイヴとウェンガーの実践共同体への道のり。最後に生涯学習社会を迎えて、シニア世代の学習機会をどうするかという問題提起に至る。
あとがきでは持続可能な開発(SDG)に向けて、私たちがどのような能力を開発しなければならないかという問題を取り上げている。そうした大きな文脈の中での「プロジェクト学習」なのだということを説得する。
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