【本】アンドレアス・シュライヒャー『教育のワールドクラス』:PISAとPIAACのエビデンスからの教育政策への示唆
木曜日はお勧めの本を紹介しています。
今回は、アンドレアス・シュライヒャー『教育のワールドクラス』(明石書店, 2019)を取り上げます。
■要約
教育政策に科学研究の厳密さを導入したらどうかという考えからスタートしたPISA(OECD生徒の学習到達度調査)は、その調査結果から次のような9つの問いに答えを出している。
(1) 貧しい子どもは成績が悪い。これは運命なのか。→否。社会集団の良し悪しがそのまま学校の成績や日常生活に結びつくことはない。
(2) 移民は学校システムのパフォーマンスを低下させるか。→否。移民の背景を持つ生徒の割合と、その国の生徒全体の成績には関係がない。
(3) より多くのお金を使えば教育は成功するか。→否。教育の成功はどれだけの予算を投じたかではなく、その予算がどのように使われたかによる。
(4) クラス規模が小さいほど成績が良くなるか。→否。クラス規模を小さくするのに予算を使うよりも、良い教員に高い給料を支払った方がいいかもしれない。
(5) 学習時間が多いほど成績が良くなるのか。→否。授業時間と学習時間が多い国はPISAの成績が悪い。学習成果は学習機会の量と質の結果だから。
(6) 持って生まれた才能で教育の成功が決まるのか。→否。生徒が努力して学習成果を出さなければならないと思っている国では、実際に生徒が好成績をあげている。
(7) 文化的背景は教育に大きな影響を及ぼすか。→否。継承された文化的背景だけでなく、思慮深い政策と実践の結果として教育が良くなる。
(8) 成績の良い生徒が将来教員になるべきか。→否。例外的な国を除いて、ほとんどの国では教員のスキルは平均的な大卒成人と同程度である。フィンランドと日本では例外的に平均的な大卒成人よりも優れている。それでも、教員が尊敬され、魅力的な職業選択となるようにしなければ悪循環に陥るかもしれない。
(9) 能力別クラスで成績が良くなるのか。→否。必ずしも良くない。PISAで成績上位の国は能力や進路などのグループ別のクラス編成を行わず、すべての生徒に学ぶための平等な機会を提供している。
■ポイント
第6章「今何をするか」では、21世紀の不確実な世界(環境的にもデジタル化としても)が持続可能であるために教育が担う役割を展望している。
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