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【本】田中敏・中野博幸『Rを使った〈全自動〉ベイズファクタ分析』

2022年8月31日(水)

水曜日は本の紹介をしています。

私のゼミでは3, 4年次の2年間をかけて卒業研究を行います。これは通学生とeスクール生に共通した内容です。各学期は次のような内容です。

  • 3年春学期:テーマの設定/先行研究文献調査/インタビューによる質的データ分析

  • 3年秋学期:質問紙調査(アンケート)による量的データ分析

  • 4年春学期:アンケートの自由記述データを使ったKJ法とテキストマイニング

  • 4年秋学期:先行研究の補充/卒論全体の完成/プレゼンテーション用スライド作成

この中では、3年秋学期に実施する質問紙調査(アンケート)による量的データ分析が一番大変です。ざっとあげただけでも次のような統計手法を使うことになるからです。

  • t検定、分散分析

  • 相関分析、因子分析、重回帰分析

  • (必要に応じて)直接確率検定、カイ2乗検定

これらの統計計算を実行するために、昔はSPSSを使っていました。早稲田大学内ではSPSSを自由に使える環境になっています。しかし、学外では使えないという不便さがありました。

js-STAR:Web上で統計計算をしてくれるフリーソフト

そこで、js-STARというWeb上で統計計算をしてくれるフリーのソフトを使うようになりました。これは上記のすべての統計計算をカバーしていますし、分散分析についてはSPSSよりも詳しい分析結果を出してくれます。

解説本としては、中野博幸・田中敏『フリーソフトjs-STARで かんたん統計データ分析』(技術評論社, 2012)があります。非常にわかりやすく書かれています。

現在は、js-STAR XR+にバージョンアップしています。これはRコマンドを出力して、それをRに受け渡すことによって統計計算してくれます。

この解説本としては次の2冊が出ています。いずれも計算結果の読み取り方とそれを文章としてどのように記述すれば良いかということが丁寧に書かれていますので、卒論や修論、また投稿論文を書く人には役立ちます。

  • 田中敏・中野博幸『R&STARデータ分析入門』(新曜社, 2013)

  • 田中敏『Rを使った〈全自動〉統計データ分析ガイド』(北大路書房, 2021)

p値からベイズファクタ分析へ

さて、以上の統計分析ではいわゆるp値を使った仮説検定の方法に基づいています。p値の扱いについては議論が続いています。また検定を多数回繰り返すことによって有意水準が甘くなることなど注意しなければならないこともあります。

今回出版された次の本は、これまでの統計手法にベイズファクタ分析を加えて、ベイズファクタ値(BF値)を得たときの分析とその解釈について詳しく解説しています。

  • 田中敏・中野博幸『Rを使った<全自動>ベイズファクタ分析』(北大路書房, 2022)

ベイズファクタについてこの本では次のように書いています。

近年、従来のp値に対して大挙して批判が集中し、代替指標としてBF値が普及し始めている。この理由は次のようなp値の欠点と限界にある。

- p値は帰無仮説が棄却できるか否かの情報しか与えない
- p値は対立仮説がどの程度正しいかについて情報を与えない
- p値が有意でないときも帰無仮説を採択すべきか否かの情報を持たない

繰り返すとp値は ”貧しい指標” である。この貧しさに対処するためにp値に加えて検出力(power)や効果量(effect size)を別途付記する改善がこれまでなされてきたが、根本的にp値を用いない方法として登場しているのがベイズファクタ、すなわちBF値である。BF値については次のようなメリットが特筆される。

- BF値は対立仮説を採択する “証拠の強さ” を量的に示せる
- BF値は帰無仮説を採択する証拠も量的に示せる(BF01として)
- BF値は多重比較または多数回検定に伴う調整が不要である
- 従来の検定統計量(χ2乗値やt値、F比等)が不要である

『Rを使った<全自動>ベイズファクタ分析』p.25-26

統計分析におけるBF値の扱いはこれから徐々に広まっていくと思われます。この本はそれを先導していく一冊になるでしょう。

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