【本】クリスチャン・マスビアウ『センスメイキング』:アルゴリズム思考を意味あるものにするために
木曜日はお勧めの本を紹介しています。
今回は、クリスチャン・マスビアウ『センスメイキング』(プレジデント社, 2018)を取り上げます。
■要約
センスメイキングとは人文科学に根ざした実践的な知の技法である。アルゴリズム思考の反対の概念である。確実なデータと自然科学的な手法だけに頼っていると、自然科学の法則では割り切れない形式の知識に対して感度が鈍ってしまう。人を理解するためには文化的な知が必要であり、そのためには自分自身の知性、精神、感覚を駆使して作業にあたる必要がある。
■ポイント
センスメイキングの5原則。
(1) 「個人」ではなく「文化」を
ペンも香水もハンマーもワープロも、生活に関わるあらゆるものは相互に関係があり、文化的現実を構成する構造体である。個人の経験も文化という文脈の中で意味を持つ。
センスメイキングのプロセスは、物事についての人々の「考え」を探ることではない。そうではなくさまざまな現実を支配している構造を明らかにすることに関心がある。
(2) 単なる「薄いデータ」ではなく「厚いデータ」を
厚いデータは単なる事実の羅列ではなく、事実の「文脈」を捉えたものだ。薄いデータは我々が何をするかという行動の面から理解しようとするのに対して、厚いデータは我々が身を置くさまざまな世界と我々がどういう関係を築いているかという面から我々を理解しようとする。
知識には4種類ある。「客観的知識」は観察や測定が可能であり、再現性があり、普遍的に有効なものである。「主観的知識」は個人的な見解や感覚の世界である。「共有知識」は公共の文化的な知識である。共有された人間の経験の領域である。「五感で得られる知識」は身体から得られる感覚による知識である。
(3) 「動物園」ではなく「サバンナ」を
厚いデータを手に入れるためには、複雑で美しい本物の世界に生きる人間について学ぶのが第一歩だ。この「人間の経験の研究」が現象学という哲学的方法論の基盤となる。人間の行動を数字の羅列ではなく、社会的文脈に存在するものとして観察する。
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