022 [アドラー心理学] 早期回想とエピソード分析というアドラー独自の技法
今回は、心理療法としてのアドラー心理学について説明します。アドラーの時代(20世紀初頭)は臨床心理学がやっとその芽を出したところでした。ですので、その技法としてもたくさんのものがあるわけではありませんでした。フロイトの自由連想法や夢分析は、クライエントの無意識を探るための技法として画期的なものでした。
・アドラーにとっての無意識
一方で、アドラーは、無意識も意識も個人として統合されているというモデルをとりましたので、無意識を探るということには重心をおきませんでした。それは無意識 (Unconscious) というよりも「まだ理解されていないもの」(Un-understood) と捉えていたのです。そう捉えれば、無意識はまだ理解されていないけれども、確実に個人という自分の一部なのです。
では自分を理解するためにはどうしたらいいでしょうか。寝椅子に横たわる必要はありません。自分の子供の頃の最も早い時期で、印象に残っているエピソードを3つほど出してください。それを読み解けば、あなたのライフスタイル、ひいてはあなた自身が何を目指しているかがわかります。
人生の最も早い時期の記憶を「早期回想 (Early Recollections) 」と呼びます。早期回想とその分析は、アドラー派心理療法の独創的な治療技法です。これ1つで必要十分ともいえます。
・クライエントの早期回想からわかること
不思議なことに、早期回想としてクライエントに出してもらったエピソードはうろ覚えでも、脚色されていても、あるいは完全なフィクションであってもいいということです。
なぜならば、カウンセラーが早期回想から読み解こうとするのは、クライエントのライフスタイルだからです。そのライフスタイルは早期回想が脚色されていても、いや脚色されていればいるほど、そこに現在の自分が投影されていると考えられるからです。つまり、私たちが早期回想として思い出すエピソードは、自分のライフスタイルをそこに投影したものとして思い出しているのです。だからこそ早期回想はライフスタイルを知るための良い手がかりとなるのです。
このように自分が小さい頃の記憶は、現在の自分を知るための良い材料となります。独自のキャリアカウンセリング理論を構築しているサビカスという人は、キャリアカウンセリングの中で使う質問として、小さい頃にどんな職業につきたかったかや、どんな人に憧れたか、どんな人を自分のモデルとしたかといったことを聞いています。サビカスは自分で表明しているようにアドラー派ですので、この質問は小さかった頃の記憶が現在の自分の方向性を投影したものだと解釈して、キャリアカウンセリングを進めていこうとしているのです。
ライフスタイルが遅くとも10歳くらいまで、つまり小学校の4年生くらいまでには完成することを考えると、小学校時代の自分のふるまいはライフスタイルを明らかにする良い材料になるでしょう。たとえば、学芸会ではどのような役割をしたのか、運動会ではどうだったか、また授業の教科はどのようなものが好きだったか、あるいは嫌いだったか。友達づきあいはどうだったか、先生との関係はどうだったか、などです。こうした記憶は、その頃に確立したライフスタイルを反映していますし、また現在のその人のライフスタイルも投影していると考えられるのです。
・治療技法としての早期回想
治療技法とは、心理療法やカウンセリングで使われる特定の方法です。さまざまなカウンセリングの流派によって好んで使われる特定の技法があります。たとえばフロイトであれば「自由連想法」を使って、クライエントの頭に思い浮かぶことをなんでも言ってもらいます。フランクルであれば「逆説療法」を使って、緊張が怖いのであれば、できるだけ緊張してくださいという指示を出したりします。
認知行動療法はいろいろな技法が合流していますので、「系統的脱感作法」を使ったり、「認知再構成法」を使ったり、「エクスポージャー法」を使ったりします。これ以外にもたくさんの治療技法があります。
そして、アドラー派カウンセリング特有の技法は何ですかと問われれば、早期回想とエピソード分析ということになるでしょう。
早期回想というのは人生の最も早い時期のエピソードの記憶です。エピソードというのは、状況があって、自分を含めた登場人物がいて、はじめと終わりがあるひとつながりの出来事です。できれば、シーンが鮮明に思い出せて、何らかの感情を伴っているものだといいです。
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