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【アドラー教科書】(44) 私的感覚はどのようにして作られるか

火曜日は『アドラー心理学の教科書』の記事を連載しています。

2025年2月25日(火)

第2部 感情と信念

第6章 私的感覚と共通感覚

6.2 私的感覚はどのようにして作られるか

私的感覚とは、個人がプライベートに持っている自己、他者、世界についての価値観であるとしました。では、個人の私的感覚はどのように作られていくのでしょうか。そこには、私たちが意識下に持っている人生目標が関わっています。

アドラーは「どうして特定の出来事は覚えていて、ほかのことは覚えていないのか」ということについて、次のように言っています。

わたしたちは精神が進む方向を維持するために重要で有用な出来事を覚えています。同じように、方向を維持するには忘れたほうがよいことを忘れています。

アドラー『人間の本性』(高田早苗訳, 興陽館, 2020, p.67; 原典は1926)

つまり、個人が持っている人生目標が「精神が進む方向」を決めていて、それによってその人が知覚し、記憶することを自由に取捨選択しているということです。たとえ同じ事実を見聞きしたとしても、自分の人生目標に合致したものだけを取り入れるのです。このようにして、その人の私的感覚が個人的な価値観として作り上げられていきます。

世界観を把握する場合にも、その人のひそかな目標を読みとり、その人のすべてが目標の影響を受けていると理解することが欠かせません。

同書 p.65

アドラーはこのように書いて、私的感覚を探るためにはその人の「ひそかな目標」を読み取ることが必要であることを述べています。

ちなみに、人間の知覚や記憶に関するこのような偏り、あるいはバイアスについての研究は、1960年台に発展した認知心理学によって、現在では広く知られる科学的事実となりました。アドラーは認知心理学が発展する30年以上前から人間の知覚や記憶に関するこのような洞察を述べていたことになります。

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