【本】L. Torp & S. Sage『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり』:PBLをやってみようという人のための第一歩
木曜日はお勧めの本を紹介しています。今回はこの本を取り上げます。定期購読者が増えるたびに、感謝を込めてその日の記事を全文公開にしています。
L. Torp & S. Sage『PBL 学びの可能性をひらく授業づくり』(北大路書房, 2017)
■要約
PBL(Problem-Based Learning)授業では、学習者は複雑な状況の中でのリアルな問題をひとりの利害関係者として解決しようと活動する。一方、教員はその探究活動では仲間として学習者とともに活動し、認知的な側面ではコーチとして支援していく。この本では、具体的な事例を取り上げながら、PBLの設計と実践について解説している。学校の授業で、あるいは学校外の研修やコースでPBLをやってみようと考えている人に有効な情報を与えてくれるだろう。内容は、小学校から大学まで対応している。
■ポイント
とはいえ、これまでの伝統的な授業や講座に慣れてきた教員/講師にとっても、またその学習者にとっても、PBLの実践は少しハードルの高いものになるかもしれない。
伝統的な授業は、構造化された状況の中で、構造化された問題を与えられた学習者に対して、教員が質問をしながら指導していく「直接指導法」の形式であった。これは、単純な学びに対しては有効な方法だ。
一方、PBLでは学習者は、複雑な状況の中で、複雑な問題を解決する利害関係者として位置づけられる。問題解決を探求していくにつれて、問題とその状況の見え方は変わっていき、その度により深い思考が要求される。教員はそうした探究活動では学習者とともに進んでいく仲間であり、認知的側面では彼らを支援するコーチとしての役割を果たしていく。
このように学習者も教員もそれぞれの役割を根底から考え直さなくてはPBLは実行できない。
教員としては、PBLとして取り上げる構造化されていない問題をどう設定していくかで悩むだろう。しかしこの本では具体的な例が挙げられているので、それを参考にするとうまくいくだろう。
問題が設定できたら、PBLの手順として次のものにしたがっていくといい。
1) 問題に出会う
2) 知っていること/知るべきことを書き出す
3) 問題を記述する
4) 情報を収集し、共有する
5) 解決策を考える
6) 発表する
7) ふりかえる
8) 1)に戻る
PBLを実行に移すまでは、大変だろうけれども、それに見合った成果が得られるだろう。その成果は、内容の習得以上に、洞察力、自己決定力、自律性というところにある。そして、これらの能力は、伝統的な授業ではなかなか達成することが難しい。だからこそPBLを実施する意味がある。
■PBLについての他の本
PBLについて、他にもいくつかの本が出ている。それぞれの本について簡単に紹介する。
B. J. Duch, S. E. Groh & D. E. Allen『学生が変わるプロブレム・ベースド・ラーニング実践法』(ナカニシヤ出版, 2016)
大学におけるPBLの導入と具体的な授業の事例を詳細に記述している。授業事例は、生命工学、法学、看護学、化学、政治学、教員養成と多岐に渡っている。
P. Schwartz, S. Mennin & G. Webb『PBL 世界の大学での小グループ問題基盤型カリキュラム導入の経験に学ぶ』(篠原出版新社, 2007)
医学部の授業でのPBL実践を中心に紹介している。特に、PBLを実施する際の問題点や改善事例について詳しく記述している。
D. R. Woods『PBL 判断力を高める主体的学習』(医学書院, 2001)
大学におけるPBL授業を実践するために役立つフォームやグループスキルの方法が簡潔にわかりやすく記述されている。
マガジン「ちはるのファーストコンタクト」をお読みいただきありがとうございます。このマガジンは毎日更新(出張時除く)の月額課金(500円)マガジンです。テーマは曜日により、(月)アドラー心理学(火)教えること(水)フリーテーマ(木)お勧めの本(金)連載記事(土)注目の記事(日)お題拝借で書いています。ご購読いただければ嬉しいです。
ここから先は
ご愛読ありがとうございます。もしお気に召しましたらマガジン「ちはるのファーストコンタクト」をご購読ください(月500円)。また、メンバーシップではマガジン購読に加え、掲示板に短い記事を投稿していますのでお得です(月300円)。記事は一週間は全文無料公開しています。