【本】西垣悦代他編著『コーチング心理学概論』:コーチング心理学の全体像をつかむ
木曜日はお勧めの本を紹介しています。
今回は、西垣悦代・堀 正・原口佳典編著『コーチング心理学概論』(ナカニシヤ出版, 2015)を取り上げます。
■要約
コーチングとは個人の成長や発達を促すことである。そしてコーチング心理学とは、それを果たすために成人学習理論と子どもの学習理論、および心理学研究法を援用してそれを実現しようとするものである。
この本では、総論として、コーチングとコーチング心理学の定義、コーチング心理学のスキルとモデル、コーチング心理学におけるアセスメント、高等教育で教えるコーチング心理学を扱っている。また、背景理論として、アドラー心理学と人間性心理学、ポジティブ心理学、認知行動コーチングを紹介している。実践編として、プロコーチのコンピテンシー、医療におけるコーチング、キャリア支援のコーチングを取り上げている。
コーチングの学術的な基盤を押さえるために有用な本である。
■ポイント
この本の第5章「コーチングの背景理論:アドラー心理学と人間性心理学」を、向後千春・堂坂更夜香・伊澤幸代の3人が書いている。マズローとロジャーズは初期のコーチングの理論的背景として位置づけられている(コーチングの祖父という人もいる)。そうすると、その両者の考え方に影響を与えたアドラーはコーチングの源流として位置づけられるだろう。
その視点からアドラー心理学の5つの基本前提「全体論、目的論、社会統合論、仮想論、個人の主体性」をコーチングとの関連で解き明かしている。もしアドラー心理学の枠組みに基づいてコーチングを設計していくとすれば、それは「アドラー心理学に基づくコーチング」と呼ぶことができるだろう。
アドラー心理学に基づくコーチングでは共同体感覚の育成が必須となり、必ずしも人生を「成功」に導くことはないかもしれない。しかし、意味のある人生を送り、その結果として幸せに生きることができるかもしれない。
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