【本】ユーリア・エンゲストローム『変革を生む研修のデザイン』:活動理論の実践的入門としてお勧め
2017年2月16日
(木曜日はお勧めの本を紹介しています)
■要約
古典的なインストラクショナルデザインの限界について2つの批判をしてそれを拡張しようとする。(1) テキストは学習の対象ではなく道具に過ぎない。教室や研修所という文脈を超えた拡張的学習を目指す(ベイトソンの「学習の型」由来)。(2) 教育の目標は観察可能な行動リストではなく、態度、戦略、メンタルなどの認知的方向づけであるべきだ(ガルウェイの「インナーゲーム」由来)。
■ポイント
ベイトソンの「学習の型」という先駆的なアイデアからヒントを得て、次のように学習を分類する。
・第一次学習(first order learning):条件づけと模倣。伝統的な学校では教科書そのものが学習対象となる。
・第二次学習(second order learning):学校という文脈で生徒らしいふるまい方を学習する(隠れたカリキュラム)。試行錯誤や探究的学習によって明示されていない正解を見つけ出そうとする。
・第三次学習(third order learning):学校という文脈の中で提示された課題の妥当性に疑問を持ち、文脈そのものを変えようとする。拡張的学習(expansive learning)。
全体的な学習プロセス(integral learning process)として6つのステップを示す。
(学習者→対象)動機づけ(motivation):主題に対する意識的な興味を喚起する。学習者のそれまでの概念では解決できないような「認知的コンフリクト」を経験させる。
(対象→道具)方向づけ(orientation):問題を解決するのに必要な予備的な仮説とモデルを形成する。
(道具→学習者)内化(internalization):モデルを検討し、豊かにしていく。
(学習者→対象)外化(externalization):モデルをツールとして応用して具体的な問題を解決する。
(対象→道具)批評(critique):自分のモデルの妥当性と有用性を批判的に評価する。
(道具→学習者)統制(control):自分自身の学習を検討する。
行動目標だけでは不十分であり、認知的目標の設定が不可欠である。なぜなら外的なパフォーマンスの基盤になるのは、認知内の原理や構成概念の理解だからである。
結論としての「指導の黄金律」は以下の点である。
カバーする主題事項を少なくし、徹底的に教えること。たくさんの断片的な知識ではなく、深く実践的に習得させること。
脱文脈化された「できあいの」事実や技能を教えることで満足しない。システムの起源と発展を探求する。
実践と知識の中に内的矛盾を探し求め、それを社会認知的コンフリクトの源として用いる。
主題事項の本質的な原理を明らかにする方向づけのベースを作り出すこと。
探求的学習のサイクルを目指す。
十分な配慮をもって教授計画を立てる。
生徒に多くを求めると同時に生徒を尊重する。自分自身の言葉を支持する。
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