1-アドラー用ヘッダ

【アドラー心理学の理論】#23(最終回) 共同体感覚の育成に方向づけられている

月曜日はアドラー心理学のトピックで書いています。
4月12日(木)から早稲田大学エクステンションセンター中野校で「アドラー心理学入門」(全8回)が開講しました。この連載では、講座の内容を同時並行でお伝えしていこうと思います。講座に参加できない方にも、その雰囲気が伝わればいいなと思っています。

この連載もいよいよ最終回です。連載は23回にわたって続きました。こんなに長くなったことにいささか驚いています。最終回は、共同体感覚について取り上げましょう。

前回は、アドラー心理学は、「思想/理論/技法」という3階層からなっていることを説明しました。理論の階層は、この連載で取り上げてきた「5つの基本前提」です。それは、目的論/全体論/仮想論/社会統合論/個人の主体性の5つからなっています。次に、技法の階層は、ライフスタイル分析や勇気づけの方法、タテの関係・ヨコの関係、課題の分離と共同の課題といったような、具体的で実践的な方法の集合からなっています。

最後の思想の階層にあるのが「共同体感覚 Gemeinschaftsgefühl(独)social interest(英)」です。なぜこれが思想かというと、「人類は共同体感覚を目指すべきである」という主張をアドラー心理学がしているからです。これを「個人心理学=アドラー心理学」の根幹として残すかどうかについてアドラーは考え、残すことを決断しました。しかし、それでアドラーの当時の支持者の半分がアドラーのもとを去ったと言われています。

思想を残すという決断に対して反対してアドラーのもとを去った人たちは、アドラー心理学が科学であるべきだと考えたのです。科学とは万物のしくみを解明するものであって、人類はこうあるべきだという価値観を持つものではないと考えたわけです。

これに対してアドラーは「共同体感覚は、生まれつき備わった潜在的な可能性で、意識して育成されなければならない」と主張しました。

共同体感覚とは、自分の利益のためだけに行動するのではなく、自分の行動がより大きな共同体のためにもなるように行動しようとする指向性です。共同体とは何かというと、一番小さいものは「自分と目の前にいる相手」であり、一番大きいものは「自分を含めた宇宙」ということになるでしょう。しかし、シャルマンが言うように、むしろ「社会全体を愛することは易しい。自分の妻や子どもを愛することの方が難しい」のです。自分と相手という最小単位の共同体から考えていくといいでしょう。


共同体の視点から見て、自分の利益だけではなくどうすれば相手のためになるのかを考えること、それが共同体感覚です。そしてそれは潜在的にはすべての人に備わっている能力であるにもかかわらず意識的に育成することが必要だとアドラーは主張したのです。

ですから、アドラー派のカウンセリングはすべて最終的にはクライエントの共同体感覚を育成するということに方向づけられています。カウンセリングの最終ゴールは共同体感覚の育成であり、それがつまり「生きることの意味」だと主張するのです。自分の生きる意味がわかれば幸せに生きることができます。そういう状態にするのがアドラー派のカウンセリングです。

カウンセリングに限らず、アドラー心理学を学ぶ人はすべて最終的には共同体感覚の育成に方向づけられています。それが100年たった今も多くの人がアドラー心理学に魅了され続けている理由でしょう。

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