9-号外_バラ

「授業・研修の設計」3本(2017年7-8月のnote記事より)

noteマガジン「ちはるのファーストコンタクト」を定期購読いただき、ありがとうございます。定期購読を開始してもその月より前の記事は読めませんので、定期購読者向けにときどき過去の記事をまとめて読めるようにしています。

今回は、2017年7-8月のnote記事から、「授業・研修の設計」についての記事3本をまとめてお届けします。

01 事前テストを作って学習者の診断を行っておくとメリットが大きい。
02 ちはる式グループワークの方法とメリット。
03 講師はグループの発表を板書して、コメントとまとめをしよう。

01 事前テストを作って学習者の診断を行っておくとメリットが大きい。

前回は、授業や研修の設計原理としての「メリルの第一原理(Merrill's First Principles of Instruction)」を取り上げました。コースを設計するために、トピックを順番に並べるのではなく、現実世界の重要な問題をまず取り上げて、そこからスタートするという原理(問題中心原則)です。問題解決に必要なスキルや知識は、そのつど提供され、学習者が問題解決をするプロセスの中でマスターしていきます。

問題中心のコースであっても、まず最初に、学習者の診断を行っておくことはさまざまな面で効用があります。この診断を、「事前テスト」あるいは「プレテスト」と呼ぶこともあります。「テスト」と呼んではいますが、正誤問題や選択肢問題、あるいは穴埋め問題のような成績をつけるためのテストとは違います。

事前テストでは、学習者の
 (1) 行動(特定の行動ができるかどうか)
 (2) 知識(特定のことを知っているかどうか)
 (3) 態度(特定のことについてどのような価値観や信念を持っているか)
を測っておこうとするものです。

たとえば「子育て」のコースであれば、事前テストでは次のようなことを測っておきます。

 (1) 子どもが電車の中で騒いだとき、あなたはどのようにしていますか?(行動)
 (2) 子どもにご褒美としてお金やゲームなどを出して、親がしてほしいことをやらせると、子どもはどのようになると思いますか?(知識)
 (3) あなたは自分の子どもがどのような人になってほしいと考えていますか?(態度)

このようなテストですので、正誤問題のような形式ではなく、「自由記述形式」で回答を書いてもらうという形式になります。ですからテストとはいっても、点数はつかないのです。

事前テストを実施しておくと、以下のような点で効用があります。

(1) 事前テストの内容が、これから実施するコースの予告となります。これは、参加者の頭のウォームアップにもなりますし、興味をひくことにもなります。

(2) 単なるマルバツ問題ではなく、記述式の問題ですので、頭と手を使います。このことによって、退屈な講義を聞くだけのコースではないということを参加者に示すことができます。

(3) 問題に回答することによって、自分の普段の行動、持っている知識、価値観や信念といったことを再確認することになります。それはたいては平凡なものであり、変えられないと思っていることです。講師が、こうしたことをこのコースを受講することで変えていきましょう、と宣言することでコース参加者に意欲を持たせることができます。

以上のように、コースの最初に事前テストをすることはメリットが大きいのです。

02 ちはる式グループワークの方法とメリット。

前回は、本題に入る前に事前テストをやっておくと良いことを書きました。事前テストを実施すると、(1) コース内容の予告になる (2) 講義を聞くだけのコースではないことを示す (3) 参加者の既有知識や信念などの再確認になる というような効果があります。

さてコースの本題に入っていくと、途中でグループワークを入れたくなります。私が使っているグループワークの標準的な方法は以下のようなものです。

(1) グループは5±1人(4〜6人)で編成する
(2) お題(テーマ)を提示する
(3) 各自がポストイットに考えをメモする(1分)
(4) じゃんけんで一番勝った人から自分の意見を発表する(1人1分)

この形式でグループワークを行うと、4人の場合、最短で5分間で終了します。実際には、お題の提示やじゃんけんの時間などがありますので、7分前後で完結します。これくらいの時間で終わるのであれば、この形式のグループワークを自分のプログラムの中に気軽に入れることができるでしょう。

この形式のグループワークは短いので、気軽に入れることができますし、その効果は大きいものがあります。次のような効果です。

・与えられたお題について考えて、メモを作るので、脳が活性化する
・自分以外の多様な意見を聞くことで、自分の考えをメタ認知できる
・このお題について講師はどう考えているのかという関心が高まる
・グループメンバーがお互いに知り合いになり、雰囲気が良くなる

この形式のグループワークを行いたいために、私のセミナーでは机をアイランド型に配置してもらいます。そこに4〜6人の参加者がランダムに座るという段取りです。

メンバーの人数は経験的に4〜6人が最適です。6人を超えると、セッションの時間が長くなります。また、それぞれの意見を覚えておくことができなくなります。結果としてだれてしまいます。

話し始める前に、ポストイットにメモを書いてもらうというのがポイントです。これも長い時間を与えることなく、1分間で区切ります。「まだ書いている途中かもしれませんが、メモですので気にせず、話をするときに補ってください」というのが指示のセリフです。

じゃんけんをして一番を決めてから、自分の意見をメモを見ながら発表してもらいます。このとき、なぜかじゃんけんで盛り上がります。セミナーとじゃんけんのミスマッチが楽しいのかもしれません。じゃんけんの意外な効用です。

発表時間は1人1分として、こちらの合図によって次の人にバトンタッチしてもらいます。このとき時間を測るためにキッチンタイマーを使います。

1分間は短すぎるのではないかと思う人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。メモを見ながらであれば、1分間でかなりたくさんのことを話すことができます。時間が足りなくなるとすれば、それは考えがまとまっていない場合です。それはそれで自分で気づくことができますので問題はありません。

このような形式のグループワークを適宜入れていくことによって、セミナーは活性化します。また、参加者が自分で取り組んでいるという感覚を高めるのに貢献するでしょう。

03 講師はグループの発表を板書して、コメントとまとめをしよう。

前回は、どんな内容を扱っていてもいつでも使えるグループワークの方法を紹介しました。標準的には、(1) グループは5±1人で編成する (2) お題(テーマ)を提示する (3) 各自がポストイットに考えをメモする(1分) (4) じゃんけんで一番勝った人から自分の意見を発表する(1人1分)という流れです。

これでいったん各グループの活動は終わります。各自がポストイットに考えをメモすることで、テーマについて頭を活性化し、それをメンバー間で発表し合うことによって、自分とは違った意見を受け入れ、インスピレーションを得ることができます。また、順番を決めるのにじゃんけんをすることも気晴らしになるようです。よくじゃんけんのときに笑いが起こります。

これだけでもグループワークの効果は十分得られます。しかし、各グループは自分のグループ以外でどのような意見が出たのかを知ることができません。かといって、全部のグループに発表してもらうのは時間がかかりすぎます。そこで、1つのグループを選んで、そのメンバー全員に発表してもらうようにします。

グループを選ぶときはサイコロを使うのがいいでしょう。恣意的なものが入らず、公平性が保たれるからです。これを講師が自分の好みでグループを指名すると、「なんであのグループが指名されたのだろう」などの余計な詮索を生んでしまいます。

サイコロは普通の1〜6のものではなく、10面体か20面体のものを用意しておきます。グループ数が多くなっても対応できるからです。こういうところに時間をかけずにスマートに進めるのがコツです。20面体のサイコロはAmazonなどで売っています。

グループを選んだら、メンバーひとりひとりにマイクを回して、先ほどのグループ内発表を同じことを話してもらいます。そこで新しいことを考える必要はありません。これは発表者に余計な負荷をかけないためです。人によっては大勢の前で話すこと自体に負担を感じる人もいますので、配慮します。

そしてここがポイントですが、講師は発表を聞きながらホワイトボードに板書していきます。全部は書ききれませんので、要点だけを書いていきます。その一例を写真で示します。

この写真では、真ん中に「良いキャリアとは何か?」というお題が書かれていて、そのまわりにメンバーの意見の要約が書かれています。これは講師が発表者の話を聞きながら、まとめて書きます。おそらくセミナーの中では講師が一番「汗をかく」場面ですね。色々な意見が出てきますので、耳を澄ませて、よく聞いて、それを文字にしなくてはなりません。

ちなみに、そのまわりに貼り付けられているポストイットは、休憩時間中に任意で自分が書いたメモを貼ってもらったものです。このようにすると、全体としてどのような意見が出たのかを一望することができます。これを写真に撮ってもらうと、のちのち参考になるでしょう。

最後に、板書を見ながら講師がコメントしていきます。こうすることによって、参加者は自分たちの意見が尊重されているということを感じるでしょう。

ここでどのような意見が出るかは、予想がつきません。台本通りに行くとは限りません。それだけに講師の勝負どころになります。ここでの意見をうまく取り入れて、次の話に乗せていくことができるかというところで、講師の力量が測れます。それはチャレンジする価値のあることです。

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