2-教える技術ヘッダ

研究の最初のステップは「素人」のように考え、そのあとは「玄人」として実行する。

火曜日は「教えること/研究すること」のトピックで書いています。

4月に入ると卒業研究のゼミや大学院のゼミが始まります。こうしたゼミで最初にやることは、研究のトピックを決めるということです。何を研究するのかが決まらなければ、研究はスタートしません。ですから当然やらなければならないステップです。しかし、研究トピックを決めるという最初のステップが意外に難航するのです

「何を研究したいですか」と尋ねると、たとえば「動機づけ」とか「メタ認知」といったキーワードを挙げる人がいます。しかしそうした漠然としたテーマを挙げられてもそこからなかなか先に進みません。それは、何かを解決したい、何かを作り出したい、何かを改善したいという具体的なイメージがないからです。キーワードからスタートするとそういうことになりやすいのです。

金出武雄『素人のように考え、玄人として実行する―問題解決のメタ技術』(PHP文庫, 2004)はこのように書いています。

研究、開発というものは具体的な目標をもったものでなければいけないという当たり前のことである。何かいいことをしたいとか、数学的にスカッとした研究がしたいとか、本質的で基礎的な研究がしたいとか言う人がよくある。しかし、それは「目標」ではない。それは終わって初めてわかる、その研究の性質や結果に関する「希望」である。だから研究が行き詰まる。

この本のタイトルの『素人のように考え、玄人として実行する』ということは重要です。研究トピックを考えるときは「素人」のように考えることです。素人は常に具体的な問題から出発します。日常生活の中から「これはなんとかならないか」「もっと良い方法があるんじゃないか」という問題を見つけ出すことです。それが研究トピックにつながっていきます。

具体的な問題設定ができたら、そのあとは「玄人として実行」します。先行研究の検索、文献レビューの方法、実験計画の立案、尺度の作り方、統計分析の方法、論文の書き方はそのために学びます。しかし、最初の研究トピックを決めるステップでは、「素人のように考える」ことが大切なのです。

この本はたくさんのインスピレーションを与えてくれます。たとえば以下のような文章があります。現在はAmazonでは品切れになっているようですが、素敵な本です。

「ミンスキー教授、あなたはいろいろな分野で、創造的で、しかもほかの人たちの興味をそそり、新しい方向に導くような考えを多く出してきた。その秘訣は何か?」と訊いた。彼は、答える。「それは簡単だ。みんなの言うことの反対をしていればよい。みんながよいという考えに大体ろくなことはない」

自分の言いたいこと、説明したいことがなければ解けない最も簡単な問題を作り出すことである。自分の理屈が「ほら、ここで効いてるでしょ」と言えれば最高である。そういう例を複数、段階を追って作れれば完璧である。そのためには、実は説明する本人自身が本当にわかっているかを試されているのである。「わかっているがうまく説明できない」というのはうそである。

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