『短編アンソロジー 学校の怪談』収録の話を考える。
集英社文庫編集部『短編アンソロジー 学校の怪談』(集英社 2022)
学校の怪談にありがちな、旧校舎の鏡やトイレの幽霊、開かずの間などを題材にした短編集。6編のアンソロジー。内容はフィクションらしいです。
冗談半分本気半分の呪いの伝説が、いじめなどにつながっていそうなのがおばけより怖い。
対象年齢が低いからか、よくわからない話もある。多分その怖さの“対象年齢”を超えたからだと思う。
中でも気になった話2つを紹介したい。
🐼松澤くれは「軍服」
紹介によると「学校に代々伝わる『戦争の悲惨さを伝える劇』を演じることになった演劇部。古い衣装を着て練習を始めてから、不審なことが起こり始め…」(※1)。
女子校の演劇部が舞台で、主人公は宝塚の男役が似合う見た目の演劇部員。
“戦争の悲惨さを伝える劇”とは、出征によって引き裂かれたある村に住む夫婦の話で、戦死したはずの夫が帰ってきたが、翌朝姿がなく軍服だけが残っていた。
妻は夫の戦死を知り、空襲で焼ける家の中で焼死する、という内容。
“古い衣装”とはこの軍服のみで、他にはなにも残っていない。普通、代々演じられているなら衣装、道具類一式は揃っていそうだが。
しかも軍服は資料館にでもありそうな、やけにリアリティある物。
話が進むうちに、妻の霊が夫を演じる主人公を見て夫本人と思い込んでいるのではないか、と主人公は考える。
さらに学校の建つ場所は空襲で焼け野原になったと言うが、その跡地がこの夫婦の家なのではないかとも。
(歴史的に見て、農村をそこまで激しく空襲することがあるのかも不思議だが。機銃掃射はしても、都市のように人口密集地ではないので非効率なはずだが、
札幌の唯一の空襲である丘珠空襲は、連絡拠点と誤認された農家が空襲され、犠牲が出ている※2)
なにより、稽古の過程で機材の故障や怪我人も出ているのに劇を取り止めさせない学校も不可解だ。むしろ進めようとしているようにも読み取れた。
こうなることも想定の上で、妻の霊の供養のために演じさせ続けたのだろうか。
主人公がどうなるのかは誰にもわからない。慰霊のために犠牲になるのかも。
🐼櫛木理宇「庵主の耳石」
同じく紹介(※1)より
「校庭の地蔵堂の『真夜中にお地蔵さんにお供えをするとなんでも願い事がひとつ叶う』という言い伝え。願いと引き換えに失ったものは―」
なかなか不可解な話だった。
どんな話かは読んでもらうとして、この話の根本になる話を推測していきたい。
耳石。ローズクオーツのような赤い石で、不思議と生きてる感じがあるという。校庭の地蔵堂に祀られていた。
この地蔵堂は享保年間(大飢饉があった)、寺の庵主が生きたまま土に埋まって即身仏になったのを祀ったという。
なぜ即身仏になったのか、本当に彼女の意思だったのかはわからない。
想像だが、飢饉を鎮めるための人身御供として、村でなんらかの理由で嫌われていた女性が即身仏にさせられたのではないか、という気がした。
あるいは女児かもしれない。まだ子どもを産めず、労働力にもなれず“足手まとい”になる存在。
「耳石」が祀られていて、主人公もこの石に接して右耳が聞こえなくなったことから、片耳が不自由だった可能性もある。
「おまえ、きらわれているんだよ」というキーワードのように出てくる言葉がある。
耳が不自由で嫌われ差別されてきた女性あるいは女児が、飢饉の際の人柱を決める段になって村人から半ば強いられるような即身仏になり、その思いが残っている、という話なのではと考えた。
※1集英社文庫「ナツイチ2022」パンフレット紹介文より。
※2丘珠空襲
https://www.city.sapporo.jp/ncms/shimin/heiwa/tenji/kurashi_04/index.html
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