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言葉がなくても気持ちは伝わる
少し昔の話。恋愛要素1ミリもなし。
◆
「iPhone買ったんですよぉ」
展示会に行く途中の電車。後輩が嬉しそうに買ったばかりの最新iPhoneを見せびらかす。
「先輩もiPhoneにした方がいいですよ。ドコモでも買えるようになったし。写真めっちゃキレイですよ。」
と僕のフロントボタンが3つ付いたandroidを見て言う。
「ビックで一括で買って今月ピンチなんでお昼、奢ってくださいね」
テンションが上がり過ぎて自分が意味不明な事を言ってるのに気がついていない。
「あと、先輩いい加減LINE入れて下さいよ。キャリアメール使うの先輩とくらいですよ。」
(クライアントのYさんガラケーだし、仕事のメールお前も出してるだろ?)と言おうと思ったが、「このC面、たまんないっすね」とピカピカのiPhoneを撫でている後輩の姿を見て止めた。
◆
展示会を見終わり近くのサイゼリアで昼食。その後、少し離れた本屋に寄り道してから駅へと向かった。
駅に着いて改札に入る直前、後輩が聞いた事のない大声で叫んだ。
ぅあぁっっ! iPhoneがない!!!
ホントは上の文字サイズを更に2倍にしたい位の大声だった。
後輩は慌てふためいた。そんな後輩を見ながら(ふためく、ってどういう意味だろう?)と場違いな事を思った。
◆
「先輩はさっきの本屋に行ってください! 僕はサイゼに行きます!!」
あらゆるポケットまさぐりダンスを終えた後輩は、既に走り出していた。(その決断の速さを仕事でも発揮しろよ)と思いながら僕も本屋に走る。
iPhoneが見つからなかったらどうやって落ち合うのだろう?とも思いながら走った。
◆
発売日のジャンプを買いに来た小学生の様に本屋に駆け込み、落とし物がないかと店員に尋ねる…
ない。
念の為、本屋の周りをウロウロしたが見つからず。取り敢えずサイゼリアに行くか、と小走りを始めた時にスマホがブルっと震えた。メールアイコンに1が付いている。
開くとタイトルも何もないそっけないメールだった。
Fromが後輩のアドレスなのでiPhoneが見つかった事は分かったが、そのメールには気の利いた一言だけが添えてあった。
iPhoneから送信
言葉がなくても心は伝わる。
そうiPhoneならね。
当時流行っていたCMを思い出した。