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サンタじゃお礼は言われない
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子どもたちが大きくなり、ツリーを飾らなくなって久しい。我が家にサンタも来なくなり、プレゼントは手渡しするようになった。ここだけ切り取れば情緒がない気もするが、サンタがいないクリスマスも悪くなかったりする。
下の子はクリスマスにスニーカーが欲しいという。部活用とかそんなのじゃなくて、ファッション要素が強いタウンユースの靴だ。少々値が張るので、試着してちゃんとサイズを確認した方がいいということになり、都内の専門店へ足を運んだ。
壁一面に並ぶ色とりどりのスニーカーに、下の子の瞳が輝きを増す。「他のも見てみたい」という言葉に頷き、ぼくは少し距離を置いて見守ることにした。スニーカーを手に取っては眺め、また棚に戻す。その仕草を繰り返しながら、下の子は靴の海を右往左往していた。
15分ほど経って戻ってきた下の子の手には、2足のスニーカーがあった。11月から何度もWEBページを見せられていた憧れのネイビーと、今日出会った白いスニーカー。それぞれ2サイズずつ試着し、慎重に履き心地を確かめていく。どちらも足になじむ良い靴だ。後は好みの問題。下の子の表情が幾度となく揺れる。
「決めた」。差し出された手には、最初から心に決めていたネイビーのスニーカーがあった。「本当にそれでいいの?」と問いかけると、迷いのない「大丈夫」という返事が返ってきた。クリスマス商戦の賑わいで、レジには長蛇の列。その間にも確認を重ねたが、少し呆れたような様子で「大丈夫」と言われるばかり。
物欲の強くない下の子が、これほど熱心にねだるのは珍しいことだった。妻と相談して購入を決めたのも、そんな特別な思いを感じたからかもしれない。
ラッピングを施された大きな紙袋を受け取り、「クリスマスまでは預かっておくよ」と伝えると、はにかんだ笑顔で「ありがとう」という言葉が返ってきた。
サンタクロースの時代には味わえなかった喜びがあるよな、と思う。買い物の時と、クリスマスの日と、二度の笑顔に出会える幸せ。それに、サンタじゃお礼は言われないしね。