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フードデザインリサーチと周辺研究領域|フードデザインをよりよく知るための本

はじめに

前回の記事に引き続き、「デザイン文脈におけるフードデザイン」について、よりよく知ることに役立つ書籍を紹介したいと思います。
 今回は少し目線を変えて、フードデザインの学術的な側面に触れていきます。そういう領域が存在するんだな!ということをお伝えできればと思います。ただし、前回紹介した日本国内における栄養学や家政学を中心としたフードデザインの研究ではなく、デザイン分野から広がったフードデザインの研究について取り扱います。
 ここでフードデザインリサーチとは、デザイン理論やデザイン教育、デザイン工学などの分野から、美食やフードサイエンス、フードシステムなどの側面にアプローチする学際的な研究を指します。簡潔にいえば、食とデザインに関する研究のことです。


選書〈フードデザインリサーチと周辺研究領域〉

フードデザインリサーチは主に International Journal of Food Design という学術誌に掲載される研究や Design Research Society で採択される食をテーマにした研究のことを指しています。これらがまさにデザイン分野に軸足を置いた研究ですが、そのほかにも新しい食材をいかに活用できるか?といったことや、フード3Dプリンタの活用などを調査した研究を取り扱う International Journal of Gastronomy and Food Science 、あるいは、主にインタラクションデザインの分野に強く関連するヒューマン・コンピュータ・インタラクション領域から派生したヒューマン・フード・インタラクション(HFI)領域もフードデザインリサーチに包摂されると考えられます。デジタル技術やロボットなどが介在することで、どのように食体験が変わるのか?といったことが研究されています。最近イグ・ノーベル賞を受賞した「電気刺激で味覚を変える」研究もこの分野の一つと言えます。
 フードデザインリサーチの発展の略歴ですが、2009年に Food Design Society が設立されました。その翌年、2010年に食の体験デザインに関するシンポジウムが開催され、2012年にロンドンでフードデザインに関する初の学術会議 International Conference on Designing Food and For Food が開催されました。その後2013年に、ラテンアメリカでフードデザインを推進する Latin American Food Design Network (redLaFD) が発足し、2014年には南米と欧州のメンバーを中心に構成された Food Design x Education (FDxE) の活動が始まりました。さらに2015年、第2回目の International Conference on Food DesignEuropean Conference on Understanding Food Design 二つの大きな会議が開催されました。そうしてようやく2016年に International Journal of Food Design の第1号が発刊されることになります。そして2017年には、フードデザインとフードスタディーズの両分野が交わる形で国際会議が行われ、より学際的なものへと展開していきます。
 この一連のフードデザインリサーチ分野の発足と発展には、Francesca Zampolloという研究者/コンサルタント/教育者が大きな貢献を果たしてきました。彼女が第1世代のフードデザイナーたちを研究し、食の領域でどのようにデザインが行われ、どんな役割を果たせるのかを明らかにしたことに始まり、この研究領域は広がってきました。
 以上の流れを汲みながら、今回はフードデザインリサーチの主流にある文献に加えて、これからのフードデザインに重要と考えられるデジタル×食に関わるものを選んでいます。

Food Activism: Agency, Democracy and Economy

Carole Counihan and Valeria Siniscalchi
2013/12/05
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Food Activism: Agency, Democracy and Economy

・論文集
・キューバ、スリランカ、エジプト、メキシコ、イタリア、カナダ、フランス、コロンビア、日本、アメリカにおける、様々なスケールでの食のアクティヴィズムを調査

Organic, local, biodynamic, vegetarian, anti-GMO, fair trade, and food democracy are concepts that run through food activism. They hold diverse meanings in different contexts.

オーガニック、ローカル、バイオダイナミック、ベジタリアン、反GMO、フェアトレード、フードデモクラシーは、フード・アクティヴィズムにおける中心的な概念。これらは、文脈によってさまざまな意味を持つ。

Ethnography of Food Activism
Valeria Siniscalchi and Carole Counihan
p.10

Maize is a symbol of cultural uniqueness or difference, threatened by neoliberal globalization.
Activists strategically focused on maize as a powerful symbol of their region, its peoples, and its cultures.

トウモロコシは、新自由主義的なグローバリゼーションによって脅かされる文化的な独自性や特徴の象徴である。活動家たちは、その地域やその地域の人々、そして文化を代表する強力なシンボルとしてのトウモロコシに、意図的に焦点を当てている。

Cultures of Corn and Anti-GMO Activism in Mexico and Colombia
Elizabeth Fitting
p,187

Human-Food Interaction

Rohit Ashok Khot & Florian ‘Floyd’ Mueller
2019/08/29
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Human-Food Interaction

・専門書、事例集
・ヒューマンフードインタラクション研究の約10年間の系譜を整理し、今後の展望を提示している

The rapid evolution and uptake of digital technologies have … played a crucial role in supporting our food-related practices starting from how we grow, shop, cook, present, eat and dispose of food.

デジタル技術の急速な進化とその導入は、食品を栽培する方法から、買い物、調理、提示、食事、そして廃棄に至るまでの食に関する実践をサポートする上で、極めて重要な役割を果たしている。

Introduction
pp.3-4

Practices, however, cannot be studied in isolated technology labs, they require an understanding and undertaking of the real-world context in which people appropriate technology as per their needs and desires.

実践は、独立したラボ内で研究できるものではない。人々が自らのニーズや願望に基づいて技術を適用する現実の文脈の理解と取り組みが必要である。

10 Conclusion
p.133

Digital Food Activism

Tanja Schneider et al.
2019/12/12
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Digital Food Activism

・論文集
・フードアクティヴィズムにおけるデジタルメディアやICTの役割を調査している
・イギリス、ヨーロッパ、南アメリカでのケーススタディを取り扱う

we define digital food activism as an Internet-based, organised effort to change the food system or parts thereof in which civic initiators or supporters use digital media.

デジタル・フード・アクティヴィズムを、インターネットを基盤とした、食のシステムやその一部を変革するための組織的な取り組みとして定義し、その中で市民の主導者や支持者がデジタルメディアを使用するものと捉える。

1 Introduction: Digital food activism - food transparency one byte/bite at a time?
Tanja Schneider, Karin Eli, Catherine Dolan and Stanley Ulijaszek
p.8

Many culturally entrenched notions of what food is, what it should be made of, how it should look and how it should be processed or prepared are challenged by this novel technology.

食品とは何か、何から作られるべきか、どのような見た目を持つべきか、どのように加工や調理をするべきかといった、文化的に深く根付いた観念は、この新しい技術によって試されている。

8 'Both fascinating and disturbing’: Consumer responses to 3D food printing and implications for food activism
Deborah Lupton and Bethaney Turner
p.165

Digital Food Cultures

Deborah Lupton and Zeena Feldman
2020/03/17
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Digital Food Cultures

・論文集
・ブログやSNS、オンラインフォーラム、セルフトラッキングappなどを通じた食に関連する実践や現象を調査している。
・日常的な食事とますます分かちがたくなるデジタル技術の文脈を理解しようとする研究が取り扱われる

the sheer diversity of food cultures available on the internet and other digital media, from those celebrating unrestrained indulgence in food to those advocating for very specialised diets requiring intense commitment and focus

インターネットやその他のデジタルメディア上には、自由気まま好き放題に食べ物を楽しむ文化から、強いコミットメントと集中が必要な制限食を提唱する文化まで、食に関する多様な文化が存在している。

1 UNDERSTANDING DIGITAL FOOD CULTURES
Deborah Lupton
p.2

a dinner table shared not by people connected by food, but by standardised food items connected to people through technologies to monitor their every bite.

食べ物によって人々が結ばれる食卓ではなく、技術を通じてその一口一口を監視される標準化された食品が人々と結びついて共有される食卓

12 CONNECTED EATING: Servitising the human body through digital food technologies
Suzan Boztepe and Martin Berg
p.189

Experiencing Food: Designing Sustainable and Social Practices

Ricardo Bonacho et al.
2020/09/22
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Experiencing Food: Designing Sustainable and Social Practices

・論文集
・第2回International Conference on Food Design and Food Studiesで発表された研究を収録
・持続可能な食の実現に向けたアプローチを取る、さまざまな事例が調査されている

in order to work, sustainability has to be long-lasting both through years and generations (in French the word sustainability is translated with "durable"-long-lasting)

持続可能性が実際に機能するためには、数年にわたり、さらには複数の世代にわたって持続する必要がある(仏語では、持続可能性は「durable」と訳され、これは「長持ちする」という意味)。

Food design methods to inspire the new decade. Agency-centered design. Toward 2030
Sonia Massari
p.2

food is always a product of culture and the study of food requires a full immersion in its culture.

食は常に文化の産物であり、食に関する研究はその文化への完全な没入を必要とする。

Food design methods to inspire the new decade. Agency-centered design. Toward 2030
Sonia Massari
p.3

FOOD DESIGN THINKING DIY: The creative process to design food products, food services, food events, and dishes.

Dr. Francesca Zampollo
2021/01/25
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FOOD DESIGN THINKING DIY: The creative process to design food products, food services, food events, and dishes.

・専門書、ワークブック
・「フードデザイン思考」を実践するためのプロセスを解説
・実践的に活用できるワークシートやツールを収録

Food Design is and should be for everybody; it should be spread and divulged for everybody to enjoy.

フードデザインは、すべての人のためのものであり、広められ、共有されるべきもの

p.9

there are 4 pillars: food, society, technology, and environment … that food designers should investigate when designing anything related to food and eating.

フードデザイナーは、食や食事に関連するものをデザインする際に、「食、社会、技術、環境」の4つの柱を考慮・調査する必要がある。

p.29

Transdisciplinary Case Studies on Design for Food and Sustainability

Sonia Massari
2021/04/25
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Transdisciplinary Case Studies on Design for Food and Sustainability

・論文集
・サプライチェーン、レストラン経営、教育、食文化という主に4つの切り口で、デザイン方法論の応用と、ケーススタディを取り扱う
・アグリフード分野でのデザインの役割に言及する

More recently, design had to refocus on humanity, that is, human beings and their values. In food, this is fundamental because these values are paramount in re-connecting and re-creating the relationship between humans and nature.

近年、デザインは人間性、すなわち人間とその価値観に再び焦点を当てる必要が出てきた。食において、これは基本的であり、これらの価値観は人間と自然との関係を再接続し、再創造するための極めて重要な要素となる。

PROLOGUE 1 food | FUTURE | design
Sonja Stummerer and Martin Hablesreiter
xxiv

"food ecosystem" instead of "food system," given the degrees of complexity, instability, and scale, more similar to environmental and cultural ecosystems than to linear and finite processes,

「フードシステム」を「フードエコシステム」に置き換えることを提案する。なぜなら、その複雑さ、不安定さ、およびスケールは、直線的で有限なプロセスよりも、環境や文化の生態系に、より類似しているからだ。

Transitioning from food systems toward food ecosystems
Pedro Reissig and Adrian Lebendiker
p.93

以上、学術的なフードデザイン研究を扱った書籍の紹介でした。これ以外にもたくさんの書籍があるので、これらを足がかりに色々と調べてみると面白いですよ!次回はフードデザインの作品を扱ったコレクション的な書籍を紹介します。

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こうした内容を『フードデザイン:未来の食を探るデザインリサーチ』(BNN、2022)の中でも取り扱っています。この分野の変遷や周辺領域との関連性などを時間軸に沿ってまとめましたので、よろしければそちらもご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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本記事中で引用した文献はDeepLを用いて翻訳し、ChatGPTを用いて修正したものとなります。致命的な誤訳等ございましたら、ご指摘いただけると幸いです。また、記事は執筆時点での情報をもとに書いたため、最新情報であるとは限らないことをご承知ください。さらに、本記事の内容は私見によるものであり、必ずしも所属企業の立場や戦略、意見を代表するものではありません。

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