私も、補償的要素のことを入れていただきたいと思っているんですが、まず、その前提として、平成8年の議論をされてこういう結論が出ていると、それでいいのではないかという話は、では、今の実務はこれに沿ってされているという認識なのかどうかというのが、ちょっと私は疑問なんですね。
この財産分与については、清算的要素、扶養的要素、慰謝料的要素があると習ってきましたけれども、現実に実務でやっていることは、清算的要素のみといってもいいのではないかと思っています。慰謝料について若干協議されることはありますが、結局慰謝料を請求する場合は別に請求を立てるので、財産分与の中に入れていないと。そして、財産分与の実務においては、今、夫婦財産一覧表とか財産分与対象一覧表とかいうものを作って、それぞれの名義の財産を挙げて、別居時の財産の価値を考えてそれを合算して半分にするという実務が一般的ではないかと思います。本当に清算的要素だけでやっているのではないかと、私は感じています。なので、これを入れることによって、今の実務が変わるという前提なのか、今の実務はこれに従ってやっているので、それでいいのではないかということによって、かなり違うのではないかと思います。
そういう意味では、私は、補償的な要素というのがきちんと入るような規定にしていただきたいと思いますし、その平成8年のときの答申でも、そういう清算的要素と扶養ないしは補償的要素、そして慰謝料的要素を包摂するものとして定めるとなっていたのではないかと思います。
また衡平ということについて、何が衡平なのかということも、一言申し上げたいと思います。清算的要素ということを考える場合、例えば、住宅ローン付の住宅、これ、プラスマイナスするとゼロになるとすると、財産分与すべき財産はないとされてしまいます。あるいは、借金がある、定期預金がある、これもプラスマイナスするとゼロであれば、分与すべき財産はないとされていますが、稼得能力を失っていない人は、その財産を保持したまま、借金、住宅ローンを少しずつ返していけば、結局その財産を自分のものにしていけるわけですけれども、稼得能力がない人は、何ももらうものがないし、もちろん払うべきものもありませんけれども、例えば、パートで厳しい生活をしないといけないとか、あるいは生活保護を受けなければいけないとかいうような形になって、果たしてこれが衡平なのかという問題があると思います。
それから、もう一つは、後で財産開示の問題が出てきますけれども、開示のところで、婚姻前に取得した財産も開示しろというのがあります。婚姻前に取得した財産、あるいは婚姻後でも相続によって得た財産は、夫婦で共同して得た財産ではないので、財産分与の対象財産ではないとされていますが、では、それがあるから、扶養的な要素、補償的要素を考えないでいいということにつながっていくんでしょうか。元々自分が持っていた財産や、あるいは夫婦が関与せずに得た財産を食いつぶして離婚後の生活を保持していく人と、それを確保しながら新しく得た収入で生活していく人がいるというのは、前者の人は、婚姻中に努力して財産を形成しても、それについて何らの見返りがないということになって、果たしてこれが衡平なのかと思います。清算的な要素を考える場合でも、衡平とは何かということをきちんと考えるべきであるし、それを補うという意味でも、補償的な要素というのが明確になるような規定の仕方をするべきではないかと思います。
○大村部会長 ありがとうございます。原田委員からは、幾つかの具体的な場面を想定した御意見もありましたが、全体としては、①、②、③が現在考慮されているかというと、必ずしもそうではないので、②を改めて強調する必要があるという御意見を頂いたと思います。
繰り返しになりますけれども、前回の議論の際に、ここのところについて皆様の意見が一致しないということで、事務当局としては、従来使われている衡平という言葉を使った平成8年案を掲げている、扶養的あるいは補償的要素は、この言葉に含まれているということで出されていると、私は受け止めておりますけれども、窪田委員からの御発言の前に、この辺りの経緯をご存じなのはもう水野委員だけなので、もし差し支えなければ、平成8年の案のこの部分の言葉遣いについて、少し補足していただけますか。