連れ去り後は戦略的共同養育
連れ去りに遭って情報不足あるいは情報過多に溺れる方に基本知識を提供したく連載状態になっている
思い余って,ボリューミーな発信となってしまった
どうしても,理念的なメッセージに偏ってしまうので,もう少し整理したい
1.3点セットについて
いわゆる,監護者指定・子の引き渡し請求,その保全の申立ては,できるならばした方がいい
(メリット)
・夫婦問題と親子問題を早期に切り離す
・配偶者としての不適切性と親としての不適切性が重なるとは限らないので,離婚請求側も,最初は,離婚事由と重ねて表現したものが,だんだん言い分が苦しくなることもある
・能動的なアクションのため,いわば法的手続きの先手をとることで,でっち上げを抑止することに役立つことができる
・親子関係と子の福祉の重要性を事件早期に共有することができる
・面会交流の重要性に向き合い,早期再会が叶う場合がある
・同居中の養育環境について早期に調査されることができる
・事件を通じて,早期に面会交流が実現する場合があり,子どもが安心する
・子の監護に関する陳述書の中で,養育計画に向き合うことができ,環境調整に着手しやすくなる(仕事や住居の柔軟化)
・調査官調査により,養育環境の客観化が叶う
もちろん,いいことばかりではない
(デメリット)
・下手をしたら,子の奪い合いをしているものと誤解され葛藤を高めかねない
・請求認容の判断を得る場合は極限られているのに,ゴールを見誤ると負け戦路線に固定してしまうことがある
それでも,親子を守るには,有効かつ唯一の手段といえる
タイミングや費用の問題のために,依頼の全件ではないけども,毎年数件扱う中で,たまには保全が認められてお子さんが戻るケースもあるとはいえ,多くは保全を取下げたりすることもあるし,調停に移行することもあるが,いずれの場合もその手続きが無駄になったと思うことはなく,申立に後悔を覚えない
たとえ,相手の方が監護者と指定されたり,子の引き渡し請求が棄却されることになったとしても,だ
ただ,むやみな奪い合い,父母同士の罵り合いになってしまえばやはり意味を失うので,専門的な配慮が必須とは思う・・・取下げや,和解的に解決するための柔軟性も,独りだったり,理解を欠く代理人と一緒に突き進んでしまえば,大きな喪失となることもある
2.離婚調停の対応
1.と並行しているか,独自か,併合しているかはともかく,離婚調停の対応が必要な場合がある
離婚に応じるか否か,親権の主張の強弱のさじ加減が難しい
離婚しない,あるいは,親権は譲らない,と言い切るだけでは,1・2回で調停は不成立だったり,取下げによって終わるだろう
条件次第でいずれも検討していく姿勢をちらつかせることによって,かえって,時間をかけた慎重かつ有益な協議が叶う場合がある
定められた運命に向かっているということを忘れることなく,この条件整備のための協議についてこそ戦略的な対応が必要になってくる
財産分与の協議が,意外に,気を逸らしながら,手続きを足踏みさせ,そういう時間が経過する間に,面会交流実現に向けてのアプローチが有効なことがある
養育費等を算定するための年収資料等を集める作業と並行して,面会交流の機会を狙いにいく・・・全く断絶している状態であれば,まずは再会することを何よりもの優先事項に位置づけるし,多少制約的な場合であっても,まず会うことを優先的に受け入れた方がいい
最初から,5分5分の共同養育を明日から始めない限り離婚条件の協議は応じない,とでも言ってしまったらNGである
協議の土俵から退場することになりかねない
対応方法としての絶対といえる正解はなくて,事案によりけりではあるけども,面会交流0状態から,脱する条件がある場合,月1でも離婚に応じた方がよい場合もあるし,面会交流自体は実現している中で,制約的に感じられる条件の改善(宿泊が叶うとか,時間や頻度が向上する,とか)を条件に盛り込めるならば離婚に応じるといった駆け引きがありうる
共同養育的な条件を引き出すために,離婚を受け入れ親権を手放すことが武器になる・・・が実際,使い方はとっても難しいことがある
3.面会交流調停
離婚協議の中で面会交流が実現しない場合には,独立させた交渉・協議が必要になってくる・・・監護者指定とも切り離した中では,同居親・別居親の立場が固定した中での面会交流協議は,実は難航するかもしれない
ここで念頭に置いておくべきことは,面会交流調停は何度も申立てが可能であること,最初から,潤沢な交流にこだわらない心構えが有効であるという知識だ
親子が会えない時間を極力短くすることが大切であり,そのためには,潤沢な頻度や時間が犠牲になることがあっても割り切った方がいいことがある
ハイレベルな交流(共同養育に匹敵するもの)を求めすぎて,結局断絶状態が続けば続くほど,その理想的な交流がどんどん遠のくことになってしまう
支援機関の利用が提案されることもあり,抵抗を覚えるのも当然ではあるが,当初支援機関の利用を求めていたのは同居親だったのに,いつしか,確実な履行を約束しやすくなるために別居親の方が支援機関の利用を希望することがある,といった話もきく
知らないから抵抗を覚えるのであり,数ある支援機関の理念や特性,費用等を熟知するようになると,一層面会交流の実現に近づくし,拡充や卒業を狙いやすい
知識の闘いが勝負を決めることになる
理想的な面会交流を描き,親子の時間を積み重ねていくこと,そのための目的を見失ってはならない
面会交流拡充のために有効な事情が何かについての理解を見誤ると,いたずらに父母間の葛藤を煽るだけということもあり,面会交流中の写真等の情報の活用も慎重でありたい
有効なのは,親子がいかに楽しく笑顔あふれる時間を過ごしていたか,子どもがもっと会いたいと言っていることを引き出すこと,である
また,面会交流といっても監護の一面もあるので,監護能力も問われる
子の年齢に応じて配慮する力も備えておかなければならない
いかに,潤沢な交流こそが子の福祉に適うものだと,えらい学者さんの論文に書いてある(輸入もの)といったところで,宿泊交流が認められるわけではない
子の年齢に応じて,トイレトレーニングやおねしょへの理解を備えているか,子の発達状況への理解と具体的対応力があるかどうかのプレゼンの方が有効だろう
宿泊して過ごしても大丈夫だ,という客観的信頼(+相手の信頼),もちろん親子関係の良好性,子どもの信頼も不可欠になってくる
面会交流調停においては,あらゆる文献が役に立つことはないということも知っておきたい
その上で,時々,月2回や宿泊交流を認める「審判」を獲得する例もあるから,諦めることなく,裁判所を味方にするような親としての誠実な姿勢を見せ続けることを心がけたい
4.離婚訴訟の対応
面会交流は,面会交流事件を通じて段階的に拡充するとして,離婚の問題が決着がついていないこともある
連れ去り後面会交流のための協議が重なるあまり,離婚訴訟まで期間が開くということも実際にあり得る
離婚事由の当否より,別居期間を長期化させるためなのかもしれないが,そうすると,離婚訴訟の提起により,いよいよ離婚の判決がほぼ運命として定められていることを改めて肝に銘じたい
その上で,離婚訴訟は,親子を守る最後の大舞台である
すでに長らく別居している状態ではあったとしても,いよいよ離婚し,父母の一方の親権が失われることの重みを今一度理解したい
氏が変わるかもしれない,親以外の第三者が養子縁組によって親権者になってしまうかもしれない
お子さんの年齢があまりに幼いとそういう環境の変化に対する対応力があまりに無防備で弱い
アイデンティティの育成にも支障を招きかねないからこそ,たとえ別居状態でも離婚の成立を遅らせること自体に意味があることも理解可能である
ただ,いたずらに対立を激化するようなことがあっては不幸だし,あくまで,離婚する運命を覚悟する中で,子どものためにどこまで建設的な養育計画を確立できるか,そのための情報提供をするステージへと,離婚訴訟を活用する余地があるのである
このヒントに気づいた裁判官が,あえて,和解的解決を試みてくれるのもチャンスだし,そういうチャンスを逃さないよう柔軟性を失ってはならないものの,基本的な姿勢としては,子の福祉のために親子を守る闘いの宣言が有効である
闘うといっても,非難されるべきは日本の制度であり,配偶者ではない
むしろ,他方親に対してもわが子の親であることへのリスペクトを欠かさず伝えていく機会にしていく
5.控訴審の実情
第一審で納得の和解ができるのであれば,それも1つの解決策としてお勧めしたいが,やむを得ず判決になることもある
だが,控訴審では,意外にもう一度和解のチャンスがあることがあり,この機会を大切にしたい
第一審判決が出たあととあって,ある程度の方向が見えるからこそ,裁判官も和解的解決を強く勧めることがある
現実的な折り合いをつけやすいのが控訴審である
とはいえ,たとえば氏を守るという目的がある場合には,最高裁まで事件を係属させるだけでも,実はその方が意味を感じるというのであればその選択肢も可能である
婚姻費用が負担にはなるが,共同親権(婚姻中)を守る試みでもある
それでも結論は変わらないではないかという悲観的な評価もあるのかもしれないが,ここまで粘る間,お子さんが成長することで,事件が変化することはある
別居当時はあまりに幼くて,片親と会うことができていないことについての問題の自覚すらないこともあり得る(親としての認識がないこともある)ことが,事件が係属する中で,成長し,幼いながらも,お友達には両親がいることを知りはじめ,会えていない親のことを想うようになることもある
そうすると,親を知るための子の権利でもある面会交流のあり方に自ずと変化が求められ,進展することがある
早期に離婚が成立していれば,そのまま親子断絶が固定してしまいかねないリスクを想うと否定できない
戦略的に検討した方がいい事情である
6.婚姻費用について
切り放されつつも,意外に重く関連するのが,婚姻中負担することになる婚姻費用だ
養育費より重い
この負担が自身の生活を圧迫するような状況になると,戦略の幅が制限されていくことになる
最後まで,子どものために闘いたい,といってもコストが侮れないこともある
以前は,婚姻費用制度のあまりに理不尽な問題について,憲法違反を指摘して闘ったこともあった
それによって,支払い時期を遅らせる間に,義務者の生活を立て直すとともに,自尊心の回復をはかり,最終的には,未払い分の支払額が大きくなったとしても,意外に気持ちよく払うことで,人生の勝ちを得たような解決パターンもあったので,扱いは慎重を要するとはいえ争うことを否定しない
とはいえ,子どもと会っていくためには,最低限惜しまない方がいいこともあるので,最近は,むしろ仮払いの開始を勧めることもある
共同養育のための戦術として,位置づけ,前向きにとらえられるとチャンスが広がるともいえる
親子断絶を本気でするケースでは,むしろ養育費の送金すら拒み,受取拒否といって送金し返すようなこともあるのに比べれば,経済面について頼ってくる面は,共同養育につながる可能性を秘めているのである
送金することへの心理的抵抗があることもあるだろうが,折り合いの付け方については,合理的に検討したい
7.単独親権制違憲主張の使い方
相手を非難することは共同養育のためには避けたいが,かといって,要望に全部応じるような対応では,各裁判手続きが空回りしかねない
そこで,有効性を感じるのが単独親権制違憲主張である
最近の動きをピックアップすることで,相手を責めるでもなく,法曹(裁判官や相手の弁護士)や,相手本人に共同親権に関する時事情報を無難に提供し,考えてもらうことが有効である
報道記事をベースにするので,否定しようがない
意見は,自由だが,世界から批判されている制度の中で,どのように子の福祉を実現するのか問い質すことが,子の福祉を最低限守ることにも貢献するだろう
何より,全事件に共通できる主張でもあるので表現のコストがかからなくなる
最高裁まで闘うなんて,という割にはローコストで済むのである
共同親権弁護士の戦法公開の目的
上記のようにして,戦略的に共同養育を狙いにいく戦法があるからこそ,従来のやり方での離婚案件の扱いが変わってくることが期待できる
いつ解決するかもわからない連れ去り・親子断絶案件より,共同養育離婚の方が早期解決の見込みがある,と気づくと,通常の弁護士の離婚案件の扱いが変わってくるだろう(DV案件は,弁護士会が研修をさせて取りまとめているDV事件専門名簿掲載弁護士によって適切に処理されることになっていく)
何より,正しい情報提供の上で,早期離婚をしたいときにどちらを選ぶのか合理的に選択できる機会が充実することを願っている
共同親権弁護士にたどりつけば,早期に共同養育的協議離婚が成立し,調停もADRも知らずに無事解決,子の養育環境への不安なし,円満離婚で父母として尊重しあえる関係キープ・・・だいたい半年くらいで済んでしまい,おかげで新しいパートナーと幸せな生活のスタートといったことさえ起こりうる
5年闘って,結局共同養育離婚をすることになるのであれば,最初から,正しく知って,合理的に選択しておくと,家族それぞれが負った傷も浅く済んだかもしれないという振り返りをすることもあるかもしれない
協議・調停・訴訟・控訴審,どの場面であっても共同養育的離婚に成ることはあって,それが子育て世代にとって望ましい解決だという理解を裁判所ももっていると思われる
で,あれば,いろいろな事情があるのかもしれないけど,心のケアは早めに果たし,なるべく早い解決をすることが望ましい
時代は共同親権
法改正を待つことなく,新しい離婚が始まっているのである
早く移行したものから幸せになっていく