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Summer Pockets「アルカテイル」の歌詞について(ネタバレ有)

はじめに

本記事は株式会社ビジュアルアーツに所属するゲームブランドの一つである「key」から、2018年6月29日に発売されたADVゲーム「Summer Pockets」のOP曲&メインテーマソングである「アルカテイル」の歌詞の内容について考察した記事になります。

※記事の見出し画像で察するところはありますが、基本的にはゲームを全てクリアした方or「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ(通称デレステ)」のkeyコラボで曲を知って「ゲームをやる気は無いけど歌詞の意味は知りたい」という方向けのネタバレ記事になります。(ちゃんとゲームを購入して)クリアしてから知りたい!という人はお気をつけください。

美波が歌うのは彼女の今までのコンセプトにめちゃくちゃ合ってて80点以上だけど、個人的には歌詞的にU149の両親が忙しいあの子に歌ってほしかったのが少しある…。少しだけ。

歌詞内容の前に世界観説明(本編ネタバレ有り

この項は歌詞の内容に入る前に説明しなければならない「Summer Pockets」の要素を簡易的に記載していきます。「既にゲームはクリアしたから大丈夫!」という方は流し読み程度で、デレステのkeyコラボからこのゲームを知った、ほとんど内容を知らない人向けの内容になります。

【舞台】
「鳥白島(とりしろじま)」という島が主な舞台で、時代背景は2000年の7~8月の間の出来事になります。ちなみに時代背景については作中ではやんわりと叙述トリックぎみに明言されていませんし、実はこの時代背景が大きな意味を持つので最後まで意識させないようなつくりになっています。けどここはネタバレなんで最初から記載しておきます。
※「鳥白島」のモデルは岡山県と香川県の間にある直島、男木島、女木島になります。今年の夏に行こうと計画してたのですが、世の中アレでバタバタしていたので断念

【登場人物】
※いっぱい登場人物いるけど関係ある人だけに絞ります

鷹原 羽依里(たかはら はいり):主人公
夏休みを利用して島の外から祖母の遺品整理に来た青年
keyの主人公にしては珍しくあまり特徴が無いように見える(個人の感想

岬 鏡子(みさき きょうこ):どうして攻略できないんですか
羽依里に祖母の遺品整理を依頼した本人で、羽依里の母の妹(叔母)
主人公が滞在する祖母の家に住んでおり、色々と世話をしてくれる…わけではそんなにない
※養子である鏡子さんは、昔は祖母と同じ加藤姓だったが成人する際に苗字を実母の姓である岬に改名しているので未婚です。独身です。なんでルートないの。

鳴瀬 しろは(なるせ しろは):センターヒロイン
パッケージセンターにいる白髪の子
極度の人見知りで未来予知能力があるスイカバー狂人

加藤 うみ(かとう うみ):真ヒロインというか主人公
無印のパッケージにはいないけど本作の超重要人物なピンク髪のロリ
祖母の家を訪問すると同じく夏休みに一人で遊びに来ていたという主人公のはとこ(ということになっている)

【物語の流れ】
物語は主人公の羽依里が祖母の遺品整理を手伝ってほしいと鏡子さんに頼まれ、夏休み中に祖母の家がある鳥白島を訪れることから始まる。
最初は遺品整理を手伝おうとするが、まだその時じゃないから島で遊んでてと鏡子さんに言われ、仕方なく島を散策していくうちに色んなヒロインと交流しルートに入って気づけば遺品整理そっちのけでいちゃいちゃする構成になっています。
共通ルートでうみとも交流するのですが、その後の各ヒロインルートをクリアして最初に戻って別のヒロインのルートをやろうと周回していると段々と様子が変化していきます。
最初は小学生にしてはしっかりとしているのですが、ヒロインルートを終えるごとに言動が幼児退行していきます。最後のヒロインルートの時には見た目はそのままで幼児そのものになってしまい見るに耐えません。
明らかに異常な変化なのですがそれは共通ルートまでで、ヒロインルートに入るとしれっとフェードアウトするので本編の話にはあまり影響はしません。
そして全員のヒロインルートを終えると登場するkey恒例の真ルートである「ALKA」が開放されるのですが、このルートが実質うみルートになります。
様子は幼児退行したままですがうみと遊ぶようになり、他のヒロインのルートには入らなくなります。
途中から母親の事を思い出し寂しくなってしまったうみと一緒に、島で母親役をしてくれる人を探す流れになり、最終的にしろはが母親役として落ち着き、3人で家族のように夏休みを過ごすようになります。
幼児対抗したうみから「夏休みにやりたいこと」を知るため、絵日記を先に描かせ島のみんなで協力し夏休みにやりたいことを次々と実行していきます。
ここまでは微笑ましい話なのですが、途中から絵日記の内容に”未来を知っていないと分からない情報”が増えていき、未来が分かっているような言動も増えていきました。
そんなある日、うみが大事そうに持っている写真を見てしまい、そこには未来の日付で撮った覚えが無い自分が写っていました。ありえないと思いながらも羽依里は意を決してうみに未来から来たのか?と尋ねます。
するとうみが言葉足らずではありますが話をし、以下の事が分かります。

・自分は未来人であること
・自分は羽依里としろはの子供であること
・未来のしろはは自分を産んでまもなく死んだこと
・しろはの事をほとんど知らず、父親(羽依里)とも上手くいっていなかったため、母親であるしろはに会いたくてこの過去に来たこと
・過去に来ては未来に戻りを繰り返していること(全部のヒロインルートの情報を知っている)

【話の顚末】
上記の事情を知った2人は絵日記に描かれたやりたいことを最後まで一緒に楽しむことにしました。
しかし段々と島の住民や2人の中からうみの記憶が無くなっていき、夏休み終盤では遂にうみの姿も消え、記憶もほぼ完全に無くなってしまいます。それでも2人は「何かは分からないが大事な事を忘れている」状態で何かを思い出すために「誰か」と約束をしていた花火を2人で見にいきます。
花火の途中でうみのを思い出し認識できるようにはなりましたが、少し話をした後に「やりたいことはぜんぶかなったから」「いっしょにすごせてたのしかった」と言葉を残しうみはまた消えてしまい、泣きながらも2人は完全に「誰か」のことを忘れてしまいます。

歌詞考察

前項で世界観の説明が終わったところで、本題の歌詞を見ていきます。

伝える言葉は決めていたはずなのに
変わることのない景色に目をそらしてた
小さな勇気が欲しくてうつむいた
白い眩しさだけに焦がれていた

夏を書き綴るノートの終わりが近づいてくる
やがて訪れる日には せめて笑顔のままで
手を振りたくて・・・

歩き続ける事でしか届かないものがあるよ
今も温かな手のぬくもりを探し続けている
いくつもの優しさを繋いでも辿り着けないから
今も何度でもボクは夏の面影の中
繰り返すよ

静寂をさまよう一片の幼子は
つかの間のゆりかごの中 目を閉じていた
夢から目覚めるその時がくるまで
白い眩しさに包まれている

夏の足跡を追いかけボクは思い出をこぼす
何が悲しいのかさえ忘れてしまうけれど
立ち止まれない

歩き続ける事でしか残せないものがあるよ
あの日途切れてしまった言葉を繋ぎ止めたいだけ
風が涙をさらったとしても忘れないで欲しい
声が届かなくても 夏を刻む花火を
見た記憶を・・・

「もう一度だけ」とボクは空を指す ←歌詞カードに無い部分です

羽ばたいた数を数え空を舞う羽は
小さな勇気でいつも眩しさだけ求め続けていた

歩き続ける事でしか届かないものがあるよ
今も温かな手のぬくもりを探し続けている
いくつもの優しさを繋いでも辿り着けないから
今も何度でもボクは夏の面影を
振り返るよ

私の中での前提としてこの歌を歌っているのは『うみ』だと考えています。
それを踏まえた上で以降少しずつ考察していきます。

伝える言葉は決めていたはずなのに
変わることのない景色に目をそらしてた
小さな勇気が欲しくてうつむいた
白い眩しさだけに焦がれていた

うみからすればしろははほとんど会った事の無い母親で、会うために能力を使って過去にやってきました。最終的にはしろはを救うためにやってきたのですが、夏休みを一緒に過ごしたいうみの心情が読めます。
白い眩しさ=しろはに焦がれてこの時代にやってきたのですから。

夏を書き綴るノートの終わりが近づいてくる
やがて訪れる日には せめて笑顔のままで
手を振りたくて・・・

ノートは作中に出てくるうみのノートでしょう。うみはやがて訪れる別れの日までの全てを知っているため、ノートの終わり=夏休みの終わり=今回のループの終わりと解釈しています。

歩き続ける事でしか届かないものがあるよ
今も温かな手のぬくもりを探し続けている
いくつもの優しさを繋いでも辿り着けないから
今も何度でもボクは夏の面影の中
繰り返すよ

作中での主人公視点の各ヒロインルート以外にも、うみは数え切れないループを繰り返している表れです。温かな手のぬくもりはしろはのことでしょう。いくつもの優しさは島の住民や蝶に関わる人たちのことだと考えています。それでもしろはが助かるところまで辿り着けず、夏の面影の中=夏休みをループしていきます。これが1番の終わりという配置も良いですね。

静寂をさまよう一片の幼子は
つかの間のゆりかごの中 目を閉じていた
夢から目覚めるその時がくるまで
白い眩しさに包まれている

1番と同じく、母親であるしろはへの想いが2番の最初に来ています。厳密ではないですが作中でもループは毎回うみが現在から消えて、未来でしろはから生まれて、しろはが死んで、その後ループを開始する流れになっています。うみにとってはしろはから生まれることでループが開始されるので、歌詞の最初ではまだ赤ん坊の状態であり、歌の中でもうみがループしている構図になっていると考えます。

夏の足跡を追いかけボクは思い出をこぼす
何が悲しいのかさえ忘れてしまうけれど
立ち止まれない

ヒロインルートをやっている時に気づいたかもしれませんが、だんだんとうみが幼くなっている部分になります。ループするごとにうみとして存在するための力が段々と失われていくのを「思い出をこぼす」と表現しています。自分が何を目的にループしているのかも忘れてしまうほどに壊れてしまいますが、それでもループを止めることはできません。

歩き続ける事でしか残せないものがあるよ
あの日途切れてしまった言葉を繋ぎ止めたいだけ
風が涙をさらったとしても忘れないで欲しい
声が届かなくても 夏を刻む花火を
見た記憶を・・・

「あの日途切れてしまった言葉」が何を指すのかは色々ありますが、シーンとしてはALCAルートの花火の場面でしょう。2番の終わりとALCAルートの終わりをリンクさせていてこれまたうみ視点での時系列と完全一致しています。作中ではALCAルートでやっと親子として接することが出来たと見ていますが、うみ視点ではもしかしたら膨大な数のループをしており、このALCAルートに近い状況を何度も経験しているのかもしれません。そう考えるときつい。

「もう一度だけ」とボクは空を指す ←歌詞カードに無い部分です

羽ばたいた数を数え空を舞う羽は
小さな勇気でいつも眩しさだけ求め続けていた

この記事のために今一度曲を聞きなおしていたのですが、唯一歌詞カードに無い部分がありました。衝撃でした。歌詞の流れでは「もう何をしているか分からない」状態でループをしていると思っていたのですが、ループする度に明確にうみ自信の意思で「もう一度」を何度も繰り返していることが分かりました。これはうみがループする際の心情であり、物語には一切含まれないため歌詞に無い=物語には載らない部分と考え、そこまで考えて曲を作っているのかと思うと少し怖くなりました(褒め)
羽ばたいた数はループの回数で、ずっと眩しさを求めて飛び続けていることが分かるのですが、ここで変化があるのが眩しさに「白い」が付かなくなり、眩しさが必ずしもしろはに限定されなくなっていることです。父親である羽依里のことか(しろはが亡くなってからはあまり相手をしてくれていない描写があるため)、それともあの夏休み全体の事かは分かりませんが、当初はしろはを求めて始めたループも、いつしか眩しさ全てを求めるように変化したと考えています。

歩き続ける事でしか届かないものがあるよ
今も温かな手のぬくもりを探し続けている
いくつもの優しさを繋いでも辿り着けないから
今も何度でもボクは夏の面影を
振り返るよ

最後の大サビになります。
1,2,3行目は1番のサビと同じですが、4行目から変化が表れます。
1番では「今も何度でもボクは夏の面影の中 繰り返すよ」でうみがまだ夏休みをループしていることを示していますが、ここでは「今も何度でもボクは夏の面影を 振り返るよ」で作中の夏の出来事がもう過去であることを示しています。ループが終了した後の世界線で島に羽依里がやってきますが、ひたすら蔵の整理をするだけで、島の住人とは夏休み中接することはありませんでした。蔵には今までの夏の思い出が収納されており、それをひたすら整理することで振り返っているのではと考えています。作中の時間軸としても歌詞としても「夏の物語」はここで終わりますが、最後の最後で羽依里は帰りの船から降り、島に残ってしまいます。これは「夏の物語」以降の話がここから始まったと考えており、夏休みという限定的な期間ではない新しい物語が始まったとも考えています。島に残ってしまった理由として「チャーハンの作り方を教えてほしい」としろはに告げた後に「ではネタバラシです」と言わんばかりに「アルカテイル」が流れてゲームが終了します。ここで最初聞いたときに今まで記載してきた歌詞の意味が全て繋がり、OPから壮大なネタバレをされていたと気づきました。
世界観説明でも触れていますが、ゲーム内本編の時間軸は年代で見るとかなり古く、逆にうみが生きている時代が今の私達の年代に近いということを知ったときは驚きました。うみがスマホとかログインボーナスとか言ってもそりゃ当時の人達は理解できませんね。島という隔離されている環境かつ「島暮らしは少し古めなあんな感じ」というプレイヤーの心理を突いてALCAルートまであえて年代をオープンにはしていなかったのも上手かったです
歌詞の夏の面影は本編の時間軸のことを言っており、振り返るよで締められるこの歌は、当時2000年代初頭に夏休みを経験した大人達(このゲームのプレイヤー層)に対しての作品であるという考察を読んだときはとても頷きました。今は大人になった人達に向けての、夏休みを振り返ってもらうゲームとして作られたのかもしれません。

余談

歌詞の説明は終わりましたが少し余談を。
実は同じゲーム内で羽未の重要な場面で流れる「羽のゆりかご」という曲で以下の歌詞があります。

ゆりかごに
小さな蝶 そっととまった
歌うあなたの 横顔触れたい
もう夢をみない 眠りにつくの
七つ海越えて
旅の終わり見つけたら

「七つ海越えて」とありますが、これは作中で他のキャラの台詞にも登場している言葉で、概念的ではありますが確かに存在する「海」が複数あることを示唆しています。私はこの「海」はうみ以外のヒロインルートの数だと思っていました。既存の「Summer Pockets」ではヒロインが4人で、「海」は4つしか越えていないので、まだ旅の終わり(しろはが未来予知の能力を手に入れず羽未が過去に羽ばたかない)を見つけることが出来ず、希望があるEDでしたが不確定な状態で締められています。
しかし今度発売される「Summer Pockets REFLECTION BLUE」ではヒロインルートが3つ追加され、既存のヒロインと合わせてルートが7つになります。更に現段階でうみのルート追加が明言されているため、7つの「海」を超えた後に何かしらの明確な救いのある変化があることを期待しています。

おわりに

歌詞考察&新作の期待を兼ねた考察をここまで読んでいただきありがとうございました。
私事にはなりますが、この記事を作成する少し前に友人にゲームを勧め「クリアして唸ってくれたら夏休みの時期に一緒に聖地巡礼しようぜ」と約束していたのですが、昨今のコロナウィルスの影響により遠出の旅行はおろか、普段の外出もままならない状態で開催がとても怪しくなっています。
しかしここは我慢して、作中のみんなのように現実の子供達が夏休みの時期に楽しく遊べられるような環境に戻るまで事態が収束することを願っております。

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