僕が鉄砲を構えるまでに。 ~漸くの邂逅~
僕は鉄砲を構える前に、獲物を見つけた。
前回、北へ旅立つことを決めた僕。
目指すは北の何かいい感じの川!
北へ。
高速に乗ってたどり着いたのは、自宅から1時間半くらいの所にある、自然溢れる小さな町。
当時、原発事故の最終処分場候補地になっていたこの地には、至る所に反対運動の看板が掲げられていた。
山や川に囲まれた自然豊かな風景と、反対運動の不穏な空気を孕む看板のミスマッチさが何とも言えない雰囲気を作り出していた。
しばらくその辺をうろうろし、何となく目星を付けておいた川へ。
そこそこの川幅があり、また周囲にも支流や雑木林があって、今思えば1日そこにいれば色々獲れたんだろうな~というような場所(もちろん銃猟可)。
しかしそこはただの素人。
うろうろ、うろうろ。
支流を渡り、雑木林を抜け、本流へ。
本当は支流を中心に攻めた方が色々いるんだけど、当時の自分は鴨は大きな川にいるもんだと思ってた。
遠くに鴨がいるような気がするけど、良く見えないし良く分からない。
何より現在地と川面に高低差がありすぎて、崖みたいになってる。
何だか・・・疲れたな。
獲物との邂逅。
最初の川では何とも出会わず、少し場所を移動。
川から少し遠い、開けた河川敷にやってきた。
もう、ここで獲れなかったら諦めて帰ろう、と思いながら河川敷をうろうろ。
天気も良くて、少し風があって、気持ち良いな~なんて思いながらぼうっと突っ立ってた。
もはや獲物を探すなんてことも忘れかけてた。
そんな訳で良い感じに殺気が薄れたのか、少し離れた背後の木にパタパタっと1羽の鳥が。
一気に跳ね上がる心臓。
目の端で鳥の姿を追う。
ヒヨドリだ。
そんな風に一目で断定できる程の経験は持ち合わせている筈もなく。
ヒヨドリ…?ヒヨドリだよな…違うか?いや。でもヒヨドリっぽい。てことは撃てるんだよな…。どうする?撃つ?え、ヒヨドリだよな…?違う?いやいや…
みたいな感じで、頭の中ではものすごい勢いで逡巡していた。
逡巡しながらも、手はゆっくりとポケットの中へ。
弾を出そうとするが、そんな時に限って引っ掛かってしまい、うまく出てこない。
焦る、焦る。
ヒヨドリはまだ逃げない。
なんとか弾を装填し、ゆっくりと銃口を上げる。
そうして僕は、鉄砲を構えた。