僕は鉄砲を構えた。
ひょろっとした細長い木の、ほぼてっぺん。
狩猟を始める前には良く見かけた鳥。
狩猟を始めた途端、めっきり見なくなった鳥。
ヒヨドリ。
今になって思えば探し方が悪かっただけで、どこにでもいる。
そして鉄砲を構え、銃口を向けた先にも、いる。
弾は装填されている。
セーフティも外している。
指は引き金。
それでも尚、頭の中は逡巡している。
引き金を引いた。
ヒヨドリだよね?
ヒヨドリだよな?
どう見たってヒヨドリなんだけど、ギリギリまで頭の中はそれがヒヨドリなのか疑う自分がいた。
命を奪うということに対しての、無意識の抵抗だったのかもしれない。
それでも十分に狙いを定めて、そして引き金を引いた。
ヒヨドリを見つけてから引き金を引くまで、おそらくは20秒、いや、10秒足らずだったかもしれない。
フル回転した頭の中は、それがすごく長く感じた。
初めて射撃場以外で聞く銃声は、ガーン!とかダーン!といった間延びした音ではなく、バン!!という破裂音に近かった。
ヒヨドリはフッと力が抜けたように枝から落ちて、そしてすぐ下の枝に引っ掛かった。
自分で撃っておきながら、一瞬何が起きたのか分からなかった。
一呼吸おいて、「あ。当たったんだ。」と思った。
手に取る。
次に思ったことは、「回収しなきゃ」だった。
もちろん、撃って終わりではない。
最終目標は「食べる」だ。
ヒヨドリは今、枝に引っ掛かっている。
太い木ではなかったので、揺らせば落とせるかな、なんて思いながら近づいた。
木の近くまで来ると、不意にバサっとヒヨドリは落ちてきた。
拾い上げる。
初めて触れる、野生の鳥。
驚いたことに、まだ息があった。
ククっと一瞬首を上げ、こちらを見て、そして息絶えた。
何とも言えない気分だった。
高揚はしていたけれど、やったーーー!という感じではなく、ただただ「感謝」という気持ちだった。
その日はそれ以上猟を続ける気は全くなく、近くの川で拙いながらもヒヨドリの内臓を抜き、その地を後にした。
食べる。
自宅に戻り、ヒヨドリの羽根を抜く。
カルガモの羽根を毟ったことはあったけど、それより何倍も難しい。
羽根と一緒に皮が破れてしまって、なんだか良く分からないことになった。
未だにヒヨドリの羽根は上手く抜けない。
それでも大切に大切に扱い、ヒヨドリはその晩焼き鳥になった。
小皿で十分な大きさ。
「祝杯だ」とか言って珍しくお酒を開けたような気もする。
妻は手を出さなかった。
とにかく力強い味。
美味しかった。
その日、僕は猟師になった。