とある物語
あるところに、りなちゃんという女の子がいました。
りなちゃんは、四人家族です。
りなちゃんには、お兄ちゃんがいます。
名前は、ゆうたくんといいます。
ゆうたくんは、じへいしょうです。
みずからをとざす、と書いて、自閉症です。
お母さんとお父さんは、ゆうたくんのおせわが大変で、いつもゆうたくんにつきっきりです。
「ごめんね、りな、お兄ちゃんのためにがまんしてくれる?」
どうして、お兄ちゃんばっかり?
どうして、わたしはがまんしなくちゃいけないの?
「りなはもうお姉ちゃんなんだから、しっかりするんだぞ。」
なんで、お兄ちゃんにはそんなこと言わないのに、妹のわたしには言うの?
まだ小さいりなちゃんは、ゆうたくんがどんなしょうがいを持っているのか、よく分かっていません。
ただ分かることは、ふつうの人がかんたんにできることも、ゆうたくんにはむずかしい、そういうことくらいでした。
りなちゃんは、ゆうたくんのことが好きではありませんでした。
ゆうたくんはいっしょに歩いていても、急におかしな動きをしはじめたり、変な声を出してさわぎだしたりします。
そうすると、いつも周りの人にジロジロと見られます。
そしてなにより、りなちゃんにとって、お母さんたちをひとりじめされることが、一番いやでした。
なのでりなちゃんは、ゆうたくんとあまりいっしょにいたがりませんでした。
ある日、小学校にいたときのことです。
教室では、お友だちがわいわいお話をしています。
「ねえねえ、そういえばね、今日、変な人見たの。」
「え、なにそれー。どんな人?」
「えっとね、電車にのってた時、となりにいたおじさん!いきなり大声で、次は○○駅~○○駅~ってしゃべりはじめたの!すごくうるさかった。」
「えーー!うるさいね。」
「それにね、そのおじさん、手をこんな風に動かしながら電車の中を歩きまわってたんだ。」
お友だちは、手を顔の前でパタパタと動かしはじめました。
その動きは、りなちゃんがよく見たことのある動きでした。
「あ!そういう人、うちも会ったことある!ママにそのこと言ったら、変な人に会ったら近づいちゃダメって言われたよ!へんしつしゃ?っていうんだって!」
「そうなんだ!気をつけなきゃね~」
りなちゃんは、そのおじさんがへんしつしゃではないことが、分かっていました。
そのおじさんは、きっと、自閉症。
わたしのお兄ちゃんと同じ、しょうがい。
でもりなちゃんは、お友だちにそのことは言えませんでした。
りなちゃんは、人よりできないことがたくさんあるお兄ちゃんを、少しはずかしく思っていたからです。
りなちゃんは、家に帰ったあと、本だなにあるマンガに手をのばしました。
そのマンガは、自閉症の男の子が主人公のマンガです。
今まで読もうともしなかったそのマンガを、読んでみることにしました。
マンガはむずかしい言葉や漢字があって全てはりかいできませんでしたが、なんとなく、自閉症のことが分かったような気がしました。
自閉症というしょうがい者は、周りの人からたくさんかんちがいされやすいのだと、りなちゃんはそこで初めて知りました。
自閉症を知らない人は、その人たちを変な人と呼ぶ。へんしつしゃと呼ぶ。
中には親の育て方が悪いと思っている人もいる。
しょうがいのことを知っている人だって、バカにするために「しょうがい者」という言葉を使ったりする。
そのことに、りなちゃんはとてもしょうげきを受けました。
「しょうがい者」は、悪いことなの?
みんな、なりなくてなったわけじゃないのに。
りなちゃんは、ゆうたくんのことをはずかしいと思っていました。ですが、その話を知った時、りなちゃんは、そう思っていた自分がはずかしいと、思うようになりました。
それでもりなちゃんは、ゆうたくんがあまり好きになれません。お母さんたちをひとりじめするのは変わらないし、変なことするし、とむくれます。
まだ、りなちゃんは大人になりきれません。ですが、もうはずかしいと思うのはやめよう。そう思いました。
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あるところに、りなちゃんという女の子がいました。
りなちゃんは、四人家族です。
りなちゃんには、お兄ちゃんがいます。
名前は、ゆうたくんと言います。
ゆうたくんは、じへいしょうです。
みずからをとざす、と書いて、自閉症です。
でもゆうたくんは、決して暗い子ではありません。
よく笑う男の子です。
自閉症は、一生治ることのない、せんてんせいの脳のしょうがいです。
病気や、親の育て方がげんいんではありません。
苦手なことがたくさんあります。
でも、ゆうたくんは、国の名前を覚えるのがとくいです。
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ゆうたくんは、りなちゃんや他の人たちと同じ、人間です。
end