「世界ウルルン滞在記」のホラー版! 監督の変態ぶりが炸裂した『ミッドサマー』
〝都市伝説〟がお好きな方、お待たせしました。
〝実録! 行ってはいけない世界の村〟などのいかにも宝島社が出版しそうな本があったら間違いなく買っちゃう方、お待たせしました。
「やっぱり日曜の夜に楽しみにしてた番組って『世界ウルルン滞在記』だよね〜」という同世代の方、お待たせしました。
〝映画は体験だ〟などと言いますが、
都市伝説に出てくる秘境や未開の土地での出来事をまさに体験できる、ホラー版「世界ウルルン滞在記」とも言うべき映画がこちら、
『ミッドサマー』です!(大声)
※この場合の〝ウルルン〟は少なくとも感動の涙ではない…
監督・脚本は、本作の製作発表会のインタビューで
「みんなが不安になってくれるといいな」
という変態発言をしていたアリ・アスター監督。(最高ですね…)
こんなご時世だし、不安になりたくない人は観ちゃダメ案件だ!
(そもそも映画館で新作をみることが叶わない今日この頃、まずはみんなでこの日々を乗りきりましょう!)
アリ監督といえば、前作『ヘレディタリー/継承』が大ヒット。
個人的な話をすると、ここ数年ホラー映画を観るのが歳を重ねるごとに怖くなって、
『ヘレディタリー/継承』については、評判を聞いて映画館まで行くもビビって別の作品を観たり、DVDをレンタルするもビビって観ないまま返したりが2回ほど続いたのちに、(観た人がめちゃくちゃ怖いって脅かすから…)
「一緒に観てくれないか」とおなじみジェラードン西本を誘って、ついに鑑賞。
観てみたら、まぁ怖いのなんのって…!!
ただ…なんということでしょう。
観終わってすぐ、再び頭から観始めている自分がいたんですよ!
あんだけビビってたのに…。
理由は、
あまりに面白くて、〝恐怖〟よりも〝伏線確認したい欲〟が圧倒的に上回っちゃったから…!
もう速攻で見返したくなるほど、そもそもの脚本が激オモシロなんですよ!(しかも監督が脚本も書いてる!)
こがけん大好き名作ホラー『ゲット・アウト』の監督ジョーダン・ピールもそうですが、
近年、ハリウッドホラー映画界はセンスの塊みたいな監督をバンバン輩出していて、
『ヘレディタリ〜』で長編デビューしたアリ・アスター監督も間違いなく〝センスの塊〟といえるでしょう…というかこの人、〝センスのバケモノ〟です!(最上級褒め言葉)
今回の『ミッドサマー』も信頼のアリ・アスター品質。めちゃくちゃ楽しませてもらいました!
まずは劇場を出てすぐの僕とジェラードン西本のリアクションをご覧ください! (内容薄め…)ちなみに僕らが観たのはディレクターズカット版。通常版はまた改めて…。
あらすじ
家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる”90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。(公式サイトより)
女学生ダニーにとって家族の死というショッキングな出来事から始まる本作。
その後恋人クリスチャンからの誘いもあり、気分転換も兼ねてスウェーデン奥地の辺境の村で行われる9日間の祝祭に参加するため、恋人の学生仲間と旅に出る。
到着した村はまるで楽園のように美しくて村人もとっても親切。
けれど、そこで催される儀式は現代人のモラルからするとあり得ないショッキングな内容だった…(都市伝説好きな人はきっと楽しめる。ただ、グロ注意)。
あれあれ? この村人たち、ヤバめのカルトの人たちかも…と気づいた時にはもう遅い。
本作は、そこからひたすら
「ほら〜、言わんこっちゃない!」
な悪夢の展開が待っているのだ!
〝別れたい人〟と観るべき青春映画!? ※ややネタバレ
※ここから下はややネタバレ気味なので、気になる人はご注意ください!
〝未知の土地×無知な学生〟という、いかにもホラー映画あるあるのド真ん中をいく『ミッドサマー』。
ただ、この作品に〝村からの脱出を目的としたサバイバルホラー的ハラハラ要素〟を求めちゃうと、ある時点で「だめだこりゃ」と気持ちがドロップアウトしそうになるかもしれない。
というのも、彼らときたら生命の危険そっちのけで恋人と揉めたり、卒論のテーマに没頭したりと、びっくりするほど危機意識がうす〜い。「バカなの? ねぇ、バカなの?」とイライラすること請け合いだ。
けれど、だからこそこの映画で描かれる若者たちはリアルだともいえる。
いわゆるホラー映画の〝あるある〟とは違って、彼らは目の前の脅威を前に一致団結して抵抗することなく、ゆるやかにバラバラになっていく。
そして特に主人公ダニーと恋人クリスチャンとの関係性に関しては、
監督自身が〝自らの失恋体験〟を題材にしたというだけあって熱量が違う。(公開前のインタビューで「別れたほうがいいカップルに薦めて」と言っていた!どんな宣伝なんだよ!)
祝祭が進むにつれ、お互い相手に隠していた腹の中がめちゃくちゃグロテスクに暴かれていくさまは、
何が起こるか分からない不安と重なり、大いに観てるこちらの精神を削ってくる!(せめて二人だけでも仲良くしてくれという心の叫び…)
失恋とホラーってこんなに相性良かったのか…オーマイガー…。
青春時代の愚かさ、浅さ、儚さ…そんな誰しも身に覚えのある〝ほろ苦要素〟を不安MAXのざわざわ恐怖体験に仕立てる監督…
間違いなく変態だよ…!(褒めてる)
こがけんの「ここを観ろ!」 :凝りに凝りまくった美術
そんな『ミッドサマー』ならではの世界観を確かなものにするのが、作品全体を彩る凝りに凝った数々の〝美術〟だ。
ホラーのなかでもとくにビジュアルに凝りまくった、観る人の感覚的部分に訴えてくるタイプの本作。スクリーンに映し出される絵画や壁画やタペストリーをはじめ、衣装や過剰に咲き誇る花々からも〝ただ事ではない何か〟が伝わってくる。
おまけに、それらの〝美術〟にはちゃんと意味があり、
とくに絵画や壁画やタペストリーにはこの村で行われる祝祭とは? 学生たちの身に何が待ち受けているの? に対するヒントがこれでもかと描かれているのだ!(匂わす程度だと思ったら大間違い…)
だから、それらを注意深く観察しておくと、彼らの身に何かが起こるごとに、
「よっ! 待ってました!!」
や、
「はいはい、こういう感じできましたか〜。」
的楽しみ方ができ、
正直、これがかなり楽しい。(出来事そのものは怖いけど…)
作中で明確に伏線として機能するような分かりやすい絵画ももちろんあるんだけど、絵だけじゃ何のことかいまいち分からなかった事柄の全貌が明からになった時の爽快感は格別だ。
〝美術〟をもって〝祝祭〟を知る。
これが本作の魅力を余すところなく楽しむのにオススメの見方だ!
(そういえば、本編のこだわりっぷりを継承したパンフのクオリティも素晴らしかったですね)
あれって爆笑シーン!?
ところで、上にのせた僕とジェラードン西本の鑑賞直後の動画でもふれたように、思わず爆笑しちゃったシーンがあったんだけど(しかも僕ら二人だけが笑っていた…)、
ただこれが、監督が明確に笑かすつもりがあったのかどうかは微妙なシーンなんだよなぁ(ストーリー的にはけっこう佳境の重要なシーン)。
確かにホラーとコメディは〝緊張と緩和を効果的に使う〟という点で表裏一体のジャンルだし、
監督自身が「これはホラーではなく、おとぎ話でありダークコメディだ」と言っていたけど、
もしあのシーンで意識的に笑かそうと考えていたとしたら、
この監督はやっぱり変態としか言いようがないよ…!
もちろん僕と西本の感覚がズレてる可能性も大いにあるから、鑑賞後に〝もしや、あのシーンじゃないか〟と検討ついた人がいたらコメント欄でもいいから教えて欲しいな(【ネタバレ注意】の文言も加えてね)。
【おまけ】参考作品について
いろんなレビューですでに言及されていると思うけど、こういうタイプの〝辺境の土地で一般常識の通じない土着の慣習に恐怖するホラー映画〟は他にもあって、
『ウィッカーマン』(とくに1973年オリジナル版)や『グリーン・インフェルノ』がまさにそれにあたる。意外なところでは『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』なんかも同じ系普かも。
中でも『ウィッカーマン』は、モロに『ミッドサマー』なんですよね(監督も意識していたみたいで、あえて直前に観返さなかったらしい)。
この1973年版の『ウィッカーマン』、2017年にBle-ray、昨年はDVDが発売されていたもよう。僕が今から7年前にこの作品を観ようとした時は、サブスクはおろかレンタルDVDもなくて、新宿TSUTAYAでビデオを借りて観たものだった(なんとデッキも無料で貸し出してくれた)。
一方『グリーン・インフェルノ』(直訳すると『緑の地獄!』)は『食人族』のリメイク作品。『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』はコメディアクション映画だが、観てもらえれば言わんとすることがわかるはず。
映画館に行けないこのご時世、サブスクやネットレンタルやセルを駆使してチェックしてみてはどうでしょう〜。
まとめ
本作のストーリーはざっくり2つの要素に分けられる。
一方はヤバい村に足を踏み入れた学生たちを見舞う惨劇、もう一方は主人公ダニーと恋人クリスチャンとの関係性だ。
ホラー映画に主人公の恋愛が絡んでくるケースはとくに新しいことじゃないけど、本作が面白いのは、
惨劇よりむしろ、恋人二人の関係性が物語のメインだということ!
本作は、ただのホラー映画に収まらないひと味違う〝体験〟をしたい人にぜひオススメしたい。
「植物は調和を保つ術を知っている。機械的に役割を果たす」
これは物語の序盤、村に着く手前の原っぱで学生たちがドラッグをやっている時に、カルト村出身の学生ペレが言ったセリフ。
最初、植物に機械的って使うかね…ってところで、違和感があったんだけど、
あとあと改めて考えてみると、これこそが本作『ミッドサマー』の本質をうまいこと捉えてる言葉じゃん! と感心。
みなさんはこの言葉、本作を観たあとにどう捉えるのか…。
鑑賞後、感想を語り合うのが楽しいタイプの作品であることは間違いない。
『ミッドサマー』(2019)