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桜吹雪の記憶

 桜の季節になると思い出すことがある。

☆☆☆


 彼女はセーラー服のリボンを風にそよがせながら、校庭の隅にある一番大きな桜の木の下に立っていた。
 ゆっくりと近づいてゆくわたしの姿を見つけた彼女は、上気させた頬に、目一杯の緊張と喜びを浮かべ、足をもつれさせるように駆け寄ってくる。
 ああ、そんな風に走ると転ぶぞ。
 そう思いながら、わたしは彼女が待っていたことに初めて気づいたような微笑みを浮かべて、足を止める。
 案の定、彼女はわたしの傍に来る前に転んでしまった。
 わたしは苦笑しながらも駆け寄ってやり、彼女が立ち上がる手助けをする。
 手に手を取り合って、校庭の桜の木の下のべンチに誘導すると、彼女は涙ぐんでいた。

「お姉さまに、またこんな恥ずかしいところを見せてしまって……」

 涙ぐみながらも、今にも消え入りそうな風情で耳まで真っ赤に染めている。

「恥ずかしいと思うのなら、もう少し落ち着けば良い。校庭でも、この周辺は木々の根が地表に出ていて、走るのに適してはいないのだし、そもそもおまえはあまり俊敏ではないのだから……」


 説教をしかけて、ふと口をつぐんだ。
 長めの丈のスカートの裾から覗く二本の脛の片方に、血が赤い筋を作っている。

「ああ、血が出ているのか」

 わたしは屈み込み、ペンチに腰掛けさせた彼女の制服のスカートを少しめくり上げた。

「お、お姉さま!?」
「黙って」

 彼女のピンクの膝小僧には深い擦り傷ができており、そこからじわじわと赤い血が溢れている。

「応急手当をしなければ、な」

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